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「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

ウマさんのミーハー交遊録~その1~

2023年08月16日 | ウマさん便り

「ウマの、嬉し恥ずかしミーハー交遊録(こうゆうろく)」

娘たちによく云われます。「おとーちゃんはミーハーや…」

女房のキャロラインさんは、どんな有名人に会っても態度が全然変わらない人。だからウマみたいに有名人に会うとわくわくソワソワする人間は、余計にミーハーに見えるんやろなあ。ま、しゃーないよなあ。

 ウマがちょっと口をきいた有名人、ほんのひと言ふた言も含めるとけっこうたくさんいるよ。

坂本九、吉村まり、阿部公房、司馬遼太郎、大原麗子、サミー・ディヴィスJR、(無名時代の)村上春樹、ジュリエット・グレコ、ジューン・アダムス、伊丹十三、コシノヒロコ、市川吉衛門、加山雄三、田中邦衛、桂枝雀、桂三枝、桂文珍、和田アキコ、ディジー・ガレスピー、サラ・ボーン、カウント・ベイシー、横山フック、坂上二郎…、もっといると思う。 

30分以上口をきいたり、一緒に呑んだり食事をした有名人…

 日野皓正、中島らも、中井貴恵、長谷川きよし、小林麻美、高村薫(直木賞作家)、笑福亭鶴瓶、八千草薫、五代目桂米團治(小米朝)、五木寛之、C.W.ニコル、藤あや子、永島敏行、赤井英和、田辺聖子、斉藤由貴、風間トオル、藤原紀香、コシノヒロコ、元ゴールデンハーフのエヴァ…もっといると思う。

これもきりがない。ほんまかいな?と疑う人もいるでしょうね。しかしやね、こんな話、わざわざウソついてでっち上げてもしゃーないでしょうが。自慢にもならんし…

上記の有名人たちと御一緒した経緯(いきさつ)、いちいち、ああなるほどと、あなたが納得出来る説明は出来ますし証明も出来ますよ。ま、どうでもエエことやけど… 

ここでは、いままで御一緒したなかで、特に印象深い有名人…北村英治さん、中島らもさん、中井貴恵さん、永島敏行さん、そして藤原紀香さんの事などを…そうそう、藤あやこさんや八千草薫さんのことも書いとこうかな… 

まず、北村英治さん… 

ジャズ雑誌の人気投票、そのクラリネット部門で、もう半世紀もずっとナンバーワン、世界的に見てもトップミュージシャンです。

このきれいな白髪のクラリネット奏者とは、僕が企画・構成したディナーショーでお会いしたのが最初だった。僕のMC(司会)にずっこけるぐらい感心した彼と、その後、縁あってよくご一緒することとなった。プロモーターの仕事をしていた妹の純子は、仕事上、北村さんとは親しかったらしい。 

で、その日のステージ…、MCの僕はまず… 

…創成期のNHKの技師をしていたお父様が英国留学中に生まれたので英治と名付けられたんですよと切り出し、御両親・御兄弟は皆さんどなたも楽器を嗜(たしな)んだけど、五男坊の英治少年だけは音楽嫌いだった。

戦争で焼け出され、半分焼けたピアノの脇でサンマを焼き「これでピアノの練習をしなくて済む、あゝ嬉しい」…、そんな彼が如何(いか)にクラリネットに出逢い、如何に慶応大学在学中にプロデビューしたか…などなど、様々なエピソードを紹介したあとで彼をステージに呼び出した。

「さあ皆さん、世界最高のクラリネットをお楽しみください。北村家の偉大な五男坊、どうぞっ!」ステージの脇で北村さん、ずっこけてたそうです。 

大いに盛り上がったディナーショーのあとの打上げの席、もちろん北村さんの席は一番奥の上座です。僕はミュージシャンたちにサービスせんといかんから座敷の入り口の脇にいた。

「皆さんご苦労さんでした」と乾杯したあと、北村さんが 「ウマさん、ちょっとこちらに来て」とおっしゃる。で、一番上座の彼のところに行くと、なんと彼、脇の席に移り「ま、ここに座って」と、自分が座ってた席に僕を座らせるんです。つまり一番下座にいた僕が、一番上座に座っちゃったんです。

「ウマさん、きょうはほんとにありがとう」とわざわざおっしゃった(ふつうミュージシャンはそんなこと言わん)。 

「僕ね、長いことミュージシャンしてるけど、あんな風に紹介されたの初めて。もう、びっくりしちゃった」と、ニコニコ顔でかなりご機嫌なんです。そして

「僕ね、こんなの練習してるんですよ」と、ブリーフケースから赤茶けた古いモーツァルトの楽譜を出して僕に見せるんです。さらに

「今でも月に一度、芸大の先生についてクラリネットのレッスンを受けてるんですよ。ところがね、クラシックの世界では日本最高のその先生ね、僕よりうんと若い方なんだけど、彼がクラリネットを始めたきっかけが、僕のクラリネットを聞いたからなんですって。だからレッスンをお願いした時、とんでもないって、最初、断られちゃった。なんかおかしいよね」

この北村さんの話を聞いて、よく似た話を思い出した… 

 ラプソディ・イン・ブルーほか、数々の名曲を残したあの偉大な作曲家ジョージ・ガーシュイン…その彼が、現代音楽最大の巨匠ストランビンスキーに弟子入りを乞(こ)うた時、巨匠は 「あなたに教えることなんてありません」と困惑したという。  

双方どちらもスーパースター、その謙虚さを大いに感じるこのエピソード、僕はとても好きなんですよね。

世界でも最高峰のジャズクラリネット奏者・北村英治さんが、クラリネットを今でも習っておられる…、御本人から、超意外なその話を聞いた僕は、もう上座に座っていることなど忘れて感激しましたねえ。北村さんは

「ホラ、ウマさん、焼けてますよ」と、七輪の炭火焼の丹波ビーフを、僕のお皿に乗っけてくれました。 

 「ずいぶん以前の話なんだけど、ダブリンのジャズフェスティバルで演奏した時ね、一番前の席でハンカチを握(にぎ)りしめ食い入るように僕を見つめてる御婦人がいたのね。その彼女、あとで楽屋に来て、かなり興奮して僕に言うんです。

―エイジ!あなたのクラリネットでわたし失神しそうだわ―って…そして僕に強烈なハグしてほっぺに何度もキッスするんです。で、彼女が僕の歳を訊(き)くので64歳ですって答えたら、彼女、もう、すんごく喜んじゃって、あーらエイジ! 私の息子とおない歳だわ!ですって…」 

北村さんは、大阪での仕事を終えたあと、北新地にあったジャズクラブ、僕も親しいドラマー浜崎衛さん経営の「A-ラック」に寄るたびに僕に電話をくれた

「ウマさん、来ない?」

この店で、僕の親友と言っていいクラシックのピアニスト吉山輝の伴奏でクラリネットを吹いた北村さんには吉山も感激していた。ほんとに偉い人ってぜんぜん偉そうにしてないんだよね。

クラリネットを吹くために生まれてきた北村英治さん…そのクラリネットを支える右手親指に大きなタコがある北村英治さん…とても素敵な方です。いつまでもお元気で! 

中島らもさん… 

らもさんの灘高時代の一番の親友が僕の呑み仲間のシンちゃん。そのシンちゃんの結婚披露パーティーで、らもさんとは同じテーブルだった。

新郎新婦とも、日頃から僕の息子のジェイミーを可愛がってくれたので、ジェイミーもパーティーに呼ばれた。彼は七歳ぐらいだったかな。

らもさんの隣りにジェイミーが座ったのはちょっとまずかった。ジェイミーは好奇心旺盛なやつで、例えば、銭湯で「桜吹雪」や「昇り龍」の背中のおっちゃんをみると、すぐさまそのおっちゃんのところへ行き、「おっちゃんの背中、なんでこんなんやの?」 普通の子供やったら、まず親に訊くやろ「おとーちゃん、あのおっちゃんの背中、なんであんなんやの?」

で、らもさんのとなりに座ったジェイミー、さっそく好奇心を発揮した。

「おっちゃん、なんで毛が馬のしっぽみたいに長いの?」

「おっちゃん、なんで黒いメガネかけてんの?」

「おっちゃん、なんで帽子かぶってんの?」 

はじめ、「おっちゃん散髪代がないねん」などと答えていたらもさん、ジェイミーの止まらない質問の連発に、とうとう 「この子、なんとかしてください」 

当時、朝日新聞連載の「中島らもの明るい悩みの相談室」は、ひょうきんと云っていいその愉快な問答に、僕も含めて多くのファンがいたと思う。で、らもさんにお願いした。

「明るい悩みの相談室」に質問を投稿しようと思ってるんですけど、ぜひ僕の質問を採用していただきたい、つきましては、コレ賄賂(わいろ)です」たまたま持っていた英国の5ポンド紙幣を彼に渡そうとした。もちろん冗談ですよ。ところが、らもさん、超真面目に「そ、そんなん受け取れません」

誰でもわかる冗談を真面目に受け取った彼に、まわりの誰もが大笑いやった。 

そのあと、らもさんとは50年代60年代のアメリカンポップスなど音楽の話で盛り上がり、「このあと、ゴンチチのパーティーに呼ばれてるんですけど、ウマさんとジェイミー、一緒に来ませんか」と誘われた。だけど、その時、ウマは、ゴンチチが有名なギターデュオだとは知らなかった。いまから考えると行っとけばよかったよなあ。ジェイミーがたこ焼き食べたいっちゅうもんやから、らもさんとはご一緒しなかったんや。 

御一緒した席で、彼は一滴も飲まなかった。後年、彼の小説 「今夜、すべてのバーで」を読んで、自身の壮絶なアル中体験を知った。あの作品は芥川賞級の彼の最高傑作だと今でも信じている。

彼が、階段から墜ちるという不慮の事故で亡くなったとき、僕は「あゝ、彼らしいなあ」と思って、別に驚かなかった。

唯我独尊(ゆいがどくそん)とは別の意味で、日本の文壇とは隔絶した孤高の人だったように思う。彼が僕にくれた自宅の住所や電話番号は今でも持っているよ。 

中井貴恵さん… 

1970年代はじめ頃だったと思う。中井貴恵さんと、渋谷の「インデイラ」というカレー屋で食事したあと、東急会館の喫茶店でコーヒーを飲みながら、かなりだべったことがあった。

厳密に言うと、その時、彼女はまだ有名人じゃなかった。彼女が主演した市川昆監督の「女王蜂」の撮影がすべて終わり、来月公開という、つまり女優としてデビュー直前だったんですね。だけど、あの佐田啓二の娘だとは聞いていた。弟の中井貴一はまだ高校生じゃなかったかな。 

当時、早稲田の学生だった彼女は、テニス部のほか「放送研究会」に所属していたが、その同じサークルにいたのが、僕の親しい友人だった舟橋君で、彼の紹介で会ったわけなんです。

カレーを食べてる時、漬物(らっきょや福神漬など)の容器を、わざわざ僕の前に置いてくれたり、お水を注(つ)いでくれたりした。この人、気配(きくば)りする育ちのええ人やなあ、というのが第一印象。

そのあと、場所を変え、コーヒーを飲みながら映画の話になった。映画の話ならウマに任せなさい。 

「カサブランカ」で、ハンフリー・ボガードが、自分の経営する店のピアニストに、「その曲は弾くなと言ってあるだろ」と、アズ・タイム・ゴーズバイを止(や)めさせる有名なシーンのことを彼女は知らなかった。女優を目指すんだったら、イングリッド・バーグマンやキャサリン・ヘップバーン、ダイアン・キートンの映画は観なくちゃだめですよなんて偉そうに云っちゃった。

「第三の男」のアントン・カラスによるテーマ、ニーノ・ロータによる「太陽がいっぱい」のテーマも、彼女、知らなかった。でも「是非、聴いてみます」 その素直さにはすごく良い印象を持ちました。もちろん、一世を風靡(ふうび)した菊田一夫の名作「君の名は」で、岸恵子の相手をした彼女のお父さん、佐田啓二さんの話をするのは遠慮した(彼女が幼い時に交通事故でなくなったからね)。 

自分の父親が有名俳優だったことなどおくびにも出さないその控(ひか)えめな性格に、ウマはとても好感を持ちましたね。のちに有名女優になることがわかってたら、もっと仲良くしておくんだった。いや、いかんいかん、やっぱりミーハーやウマは…

そうそう、前述の舟橋君とはぜひ再会したいと願ってるけど、一緒に中井貴恵さんともまた会いたいなあ… 

続く


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真夏の逆転劇

2023年08月15日 | オーディオ談義

前々回のブログ「真夏の迷走」で述べたように、惜しくも「期待外れ」となった「口径30cm」のユニット。



オークションで購入し、半日かけて取り付けたのに響きが悪くてサッパリだった。


そして、ちょうど同じ日に落札した「口径25cm」のユニットが北海道からようやく昨日(14日)になって到着した。


「アルニコマグネット」とはいえ、「口径30cm」で懲りたので期待薄だった。まあ、ポケットマネー程度のお値段だからダメで元々だが・・。

とはいえ、聴いてみなくては始まらない。

重い腰を上げて2時間ほどで取り付け完了。ユニットの端子に半田の痕が無いのでどうやら新品みたい。サイズがピッタリで運よく外側からマウントできた。



そもそも購入した目的は「ウーファー専用」のユニットを使って、コイルを使わないようにしたいということだったので、まずは裸で鳴らしてみた。

ところが・・、口径30cmのときとは打って変わってとても良い響きなんですよねえ!

これはいい・・、音楽になっている! 期待以上の音質に文字通り「小躍り」し、そして拍手~。

しかも、あの同じ「口径25cm」の「スーパー10」(ワーフェデール)に比べて、コイルを使っていない分、音質はこちらの方が上だな。



堂々たる赤帯マグネット付きのユニットよりも上質なんだから恐れ入った。しかも、お値段となると1/30以下ですよ・・、到底信じられない(笑)。

「真夏の迷走」どころか、見事な「真夏の逆転劇」でした。

で、新システムで次から次に「You Tube」を聴きまくったが、そのうち気付いたのが「175ドライバー」(JBL)との帯域の重なり具合である。

このユニットはおそらく3000ヘルツくらいまで伸びているようで、「175」はローカットが2000ヘルツくらいだから両者の重なる帯域が多過ぎるんじゃないかな~。

そこで、ローカットが「5000ヘルツ」用のコンデンサー(ウェスタン製のブラックタイプ)に代えてみたところ、一気に両方のスピーカの間に「奥行き感」が醸し出されてきた。

明らかにこちらの方が正解だな~。

で、そのうち「5000ヘルツ」なら「175」の代わりにデッカの「リボンツィーター」でいいんじゃないか・・、へ思い至った。

ジャズならともかく、クラシックを聴くのなら「デッカ」の品の良さには到底太刀打ちできないのは自明の理。

というわけで、真打のデッカの出番。



素晴らしい 
! どこといって非の打ち所がなく、とてもバランスが良くて品はいいしで「我が家では最高クラス」の折り紙を付けたいくらい。家庭で音楽を聴くのならこれで十分でしょう。

やはり、冒険はやってみるものですな・・。

ちなみに、あてがったアンプは次のとおり。



「リボン型」は能率が低いので元気のいい「371Aプッシュプル」を、「25cmウーファー」には「6AR6シングル」(三極管接続)を~。

結局、今回の「ウーファー騒動」では当る確率が「50%」だったことになる。

高いか低いかは読者のご判断にお任せすることにしよう(笑)。



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黒牢城~読書コーナー~

2023年08月14日 | 読書コーナー

昨日(13日)のこと、南スコットランド在住の「ウマさん」からメールが届いた。現地では圧倒的に日本の書籍の情報量が不足しているので、このブログの「読書コーナー」を重宝しているとのこと。

そう言っていただけると、大いに励みになります。これからも精進します(笑)。

実を言うと、ウマさんご紹介の北欧発のミステリ「特捜部Q」に目下ハマってますので、「相見互い」(あいみたがい)なんですけどね~。

で、その「読書コーナー」だが作家の「米澤穂信」さんについては、ずっと以前に「米澤屋書店」で話題にしたことがあるのをご記憶だろうか。

図書館でたまたま見かけた「米澤屋書店」には多数のミステリが紹介されていたので、この本を「バイブル」にしようとネットで注文したわけだが、渋ちんの「ブログ主」が書籍で身銭を切るのは極めて珍しい事象(笑)。



この本ではご本人が読まれたミステリの紹介が目白押しで、さすがに「稀代の読書家」・・、ベストセラー作家にはそれなりの裏打ちがあることを嫌が上でも思い知らされる。

その米澤さんが「直木賞」を受賞され、そして「このミステリが凄い!」をはじめあらゆるミステリー部門で「ベスト1」と、総なめにした著書とくればぜひ読みたいところ。

本のタイトルは「黒牢城」(こくろうじょう)。



図書館に予約して待つこと1年あまり・・、ようやく順番が回ってきた。

まったく「果報は寝て待て」だったな~(笑)。

読後感を一言でいえば、メチャ面白かったです!

歴史的な探求が十分に行き届いた「歴史ミステリー」といえばいいのかな。

あらすじはこうです。

「本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。」

「読者レヴュー」ではこれに尽きます。

「荒木村重の叛乱がこのようなミステリーになるとは! 作者の構想力と想像力はお見事です。有岡城の雰囲気の変化と其れにあらがう村重の腐心、そして幽閉された黒田官兵衛の策略の奥深さ。

歴史上のことであり、最後がどうなるのかわかっているだけに、暗く重苦しい雰囲気ではありますが、城内で起こった事件の謎解きと史実における謎解きの双方が相まってミステリーとしての面白さはピカピカです。」

機会があればぜひご一読を・・。貴重なお時間を決して無駄にしないと思いますよ。

そして、紙幅に余裕がありそうなのでもう一冊。



NHK「Eテレ」で毎週月曜日の夜放送されている「100分で名著」を担当するプロデューサーの著書である。

本書の内容は冒頭の「はじめに」のこの一節で十分だろう。

「そうか。私が日々戦慄を持って名著から感じ取っている力とは予知能力ではなかったか、新型コロナ禍に置かれた私たちの状況をあたかも写し取っているようなアルベール・カミュ「ペスト」、世界で猛威を振るいつつある全体主義的な政治手法を痛烈に撃つジョージ・オーウェル「1984年」、対立意見を先鋭化し人々を分断に追い込むSNS社会の暗部を突くル・ボン「群集心理」・・、数十年から数百年前に書かれた名著が、現代社会のありようを予言するかのように言い当てている。」

で、「1984年」は学生時代に読みました。「民主主義者」が権力闘争の末「独裁者」を駆逐するのだが、そのうち権力を握った側が次第に「独裁者」に変身していくという恐ろしい小説だった記憶がある。

つまり、人間の「業(ごう)=権力欲」というか・・、結局倒す側も倒される側もどっちもどっちで、人間は「身勝手」な生き物なんですよね。

名著の名著たる所以(ゆえん)は、長い歴史の風雪を耐え抜いて生き残る力にこそあるが、その源泉となるところは人類共通の普遍的な真理にありそうだ。

とまあ、偉そうに~(笑)。

最後に強く印象に残った心理学者「河合隼雄」(かわい はやお)氏の「幸福論」にある一文を引用して終わりとしよう。

「幸福ということが、どれほど素晴らしく、あるいは輝かしく見えるとしてもそれが深い悲しみによって支えられていない限り、浮ついたものでしかない、ということを強調したい。おそらく大切なのはそんな悲しみのほうなのであろう」



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真夏の迷走

2023年08月13日 | オーディオ談義

「音楽とオーディオ」は自分にとって運命共同体のような存在だが、「You Tube」によって音楽環境が一変すると、それに伴ってオーディオにも熱が入ってくる。

「好きな音楽」が多くなる・・、するともっと「素敵な音」で聴きたくなる(笑)。

というわけで、このところ「オークション熱」がぶり返している状態!

ただし、ひところと違っていずれも「ポケットマネー」の範囲内で済ますところが、良くいえば「枯淡(こたん)の境地」、悪く言えば「渋ちんの境地」かなあ(笑)。

で、まずは真空管の調達に始まってGEの「6SL7」(ニッケルプレート)が信じられないほどの低価格で出品されていたので3本調達した。



我が家の「6SL7」(GE)と比べて、少しばかり丈が長いので興味を惹かれて3本落札し、さっそくアンプに挿しこんだところ、なんだか音の鮮度が上がった感じがする。気のせいかな・・(笑)。

次はSPユニットの調達。

その狙いを述べると・・、



このところ「TRIAXIOM」(グッドマン)と並んで出番が多いのがこの2ウェイシステム。

「700ヘルツ」までを「スーパー10」(ワーフェデール)で受け持ち、「2000ヘルツ」以上が「175ドライバー」(JBL)の守備範囲。

今のところ音質にまったく不満はない・・、しかし「もっと良くなるかもしれない」という向上心は燃え尽きることがない(笑)。

実を言うと、全般的な音質について「生殺与奪」の権利を持つ「ウーファー」になるべくコイルを使いたくないのがホンネ~。

現用の「スーパー10」はフルレンジなのでハイカット(700ヘルツ)用のコイルを使わざるを得なかったが、ウーファー専用のユニットならコイルを使わなくて済むはずだ・・、という皮算用。

というわけで、オークションでありふれた「ウーファー」(口径30cm)に目が留まった。たとえ失敗したとしても痛くもかゆくもない価格である。

「フルレンジ」タイプは値が張るけど、ウーファー専用となると途端に人気が無くなるようで、しめしめ・・こういう貧乏人にも付け入る隙が出てくるのは実にありがたい(笑)。



堂々たる「アルニコマグネット」だが、コーン紙が分厚くて重たそうなのが気になったが、まあいいだろう・・。

やってみなくちゃ分からんとばかり、倉庫に保管してある口径30cm用のバッフルにさっそく取り付けた。



ここまでは順調な運びだったが、オーディオの神様はとても意地が悪かった。

ここから、予想だにしない「真夏の迷走」が始まったのだから(笑)。

まずは、コイル無しでこのユニットを聴いてみたところ、期待していた豊かな量感には程遠く、何だか素っ気ない「乾いた音」にがっくり!

こりゃあかんわ、音楽になってない・・。

しかも、失敗しても構わない価格だと割り切っていた積りだが、何とかしようと”もがき”だして泥沼にハマり込んでしまったんだから、やっぱり「枯淡の境地」なんて自分には無理だね(笑)。

さっそく方針を変更してコイルを使うことにした。

以下、いささか専門的な話になるがどうか悪しからず。

まずは、使ったコイルの順番がこれ。



右から「ハイカット用の700ヘルツ」、真ん中が「同じく100ヘルツ」そして、最終的にいちばん左の「200ヘルツ」のコイルでようやく落ち着いた。

で、それに応じて「175ドライバー」(JBL)の方もローカットを「2000ヘルツ」から「900ヘルツ」へと調整した。

当然、使うコンデンサーも変わる。



「ウェスタン製」のオイルコンデンサー「10μF」に「12μF」をパラった。

そして、ウーファー用のアンプには我が家で一番力持ちの「EL34プッシュプル」の出番となった。



これで、サブウーファー無しでも力強い低音が出るようになって、どうにか収まりがついたかなあ・・。

半日がかりの作業を無駄にしたくないので、しばらくこれで聴いてみることにしよう。

それにしても、金銭面をはじめいろんな意味で悟りを開くのが無理ということがよ~く分かったのが今回の騒動の収穫かな~(笑)。


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「オーディオ文化」の水準を決めるもの

2023年08月12日 | オーディオ談義

図書館の「新刊コーナー」で、たまたま目に触れたのが「思索紀行」(上巻)という文庫本。



ちょっと気取った
「思索」という言葉に、まず抵抗感を覚えた・・。

「本のタイトルにあからさまにこんな言葉を付けるのはちょっと自意識過剰だな。おそらく村上春樹さんならこんなタイトルをつけないだろうよ」と、思ったが何せ借りて読むのはタダなので一読してみることにした。

すると、これが大当たり~(笑)。

立花さんが1970年代以降、外国に行って1か月も2か月も現地で十分な時間を割きながら体験された記録をまとめたもの(再刊:文庫本)だが、読んでみるとまるっきり印象が変わって、さすがに「思索」と銘打つだけのことはある・・、やっぱり立花さんは「知の巨人」に相応しいとつくづく感じ入った。

おそらく、あの伝説の「南方熊楠」に匹敵するのではあるまいか。

本書の中ではヨーロッパの奥行きのある文化、とりわけキリスト教や
ワイン、チーズなどに関する蘊蓄が圧巻だった。

余談になるが最近「You Tube」でよくクラシックを聴くが、大きな教会や中世風の天井の高い豪華なホールでの演奏風景を眺めていると、やはりクラシックの本場は凄いなあと彼我の音楽文化の違いに圧倒される思いがする。



この分野では日本がどう逆立ちしても敵いっこない・・、そもそも歴史と土壌が違うんだから~。

で、記述の中にとても興味を惹かれた箇所があったので以下のとおりちょっと長くなるが紹介させていただこう。(188頁)

「フランス人は驚くほど情熱をこめてワイン文化を育ててきた。ワインに限らずなんでもそうだが、文化の外側にいる人には文化の内側にいる人の価値体系が見えてこない。で、外にいる人には内にいる人の情熱が全くバカげたものに見える。

ワインの味ききにしても、外側から見ている限り、何ともバカげたことを大真面目にやっているとしか思えない。しかし、自分もそれに参加して内側に入ってみると自分がとてつもなく豊饒な世界のまっただ中にいることに気が付き、今度は逆に外側の世界の貧しさが哀れむべきものに思われてくる。

内側に入ると、その中で形成されている価値の体系がわかってくる。外側にいる限り、どんなにうまいワインであろうと、どんなに金があろうと、1本のワインに十万円単位の金を出すなどということは理解を絶する狂気じみた話だろう。

十万円のワインを飲んでも物質的なものは何も残らない。ほんの一刻、味と香りを楽しんで陶然とできるだけである。

焼きものに凝る人が一つの茶碗に何百万円もの金を出す。これまた、その文化の外にいる人にとっては狂気じみたバカげた話である。しかし、この場合は茶わんが資産となりいつの日かそれを売ることもできるという点において、俗物にも多少の理解はできる行為となる。

ところがワインの場合はしばしの間感覚的快楽を楽しんだら、それで終わりである。残るものは快楽の記憶だけだ。そして1本10万円のワインと1本1万円のワインのワインとの間にはさしたる差がない。

1本千円のワインと1本1万円のワインの間にあるほどの差はない。どんな領域でもコスト・パフォーマンスは指数関数的に低下していく。1万円のワインと十万円のワインの間にあるのはほんのちょっとした違いである。ほとんど趣味性の領域に属する違いといっていい。

それでも1万円のワインを10本飲むより、1本十万円のワインを飲んでみたいと願い、実際にそうする人がいるかいないかがワイン文化の水準を決めるのである。

どんな世界でも同じことだ。ハイエンドの部分にほんのちょっとした違いを求めて狂気じみた情熱と資金を投じる人がどれだけいるかで文化の水準が決まるのである。」

以上のとおりだが、すでに気付かれた方が多いと思うが、この話はそっくり「オーディオ」にも当てはまると思いませんかね?(笑)

たとえば類似点を挙げてみると、

 オーディオの外側にいる人からは内側の価値体系が全く見えてこない

 家庭での20万円前後のシステムと100万円前後のシステムとの音質の違いはちょっとした趣味性の違いだけだと思うが、それでも高額のシステムにあえて挑戦し投資する人がいる

 それにシステムといわず、1ペアで160万円もする「真空管」(WE300A:刻印)を購入する狂気じみた人が実際にいる



たかが真空管ごときに・・(笑)。

などだが、こういう人たちが「オーディオ文化の水準」を決めている貴重な存在なのかもしれないですね。

で、いよいよ現実的な具体論に入ろう。

かねて注目していたオークションの出品物「AXIOM80」がようやく落札された。



グッドマンの「AXIOM80」といえば周知のとおり高級SPユニットの代名詞みたいな存在。

画像を見る限りマグネットの形状といい初期版に間違いないが、すでに我が家では初期版と復刻版を1ペアづつ保有しているので別段求める気はさらさらなくて注目するのはその落札価格である。

この初期のオリジナルの極上品がいったいいくらで落札されるのか。

たとえば、売るつもりは毛頭ないが現在住んでいる自宅の相場を知りたい思いと似たようなものですかね(笑)。

商品のタイトルの中に「未使用に近い状態」とあり、これほど程度のいいものが出品されるのは極めて珍しい。

そして、落札当日がやってきた。落札7時間前の17時現在の入札価格は「24万1千円」だが、その最終落札価格となると・・、結局「48万円」でした!

ウ~ン、高いか安いか何とも言えないが、これが「オーディオ文化の水準を決める」一例でしょうかね・・。

経験者として言わせてもらうと、上手く鳴らすのがメチャ難しい・・、最適な箱とARUをどうするか、組み合わせるアンプなどを考え合わせると最低でも数年はかかるかなあ・・、巷の噂では人生を狂わせるスピーカーだそうですよ(笑)。



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「You Tube」で一変した我が家の音楽環境

2023年08月10日 | 音楽談義

「またか、くどい!」と言われそうだが、「You Tube」(テレビ)のおかげで一変した我が家の音楽環境。

もう毎日がワクワク ドキドキだが、身近に感じていただくために二つの具体例をあげてみよう。

1 「4つの最後の歌」(リヒャルト・シュトラウス)

この曲は稀代のクラシック愛好家で作家の「百田尚樹」さんによると「ヨーロッパ音楽が最後に行き着いた至高の名曲」とのことで、「人生を変えた名曲ベスト10」の中で堂々と第1位に輝く作品である。

たしかに、聴き込めば聴き込むほどに胸を打たれる名曲で、この曲目に感銘を受けない人はクラシックを愛する資格なしと、つい断言したくなってしまうほど・・(笑)。

で、たまたま図書館で目に触れたのがこの本。



作家の村上春樹さんが愛好するクラシック・レコードの紹介本。

村上さんが好きだからといってどうってことはないが、新たに好きな曲目を発掘できる可能性もあるのでざっと目を通してみた。

すると、180頁に目が留まった。



5人の歌手が紹介してあるが、そのうち「デラ・カーザ」(ソプラノ)はまだ聴いたことがないなあ・・。

どれどれ、こういうときこそ「You Tube」(以下「Y」)の出番だ。

テレビのリモコンスイッチで「Y」をポチッと押して検索画面を出し「4つの最後の歌」と打ち込んだ。

すると、ズラリと出てきました!



嬉しいことに、ルネ・フレミング、デラ・カーザなどがずらっと勢ぞろい。

手持ちのCDは「シュワルツコップ」「バーバラ・ボニー」「ヤノヴィッツ」の3人だけだったので狂喜乱舞しましたねえ!!

いろんな歌手をたっぷりと聴かせてもらった。

で、村上春樹さんの一押しは「シュワルツコップ」だったが、この歌手はどうも技巧的に走りすぎる傾向があって「イマイチ」だと常々思っている。つまり自分とはあまり相性が良くない。

前述の百田さんの「一押し」は、「ヤノヴィッツ」(カラヤン指揮)である。

そこで「お前の一押しは?」と訊かれるとそれが困るんですよねえ・・。

しばし、時間をくだされ~(笑)。

2 「夜に聴きたいモーツァルト」

「Y」の検索画面に「モーツァルト」と打ち込んだら、山のように関連楽曲が登場してくるが、そのうちの一つに「夜に聴きたいモーツァルト」というアルバムがあった。



何気なしに聴いているとモーツァルトの「アダージョ」(緩徐楽章)ばかりが勢ぞろい。

「アダージョ」となると定評があるのはベートーヴェンだが、自分はモーツァルトの方が好き~(笑)。

で、その内訳は・・

1 弦楽五重奏曲1番 K174
2 クラリネット五重奏曲 k581
3 ピアノ協奏曲27番 K595
4 弦楽四重奏曲19番 「不協和音」 K465
5 セレナード12番 K388
6 クラリネット協奏曲 k622
7 弦楽四重奏曲23番 k590
8 ヴァイオリン・ソナタ34番 K378
9 ドン・ジョバンニ セレナーデ K527
10 自動オルガンのためのアンダンテ k616

 もう、いずれもが透明感に満ち溢れ「涙が追い付かない悲しみ」が疾走していく・・、心に浸み入ってくる名曲ばかりです! 

しかも・・、いかなる「モーツァルト通」といえども、これまで聴いたことがない曲目がきっとあるはずで、「自動オルガンの・・・」なんて誰も聴いたことがないんじゃない・・。

これで、我が家の音楽環境がまるっきり一変した状況がお分かりいただけたかな?(笑)。

音楽好きにとって、まるで夢のような時代がやってきましたね。



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「声」を読む

2023年08月09日 | 独り言

私たちが普段コミュニケーションの道具として何気なく使っている「声」。

声と同時に発せられる言葉については強く意識されるものの、トーンというか「声音」(こわね)についてはあまり注意を引くことがないように思うが今回はその「声」が持つ役割、真価について話題にしてみよう。

<「声」の秘密>(アン・カーブ著)という本がある。

                                          

「声は人間の社会で大きな役割を果たしているのに驚くほど顧みられていない。そのもどかしさが本書を書くきっかけとなった。言語やボディーランゲージについては詳しく調べられ、その重要性が高く評価されている。

一方、声は(少なくとも学問以外の世界では)なおざりにされ、称えられることはほとんどない。

声は文字にとって代わられ、画像にその地位を追われて<目が耳に勝った>といわれているがそれは間違い。

人は家庭や職場で、あるいは友人知人との交流において、”声を読む”という優れた能力を利用している。声を正しく理解するためには、鋭い感性を身につけなければならない。<深く聴く>ことが必要だ。」

といった内容だが、「声を読む」というのは実に”言いえて妙”でいろんな情報が声から得られるのは事実である。

自分の場合に例をとると、人と接するときに話の内容よりもむしろその人の表情とか声音でいろいろと判断していることが意外と多いことに気付く。

また、「オーディオ愛好家」の立場からすると目と耳との機能の違いにも凄く興味が湧く。いわば「視覚と聴覚」の対決だが、情報量において
「目が耳に勝る」のは常識だけど、それを信じたくないほどの「耳擁護派」である(笑)。

たとえば、モーツァルトのオペラ「魔笛」を鑑賞するときにDVDで画像を観ながら聴くのとCDで音楽だけ聴くのとでは受ける感銘度が違う。

自分の場合、後者の方がいい。


その理由を端的にいえば第一に画像が目に入るとそちらに注意力がいってしまって”聴く”ことに集中できない。

第二に音楽を聴いて沸き起こるイマジネーションが、既に与えられた画像の枠内に留まってしまってそれ以上には拡がらない。

結局、現実の情報を得るには目が勝っているものの、豊富なイマジネーションとなると耳の方が勝っていると勝手に思っているのだが、これは聴覚をひたすら大切にするオーディオ愛好家の勝手な“身びいき”なのかもしれない。

ただし、養老孟司さん(解剖学者)の著書「耳で考える~脳は名曲を欲する~」には次のような箇所があって科学的な根拠が示されている。

「耳の三半規管は身体の運動に直接つながっているので退化せずに残っており、情動に強く影響する<大脳辺縁系>と密接なつながりを持っている。そしてこれと一番遠いのが<目>。だから、目で見て感動するよりも耳で聴いて感動する方が多い。」

そういえば、下世話な話だが「女性は耳で恋をする」といった話を実際に女性から聞いたことがある。

つまり、女性は男性の“見かけ”よりもむしろ“口説き文句”の方に弱いという意味だが、世間で「美女と野獣」の実例をときおり見かけるのも、おそらくこの類だろう。

 もちろん「お金」の威力もあるかもしれないが・・。

「色男 金と力は 無かりけり」(笑)。


さて、本書「声の秘密」の第Ⅲ部に「声の温故知新」というのがある。以下、要約してみよう。

「百聞は一見にしかず」の諺どおり「見る道具」の発達により「現代は視覚文化」となっている感があるが、声の重要性は高まりこそすれ決して低下していない。

たとえば、今後「音声合成システム」の発達に伴い「声はいったい誰のものか」(288頁)という問題が確実に発生する。たとえば誰もが身近に使っている「カーナビ」の音声は合成だが結構うまくできているのはご存知のとおり。

というわけで、いずれ、実在する人物の声を合成できる時代が来るという。この技術が完成すれば「窃盗」など新種の犯罪が起きる可能性がある。現在も衰えを知らない「振り込め詐欺」などへの悪用は最たるものだろう。

さらに懐かしの映画スターに新しい台詞を言わせるのは造作もないことで、そうすると「声は一体誰のものだろうか?」というわけ。

これから、直接対面する以外の会話は「合言葉=パスワード」が要ったりするかも~(笑)。

遅かれ早かれ「声」の著作権について物議を醸す時代がやってくるそうですよ。



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帯に短し、たすきに長し・・

2023年08月08日 | オーディオ談義

「帯に短し襷(たすき)に長し」という言葉がある。

意味はお分かりのとおり「帯には短すぎるし、襷には長すぎる・・、中途半端で役に立たない」

たとえば・・、

我が家ではDAコンバーターが3台、プリアンプが4台、パワーアンプが9台あるが、6系統のスピーカーに対してそれぞれ相性があって出番が決まっている。

言い換えると、あらゆるスピーカーに対して万能ともいえる機器が残念なことに無い。定評のあるアンプの「WE300Bシングル」や「PX25シングル」をもってしても、これは例外ではない。

つまり相手次第で「帯に短し・・」。

ただし、これは我が家だけの現象かもしれず、普遍的なものとして押し付ける気持ちは毛頭ない(笑)。

で、我が家のオーディオのポリシーは「いかに機器同士の相性を考えて選択するか」、いわば「組み合わせ」の妙味に尽きると考えている。

わかりやすい実例を挙げてみよう。

そもそもの始まりは「AXIOM80」(復刻版)の移動だった。

「一つ屋根の下にAXIOM80を2セットも要らない」というわけで、その箱の中に代わりに「スーパー10」(ワーフェデール)を押し込んだ。



ところが、これがまったく音質に色気が足りず、あえなく降板の憂き目にあい、JBLシステムへと転戦~。



これで、ようやく「スーパー10」が「水を得た魚」のように伸び伸びと躍動感が出てきて、これにて一件落着。

すると、「AXIOM80」(復刻版)を容れていた箱が空きになってしまったので、さあ、これにどのユニットを容れようかな・・。



で、結局「TRIAXIOM」(グッドマン:同軸3ウェイ)の出番となった。口径30cmのユニットを外側からマウントすると随分デカク見える。

実はこれまで、この定評あるユニットを十分に鳴らし切ったという自信が無い。

まずは「同軸3ウェイ」という機能からして、「周波数レンジ」よりも自然な「音像定位=ハーモニー」に重きを置くのがまっとうな方法だろうとはおよそ想像がつくが、問題はこれに組み合わせるアンプである。

これまた、どうも「帯に短し・・」なのである。

プリアンプに「マイカコンデンサー」を組み入れてから、一段とグレードアップしたように思っているので、新たな模索といきたいところだが、おおよそ9台のアンプのそれぞれの個性を把握しているので、自ずから除外できるのはだいたいわかる。

「WE300B」や「PX25」はオーヴァーパワー気味で「鶏肉を裂くに牛刀をもってする」感じ。

で、最後に絞り込んだのがこの「6AR6シングル」アンプ(三極管接続)だった。



パワー感、周波数レンジ、ハーモニーなどいろんな観点からするといちばん無難な存在かなあ・・。

ちなみに、「6AR6」(中央2本)は初期型の「楕円形プレート」を使っている。

問題は初段管(左端)の「6SL7」で、この球にどのブランドを使うかで、コロッと音が変わるのでゆめゆめ油断できない。

   

左から「CV569」(英国STC)、「ECC35」(英国ムラード)、「6SL7」(シルヴァニア)、「6SL7」(GE)、「6SL7」(RCA)

これら5本を差し換えながらブランド次第で音質がどう変わるか・・、これはもう「真空管オーディオ」の醍醐味ですよね。

で、いちばん気に入ったのが左から4番目の「GE」(アメリカ)だった。

まことに予想外だったが、音がいちばん「瑞々しい」!  

周辺環境が良くなるに伴い、本来の実力を発揮したというべきか・・。

「TRIAXIOM」の能力をフルに引き出した印象を受けて、こんなに「魅力的で色気のある音」をこれまで聴いたことがない・・。

さっそく「北国の真空管博士」にご注進。

「GEの6SL7がとても音がいいんですけど何か理由があるんですかね?」

「プレートの色はどうなってますか?」

「ハイ、シルバーですが・・」

「ああ、それならニッケルで出来たプレートですね。灰色のものはアルミクラット鋼板といって、鉄をアルミで挟んだものです。ニッケルの方が電気抵抗が少ないので当然いいです。

初期の真空管はニッケルが主流を占めていましたが、鉄の鋼板技術が進みコストの面からアルミで挟むようになりました。そのGEはおそらく使用時間も少なく程度もいいものでしょう。ニッケルのプレートは、色を塗ってブラック仕様のものもありますよ」

「なるほど・・、ブラックプレート・タイプは音がいいと聞いたことがありますが、そういうことでしたか」

さっそく「GE」の「6SL7・ニッケルプレート」タイプをもっと確保しておかねばと気が焦る~。

おっと・・、外野席から「おいおい、そろそろ自分の寿命を考えろ!」という声が聞こえてきそう(笑)。



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抱腹絶倒の「名文どろぼう」

2023年08月07日 | 読書コーナー

暑い、暑いっ! テレビで言ってたけど1年のうちで統計的にいちばん暑い日は「8月8日」だそうですよ。

つまり今がいちばんピークというわけで、これがお盆を過ぎると、てきめんに朝な夕なに秋の気配が漂ってくるので、もう少しの辛抱です~。

とりあえず、この抱腹絶倒の逸話が満載されている「名文どろぼう」で暑さを吹き飛ばしましょう~。


著者の「竹内政明」さんは読売新聞の看板コラム「編集手帳」の6代目執筆者(2001年~?)だ。

☆ 「じいさん、ばあさん、お出かけ」

国文学者の池田弥三郎さんがご夫人と福島県のひなびた温泉に旅したときのこと。夕方、宿の下駄をつっかけて散歩に出ようとした。

すると、宿屋の番頭が玄関のところにいて「じいさん、ばあさん、お出かけ」と、大声で怒鳴った。

自分はたしかに若くはないが何も「じいさん、ばあさん」と呼ばなくてもいいだろうと思いながら一回り散歩して帰ってきたところが、再びその番頭が「じいさん、ばあさん、お帰り」と言った。

池田氏はつかつかと番頭の前へ行き、「きみ、いくら何でも僕たちを、じいさん、ばあさん呼ばわりすることはないだろう。少しは違った言い方があるんじゃないか。」と抗議した。

すると今度は番頭の方が面食らった表情で、そんなことは言った覚えはないという。いったいどういうことかと思ってよく聞いてみると、池田氏の泊まった部屋の番号が「13番」だった。

「ずうさんばんさんお出かけ」と言ったのである。

ご夫妻はきっとあとあとまで番頭さんがくれた「想い出」という土産をサカナに折にふれては思い出し笑いをされたことだろう。

☆ 「旧中山道」(きゅう・なかせんどう)の読み方

何と「旧中山道」を「いちにちじゅう やまみち」と読んだフジテレビの女子アナがいたという(笑)。

☆ 「餞別を 銭別と書いて 本音ばれ」

ごもっともですね(笑)。

☆ 面白い変換ミスの事例

正しい変換 → 「うまくいかない画像サイズになった。」

変換ミス  → 「馬食い家内が象サイズになった」

☆ 「猿の毛を抜け!」

明治から大正にかけて東京帝大で経済学を講じた学者の和田垣謙三氏に、あるとき学生が「どうすれば金儲けができますか」と、質問したところ教授の答えがふるっていた。

「猿の毛を抜け!」

「MONKEY」(モンキー)の「K」を抜けばMONEY(お金)となる。気の利いた洒落で学生を煙に巻いたようでもあり、「経済学を何と心得るか」とたしなめたようでもある。

☆ 「折口学入門」

詩人「北原白秋」が「黒衣の旅人」と称した折口信夫は、あの世からやってきたかと思わせる独特な雰囲気の内側に深い学識を蔵した国文学者だった。

作家の丸谷才一さんは若い頃の一時期、熱に浮かされたように折口に傾倒したという。

「その熱中のせいでしょうね。たしかあれは日本橋辺りの裏通りの本屋だったと思いますが、入り口のところに「折口学入門」と墨で描いたビラを見つけたことがありました。

夢中になって飛び込んで行って「折口学入門」をくれと言ったんです。ところが「そんな本はうちに置いてません」と言うんですね。そこでビラを指さして「ほら、ここにあるじゃないか」と言いながらよく見たらそれは「哲学入門」だった。

蛇足だが「哲」を上下に分解すると「折口」になる!

☆ 「昨年はご厚情をいただいた気がしません。本年はよろしく」

自分もこういう「ホンネ」を書いた年賀状をいずれ出してみたい(笑)。



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始まった「三つ巴の戦い」

2023年08月06日 | 音楽談義

「子供が新しいおもちゃを手に入れたみたいに、大の大人がはしゃぎ回っている」と、そしられても仕方がないかもしれない(笑)。

不意打ちみたいなテレビの故障に伴いやむなく買い代えたものの、それはたまたま「You Tube」(以下「Y」)が受信できるテレビだった!

そして、およそ1週間余り経つが「音楽の宝庫」ともいえる「Y」の威力に毎日唸るばかり~。

まさに、「ピンチはチャンス」で今ではつくづく故障してよかった!

で、「何を今さらYか・・」といわれそうだが、実はオーディオシステムにテレビを組み込んでいない人は多いので、「それは初耳だぞ」という方もかなりいるみたいですよ。

その証拠に、8月3日付けのブログ「おいおい、今さらY・・」は驚くほどの凄いアクセス数が殺到してぶったまげてしまった。それだけ関心のある方が多かったことになる。

テレビの役割は確実に変わりつつありますな・・。

お互いに時代に取り残されないようにしましょうね~(笑)。

で、実際にその活用の一端をご紹介しよう。

まずは、「Y」のチャンネルを選択し、検索画面に「Mozart」と打ち込んだところズラリといろんなアルバムが勢ぞろい。リラックス系の「名曲100選」とか実に頼もしい!

次に、調子に乗って「まてき」と打ち込んだところ反応なし、そこで「おぺら まてき」(オペラ 魔笛)と打ち込んだところこれが大ヒット!

もう次から次にいろんな指揮者の「魔笛」のアルバムが登場してくるのだからビックリ仰天。

中でもクレンペラー指揮の「魔笛」には驚いた。このアルバムは周知のとおり、珍しくスタジオ録音で「台詞」だけの演奏になるのだが、画面にその台詞が「日本語訳」で出てくるんですよねえ・・。

しばし名演を堪能させてもらった。

そして、さあ・・、いよいよ調子に乗って「おどれよろこべなんじさいわいなるたましいよ」(「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」)と打ち込んでみた。

「K165」だからモーツァルトの20歳前後の作品だが、彼の宗教曲の中では一番好きな曲目で、まあ、長ったらしいタイトルだし無理だろうなと半分諦め気味だったところ見事にヒットしたのには心底驚いた。

ズラリとソプラノ歌手たちのアルバムが登場してきて、まさにより取り見取り・・。



その中でも、この身元不明の歌手が素晴らしかった。

「見てくれ」も「歌いっぷり」も最高で、もうまるで恍惚の世界へ・・。

夢中になって、少なくとも朝昼晩を通じて5回は聴いてますよ~(笑)。

ほかにもこの曲に関する優秀録音が目白押しで、「ソプラノ」歌手のたいへんな充実ぶりに目を見張った。

いかに自分の世界が狭かったか・・、「Y」を通じて痛切に思いしらされました!

まだジャズは試していないが、たとえば「ダイアナ クラール」と検索画面に打ち込めば、アルバムが山ほど出てくるに違いない。

一枚だけならまだしも、数知れぬほど選択の機会に恵まれるのだから、「Yは音楽の宝庫」ですね。

これはもう音楽鑑賞に必須でしょう・・。

こうなると「ミステリー番組」を録画するのが何だか馬鹿らしくなってもはや毎日が「音楽三昧」の状態へ。

しかもこのテレビは「USB端子」が3個もあって「ブルーレイレコーダー」を接続しなくても直接録音出来る仕組みになっている。

そこで、テレビを購入した大型店に再び走った。



何と「4TB」のハードディスクが「1万2千円」と格安の状態だった。ひところは「1TB」でそのくらいのお値段だったのに・・。

これから、大量の番組が録画できますね(Y関連の番組は無理だけど)。

いよいよ「テレビの寿命」、「ハードディスクの寿命」、そして「自分の寿命」の「三つ巴の戦い」が始まった~。

こんなに楽しくて豊かな「音楽ライフ」を手に入れたんだから、先にくたばってたまるか・・(笑)。



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水増しされたブログ、そして音楽

2023年08月05日 | 音楽談義

懇意にさせていただいているメル友さんから、このほど「このところブログが、ほぼ日刊になっていますね。読者として大歓迎です。」というご連絡をいただいた。

そう言っていただくと光栄ですが、実は読者のためではなく自分のためなんですよ(笑)。

というのも・・、

ブログを始めてからこの10月下旬で丸17年になるが、これまではほぼ2日に1回のペースだった。


実を言うと「この程度のブログでも安売りなんかしないぞ」(笑)という気概を持っていたのだが、このところ(ブログの)投稿にやや疲れとマンネリ感を覚えてきた。

1日休みを置くと次に投稿するのがつい億劫になってサボりたくなってくる、そこで連日投稿すればそういう気にならないかもしれないと自分を奮い立たせて追い込もうという魂胆だ。

今のところ生活の「リズム」の一部になっているせいか「億劫感」もないが、何しろ移り気な性格なのでいつまで続くことやら・・。

ただし、量が増えたことによる内容の吟味がおろそかになっていることはたしかで、流れ作業みたいになって勘違いやミスも多くなっているし、これまでも大した内容ではなかったが、ますます粗製濫造気味かなあ~(笑)。

たとえば、どうでもいいようなことをぐだぐだと引っ張って「水増し」しているケースもあったりするので賢明な読者はきっとお気づきのことだろう。

「水増し」する能力ってのもあるなあ・・・。

で、「水増し」といえばついブルックナーの「交響曲」を思い出す。

音楽とオーディオの大先達だった「五味康佑」さん(故人)はブルックナーの交響曲について「芳醇な美酒だけどやや水増し気味」といった趣旨のことをたしか記載されていたはずだ。

五味さんの著書はほとんど目を通しているので、探してみるとやっと見つけました!

   

22頁に載ってた。長くなるが引用させてもらおう。

小題は「明けても暮れてもブルックナー」

「今はそれほどでもないが、一時やたらとブルックナーのレコードが発売されFMの時間帯にも登場した。ちょっとしたブルックナー・ブームだった。なぜ、そうなのか?

アントン・ブルックナーの交響曲はたしかにいい音楽である。しかし、どうにも長すぎる。酒でいえばまことに芳醇であるが、量の多さが水増しされた感じに似ている。

これはブルックナーの家系が14世紀までさかのぼることのできる(むろんマーラー同様彼もユダヤ人だが)農民の出であることに関係がありそうだ。

つまり、のどかな田園の明け暮れ、生い立ち、音楽的にも地方の教会オルガニストとして出発したので~晩年までこれは変わらなかった。一時パリのノートルダム大聖堂のオルガン奏者だったこともある~都市の喧騒や苛立ちとは無縁な農夫の鈍重さ、ともいうべき気質に馴染んだためだろう。

それにしても、だからといって彼の膨大な交響曲ばかりが発売される理由にはなるまい。

理由は、うがった見方をすれば、ほかに売り出すレコードがなかったからだと私はみている。LPがステレオになって、クラシックでは当然ながらまずベートーヴェンやモーツァルト、大バッハの名曲が相次いで発売され、名のある指揮者やオーケストラは競ってこれらを録音した。

なかには極め付きと称される名盤もできた、そうなれば月々なにかを発売しなければならぬレコード会社は他に新分野を開拓せねば営業が成り立たず、そこでクラシック盤が一応出そろうと、あと、売れやすいワーグナーの楽劇からマーラーにいたり、ついにブルックナーに手を出した。出さざるを得なかった(一曲でレコード2,3枚買わされるのだから)と私は思う。

まあ、そのおかげで以前はあまり聴く機会もなかった彼の芳醇な曲を味わえたのだから文句はないが、でもやっぱり長いなあ。水増しされてるなあ。

それをまた丹念に抜粋もせず放送局は流している。なにかブルックナーさえ鳴らしとけば放送時間がうずまると担当者は横着に考えるからではないか、と僻みたいくらいで、要するにその程度の音楽にすぎない。明けても暮れてもブルックナーでは閉口である。」

以上のとおりだが、「水増し」という言葉から意外な方向に展開してしまい、おかげさまで今回のブログも随分「水増し」させてもらいました(笑)。

ちなみに、ブルックナーの極めつけの名曲と録音は周知のとおり指揮者チェリビダッケによる「第八番」(リスボン・ライブ盤)ですよね。

これまでオークションで海賊版としてずっと高値を呼んできたが、このほど正式に発売された由。


でも、こうやって並べて書いてみると、作曲家と指揮者ともにゆったりとしたテンポといい「水増し気味」といい、似たような共通点があると思いませんかね(笑)。

   

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カチッと引き締まって小気味よく弾んでくる低音!

2023年08月04日 | オーディオ談義

先日のブログで「一つ屋根の下にAXIOM80は二つも要らない」と記載していたことをご記憶だろうか。



「有言実行」あるのみ、さっそく行動に取り掛かった。

小ぶりの箱に入っていた「AXIOM80」(復刻版)を外し、オリジナル版が故障したときの予備として別途保管することにした。

さあ、取り除いた箱に何を容れようか・・。

まずは「同じ25cm口径」の「スーパー10」(ワーフェデール)がいちばんだろう。



御覧のとおりメチャ強力な赤帯マグネットの持ち主で、量感の方はイマイチだが、音声信号に対する反応スピードは抜群である。

そもそも、強力なマグネットに量感を求めるのは「比丘尼に陽物をもってする」ようなものだと、誰かが言ってたよなあ(笑)。



ところが・・。

これはこれで立派な音なんだが、肝心の中高音域に艶というか色気が足りない・・。

同じ英国製なんだけど「グッドマン」と違って「ワーフェデール」じゃ無理かもねえと、これは個人的な独り言(笑)。

で、第一段階は徒労に終わったが転んでもただで起きないぞとばかり、何としてもこの強力なマグネットを生かしたいので「中低音だけに使ったらいいかもしれない」ということで、眼が自然とJBLの2ウェイシステムに向かった。

「現在入っているJBLのD123(口径30cm)に不満はないがスーパー10にするともっと良くなる可能性がある、口径25cm用のバッフルを倉庫に直していたはずだが・・」

そして、とうとう半日がかりでやっちゃいました(笑)。



グッドマンの指定箱(ARU付き)に見事に収まりましたぞ。

従来通り、ムンドルフ(ドイツ)のコイルを使ってハイカットを700ヘルツ前後に設定した。

高音域は元のまま「175ドライバー」(JBL)を2000ヘルツでローカット(ウェスタン製のオイルコンデンサー)に設定。

「スーパー10」は「700×2=1400ヘルツ」まで「ー6db」の減衰、そして「175」は「2000×1/2=1000ヘルツ」まで「ー6db」の減衰だから両者が折り合う接点の帯域は理論上ではちょうどいい数値になるはずだが・・、とはいえオーディオは実際に聴いてみなくちゃ分からん(笑)。

ワクワク ハラハラしながら、耳を澄ましてみるとこれが何とまあ大当たり~!

カチッと引き締まって小気味よく弾んでくる低音に思わず唸った。
これこそ、我が理想とする低音なんだよねえ・・。

「スーパー10」(英国)と「175」(アメリカ)は相性が抜群ですな。

両者ともにユニットの能率が高いので組み合わせるアンプについて「オーバーパワー」だけは厳禁である。



で、「スーパー10」には「6AR6シングル」(三極管接続)を、「175」には「6FQ7(クリアトップ)プッシュプル」(出力トランスはTRIAD)と、それぞれ小出力アンプをあてがった。

また、音楽ソースはテレビの「You Tube」から引っ張り出した「テイラー スウィフト」の「You need to calm down」



大いに気に入ったので当分の間はこのシステムでいこう。

「小気味よく弾んでくる低音」は爽やかな空気感を醸し出す・・、「暑気払い」にはもってこいですな(笑)。

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おいおい、今さらYOU TUBEかよ・・

2023年08月03日 | オーディオ談義

「少額の投資、あるいは工夫次第で気に入った音が出る」こういう時はほんとうに天にも昇る気がする。

ところが、日が経つにつれ段々と興が醒めてきて「あの感動よ、今いずこ」・・、そしてやっぱり「元の木阿弥」へ。

こういう繰り返しを数えきれないほどやってきたが、つらつら考えるのに、オーディオにとっていちばん大切なもの、それは「変化」なのかもしれないなあと思う今日この頃。

「賢いものが生き残るとは限らない、強いものが生き残るとは限らない、ただ(環境に順応して)変化するものだけが生き残る」(ダーウィン「進化論」)だそうです?(笑)

で、どんなに高級なシステムだってどうせ同じ轍を踏むものだと割り切っているものの、中にはなかなか見どころがあって未練が残るものもある。



ウーファー(口径20cm:アルニコ マグネット)+コーン型ツィーター(口径10cm:赤帯マグネット)のシンプルな2ウェイシステム。

こじんまりとした、いわば「壺中の天」のような小宇宙の世界が取り柄だ。

で、「第三者の耳」を借りようと、去る日曜日(30日)に仲間に来てもらったところ、やはり感性の違いは恐ろしい(笑)。

   



いかに変遷を辿ったか、画像を見ていただければわかるので詳述は避けよう(笑)。

それよりも「耳寄りのニュース」をひとつ。

我が家のテレビが故障したので新型に代えたことから、話が展開していき「施設の職員がYou Tubeが受信できるテレビにしましょうよと、熱心に訴えるのですべて取り替えました。今ではYou・・ばかり見てますよ」と、仲間が漏らした。

その時はそのまま聞き流したのだが、辞去された後で「You・・って、そんなに便利なのかな」と、チャンネルを切り替えてみた。



リモコンのボタンを押せば簡単に切り替えられるので便利。

そして、検索機能も付いているので画面にまず「エンヤ」と打ち込んでみたところ驚いた。



大好きなアルバムがこれでもかというほどいっぱい登場したのだからビックリしますわいなあ。

そして、肝心の音質がメチャいい! テレビの光デジタル端子からDAコンバーター、そしてプリアンプへと接続しているのだが、我が家の「CDトラポ」とまったく遜色なし~。

その昔「おいおい、今さらCDトラポかよ・・」というタイトルで投稿したことがあるが、「おいおい今さらYou Tubeかよ・・」と(いかにも時代遅れだと)笑われそうだけどね(笑)。

さあ、エンヤで味を占めたので次は本命の「MOZART」と打ち込んで検索してみた。

すると・・、またもや関連のアルバムが続々と登場してきたので、ウヒャア~とうれしい悲鳴・・。



中でも「ヒラリー ハーン」が弾くヴァイオリン協奏曲が聴けるんだから、もうたまらん・・。

こうして実際に「音楽がタダで聴ける日」が到来したんだなと感無量だった。

これから、我が家の音楽生活に「You Tube」が色濃く影を落とすのは確実ですね。

最後に、念のため「You Tubeって何?」

「YouTubeは、ユーザーがビデオをアップロード、共有、視聴できるウェブサイトで、2005年に設立されました。

現在では世界で最も広く利用されている動画共有プラットフォームの一つで、ユーザーは音楽ビデオ、映画予告編、教育的なビデオ、vlog(ビデオブログ)、ニュースリポート、ゲーム実況、DIYガイド、レビューなど、さまざまな種類のコンテンツを視聴できます。

YouTubeはコンテンツクリエーターが広告収益を得るための手段も提供しています。これには、視聴者からの直接的な支援、広告収入の分配、有料サブスクリプションなどが含まれます。

さらに、YouTubeは視聴者が広告をスキップできるプレミアムサービスも提供しています。これにより、ユーザーは月額料金を支払うことで広告なしでコンテンツを視聴することができます。

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ガンよりももっと怖い「認知症」

2023年08月02日 | 独り言

人間は何時かは心臓が止まって息をしなくなる動物である。

何かの本に書いてあったが「おぎゃあと生まれた瞬間に、お前を100年以内の死刑宣告に処する。方法と場所は問わないからな」

きわめてネガティブな発想だが(笑)、まあ「いずれは」と覚悟はできている積りでもその止まり方が問題だといつも思う。


たとえば老衰により自然のままに息を引き取るのが理想だが、そうは問屋が卸すまじと様々な病気が待ち構えそして襲ってきては天命を邪魔してくる

厚生労働省が発表した最新の「日本人の死因」は次のとおり。

1位 悪性新生物(がん) 24.6% 2位 心疾患 14.8%

3位 老衰(11.4%)

となっている。

さらに、タイミングよく昨日(8月1日)発表された「国立がん研究センター」の推計によると、

「2015年に国内で治療を受けたがん患者のべ約400万人について、医療費と、欠勤・休職や死亡に伴う労働損失を推計した。

とまあ、「がん」はおよそ3人に1人は「がん」で亡くなるばかりではなく経済的な損失においても猛威を振るっていることがわかる。

で、実はそれよりももっと怖いと内心思っているのが「認知症」である。


経済的な損失はおそらく「がん」以上だと思うし、さらには「生き恥」をさらす方が「がん」よりももっとつらい(笑)。

「訳が分からない言動が始まりだしたら殺してくれ」と、家族に言いたいところだが、実際にはそうもいかないだろうから、現実的な対策としては出来るだけ生活習慣に気を配り、適度な運動や脳トレなんかやって「認知症」になるのを遅らせるしか手がない。

そのうち、きっと「いい薬」が発見されると思っているが、大きな製薬会社が莫大なお金をかけて開発しているもののいまだに特効薬の発見には至らないようだ。せめて自分の発症までに間に合ってくれればと切に願っている、まあ、どちらがしぶといか競争ですね、これは・・。

そういう状況の中、新聞の広告欄に載っていた雑誌の見出しがこれ。

   

「脳トレ」に良さそうだとさっそく書店で購入して読んでみた。

すると、いつものとおりこの種の雑誌は「見出し」と「中身」がそれほど釣り合っておらずガッカリの一幕だったが「転んでもタダでは起きない」・・、ちょっと気になる記事があったのでピックアップしてみた。

✰ 世界の名門校「ハーバード式の地頭の鍛え方」

著者はハーバード医科大学大学院医学博士「川崎康彦」氏(専門は神経生理学)

 記憶には短期記憶と長期記憶があり、前者はITの発達などで代替可能なので人生にとって重要なのは後者である。

 記憶力向上のためにキモとなるのは脳内環境の整備である。つまり脳内の様々な部位すべての細胞内の器官や細胞膜の状態をベストにすることが重要だ。

 そのためのポイントは二つで「ワクワク」「ハラハラ」することだ。

 まずワクワクして物事に取り組むと脳内ホルモンの「ドーパミン」が放出され集中力とパワーが生まれる。

 次にハラハラとはチャレンジすることである。出来ないことにチャレンジして普段は使わないような脳の使い方をする。つまり左脳と右脳をバランスよく使ってパターン化した思考、行動様式から抜け出すことが肝心。

 右脳でインプットしたものを左脳でアウトプットすることが脳の効果的な使い方だが、記憶のためにはインプットよりもアウトプットの方が大切だ。

 「インプット→アイデアが浮かぶ→アウトプット→インプット」のサイクルが記憶力向上のコツである。アウトプットとは人前で発表したり、文章にしたためること。

 チャレンジする際に一つアドバイスをしよう。日本人は完璧を目指しがちだが、何か新しいことをやろうとすると失敗はつきものだ。ハーバードでは失敗はむしろ歓迎されていた。大成功につながるきっかけになるから。

 何かにチャレンジしようと思って実際に行動に移しただけでもその50%は達成したといっていい。そこが大事だ。ヤル気と勇気をもって一歩を踏み出したことを自分で評価しましょう。

10 完璧が求められるのはAIの仕事だ。私たちは個々の不完璧さの中から自分らしさを確立させていくのが価値創造の上でたいへん重要です。

かいつまむと、以上のとおり。

これを自分に当てはめてみるといつもの我田引水になるが(笑)、かなりワクワク ハラハラすることには事欠かない。

たとえば、図書館で面白そうな新刊を見つけたとき、ブログに関する津々浦々からのメールの到来、ほかにも好きな音楽の発掘、さらにはオーディオでいろいろチャレンジしているのは日常茶飯事のことで、その結果を拙いながらもブログで文章にしているので少しは認知症の到来が遅くなるかもしれないと希望的な観測を抱いている。

オーディオに「サム マネー」はつきものだが、少しでも「認知症予防」に役立つと思えば安いもんだろうが・・、と家内と娘に対し声を大にして叫びたい~(笑)。 



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青天のへきれき物語

2023年08月01日 | ウマさん便り

南スコットランドからの「ウマさん便り」です。

「ウマの、あゝ青天のへきれき物語」
 

時々、訊かれることがある。

「どうして、スコットランド人と結婚したんですか?」 

ところが、そんな質問にどう答えていいのか自分でもよくわからない。でね、以下の文章を読んでいただいたら、皆さんにも、なんとなくその理由がわかっていただけるような気がするんだけど…さあ、どうかなあ?

そもそも僕の場合、結婚に至る経緯(いきさつ)がちょっと普通じゃないんだよね。ま、それはともかく、結婚したからにはその相手との出逢(であ)いというものがある。ちょうどいい機会だから、とりあえず、まず、そこらへんから振り返ってみようかな… 

…1978年9月の始め頃のことだった…(と思う)。その頃、世田谷の僕のアパートに、エリックというフランス人が居候(いそうろう)していた。その彼が「パーティーがあるから一緒に行こう」と僕を誘った。かなり蒸(む)し暑(あつ)い日だった。あまり気が進まなかったけど、ま、暇(ひま)だったので出かけた。

ペットボトルなどなかった当時、コカコーラの1リットル入り瓶(びん)とナビスコのクラッカーを手にJR中央線に乗り、東京の西方、三鷹駅で降りた。そして、駅の南口からかなり離れた、まあ、恐ろしく粗末(そまつ)な、外国人ばかり住んでいるというそのオンボロアパートの、崩(くず)れ落ちそうな階段を上った。

お世辞(せじ)にも綺麗(きれい)とはいえない6畳の間には、車座(くるまざ)に座った外国人の男女が10人ほどいただろうか。 

「よかったらどうぞ」…

僕はコカコーラとクラッカーを、車座の真ん中あたりに置いた。その直後

 「コカコーラは身体(からだ)によくないですよ」と、僕の対面(たいめん)にいた女の子がぬかしはった。ややカチンときた僕は、すごく目の大きいそのブロンド・ロングヘヤーの女の子に軽く反発してしまった…「じゃあ、何が身体(からだ)にいいんですか?」

表情豊かでなかなか可愛い娘(こ)やなあと思ってたけど、ちょっと意地(いじ)を張ったんやろね。ところが、その彼女の返事には面食(めんく)らった。

「玄米(げんまい)が身体(からだ)にいいです」…

ちょっとちょっと君なあ、飲み物と食べ物を混同したらアカン。さらに意地を張った僕「じゃ、あなたは玄米を食べてるんですか?」

ところが「エエ、毎日食べてますと」とぬかしはる。その上さらに「あなたにも食べさせてあげましょうか?」とニコッとしておっしゃる。意地を張ってた僕は、あとに引けなくなっちゃって「じゃ、食べさせていただきましょう」

それが、キャロラインさんとの出逢(であ)いだったですね。

ま、そんなわけで、僕は、わざわざ玄米を食べに、日本にやって来てまだ間がないというキャロラインさんの、渋谷区代々木上原(よよぎうえはら)のアパートを訪(たず)ねる羽目(はめ)になっちゃったんや。ま、武士に二言(にごん)はないっちゅうことでござるよね。

もちろん、独身女性、しかも外国人女性のアパートに、単身で訪(おとず)れるという非礼は避(さ)けたかったので、友人を伴(ともな)ったのは云うまでもないのでござる。

なっ?こういうこころがけ、やっぱり武士とちゃうか? エッ? 尊皇攘夷(そんのうじょうい)を思い出せ!いや、おぬしな、大きなお目目の西洋美人を目にしたウマは開国派(かいこくは)に転向(てんこう)したのよ。勝海舟(かつかいしゅう)や福沢諭吉(ふくざわゆきち)に習(なら)えでござるぞ。

エッ? 情けないニッポン男子や! すんまへんな… 

ところで、玄米(げんまい)が身体(からだ)に良いというのは僕も充分承知していた。でもね、当時、マクロヴァイオティック、つまり、菜食(さいしょく)中心の健康食にいたく興味と関心をもっていたキャロラインさんの、その玄米なあ…小さい鍋にニンジンやキューリをぶつ切りにしたのといっしょにぐつぐつ煮(に)てるんや。そして塩を振っただけのそのお味なあ…ウ~ム、ちょっとコメントは控(ひか)えたい。いっしょに御馳走(ごちそう)になった舟橋君も、ニコニコしながらもちょっと顔をしかめてたね。 

屈託(くったく)のないその笑顔、大きなお目目が印象的な、とても爽(さわ)やかな人だとは思ったけど、でもね、キャロラインさんって、日本から遥(はる)か遠~い西洋からやって来た方や。僕にしたら、スコットランドなんて、地球の裏側の、そう、ネッシーがいるファンタジーの国なんや。所詮(しょせん)、別世界にいる縁のない人だよね。で…

「玄米ありがとう。とても美味(おい)しかったです(一応な)」

それで、彼女とはそれっきりになってしまったと思った。 

ところが、一週間後ぐらいだった。おおぜいの人でごった返す渋谷駅のハチ公前で、ばったりキャロラインさんと再会したんや。

「ウマッ!」うしろから声をかけられたので振り返ったら彼女だった。

当時は今と違い、東京でもまだまだ外国の方は少ない時代やった。だから、ブロンド・ロングヘヤーの彼女はハチ公前でもかなり目立ってたね。

僕は、道玄坂(どうげんざか)の百軒店(ひゃっけんだな)にある行きつけのジャズ喫茶で、たった今買ったばかりの話題のハードボイルド、ギャビン・ライアル著 「深夜プラス1」 を読もうと、ワクワクしながら向かうところやった。

でもね、偶然(ぐうぜん)とはいえ予期せぬ再会じゃない。ちょっと迷ったけど、ダメもとで誘ってみた。「良かったら一緒に来ませんか?」

いや驚いた。なんと彼女、一緒に来ると言うんや。エッ? ほんまかいな? 予想外の反応に僕はちょっとうろたえた。でも、あとで気が付いたことなんやけど、日本に来たばかりの当時のキャロラインさん、たぶん、日本人の友達が欲しかったんやろね。少しは英語が通じる日本人の友達がいたら、なにかと便利やもんな。 

ジャズ喫茶というものは日本独特のもので外国にはないということは僕も承知していた。そのせいかキャロラインさん、巨大なスピーカーや、壁一面のおびただしい数のLPレコードに目を瞠(みは)っていた。しかし、その大音量の中ではとてもお話など出来ないので早めに出て、すぐ隣りのカレー屋さんで食事をした。

彼女との再会はまったく想定外(そうていがい)の出来事だったけど、その時が、彼女と、まあ少しはプライベートなお話をした最初だったんじゃないかな。いや、ウマにとって、西洋人の女性と二人きりでお話したのはその時が最初だったんで、ちょっと緊張(きんちょう)した。 

パーレビ当時の革命直前、外出もままならない超不穏(ちょうふおん)なイランの、その軍学校で彼女は英語教師のアルバイトをしていた。教員宿舎のとなりにいた、当時の慶応大学教授で、イスラム学者として知られたK教授と出逢(であ)ったことが日本に来るきっかけとなった。

でもその時、彼女は、日本がアジアのどの辺にあるのか、はっきりとは知らなかったと言う。来日直後は、千葉の田舎の、K教授の実家にお世話になり、その後、代々木上原(よよぎうえはら)に住む教授の妹さん宅の近くにアパートを見つけてもらったことなど、日本に来た経緯を教えてくれた。

僕と出逢(であ)ったのは、どうやら、その代々木上原に住み始めてすぐの頃だったようやね。 

渋谷・百軒店(ひゃくけんだな)のその老舗(しにせ)のカレー屋さんで、美味(おい)しそうに日本のビールを飲む当時23歳の彼女を眺(なが)めながら、正直言って、素敵な外国人女性と少しはお近づきになれて、ま、嬉しいなとは思った。しかし、いつかは国に帰りはるやろし、もちろん、きっとハンサムな外国人の彼氏もいてはるやろし…

彼女ってやはり縁のない人だと思った僕は、再会の約束なんてもちろん遠慮した。ま、彼女とはそれっきり…と、再び思ったわけやね。 

が、ところがや…、やはり一週間後ぐらいだった。中央線四谷駅で、なんと、またまたバッタリ出くわしたんや。電車に乗ると、すぐそこに彼女が立ってたんだよね。ほんとにびっくりした。彼女も大きなお目めをさらに大きくして驚いていた。 

巨大都市巨大人口の東京で、またまた偶然の再会や。なんなのこれって? 

ちょうどその週末、居候(いそうろう)のエリックが、アメリカ人やニュージーランド人カナダ人など友人を呼んで「鍋(なべ)」パーティーをする計画を立てていた。

で、彼女に「鍋」のことを説明してみた。野菜なども含め、もうなんでも放り込んで煮て、それを皆でつっつく。そうそう豆腐(とうふ)も入れるよと云うと、彼女、途端にニッコリ「豆腐をぜひ食べたい」…で、是非パーティーに参加したいとおっしゃる。

豆腐には格別に興味があったんやろか。そこで「彼氏も連れて来たらどうですか?」と云うと「もし彼氏がいたら連れて行きます」との返事…

でも、鍋パーティーには彼女一人でやって来た。そして「こんなに美味(おい)しいものはない」と、豆腐が大好きになった様子。

その時、この人はきっと日本が好きなんやろなと思った。 

その鍋パーティー以後かな、彼女と週に一度ぐらい会うようになったのは。お互いに便利なので渋谷近辺が多かったと思う。

忘れもしないのは、ガード下のおでんの屋台だった…

屋台で、初めてのおでんと日本酒を楽しんだ彼女、もう感激してたね。

「こんなお店見たことない。素晴らしい!」と、豆腐はもちろん、初めて食べるこんにゃくやハンペンに大感激してた。屋台のおじさんも、「この外人さん、日本人みたいだね」と、おでんもお酒も特別にサービスしてくれた。

その時、また思った…この人、やっぱり日本が好きなんやな。 

会うたびに彼女は、愛するスコットランドのことや、グラスゴーに住む自分の家族のこと、伯母(おば)さんたちや従姉妹(いとこ)たちのことを語り、大学を休学してヒッチハイクでスペインやギリシャなどへ行った思い出話を、楽しそうに話してくれた。

伯母(おば)さんたちや従姉妹(いとこ)たちには独身者が多く、独身生活を謳歌(おうか)している彼女たちの暮らしぶりを見てきたせいやろか、僕には「私は結婚しない人」ってよく云っていた。

つまり独身主義者というわけやね。最初、僕と一定の距離をおくための発言じゃないかと思ったけど、何度も「私は結婚しません」と真剣に云うんで、やっぱりほんまの独身主義者だと信じたね。
 

時々会ってたとは云え、交際しているという感覚は、実はあまりなかった。彼女もそう感じてたと思う。ま、遠い国から来た方に、いろいろ日本のことを教えてあげることが出来て嬉しいなってなスタンスで接していた部分が大きかった。 

キャロラインは、一度訪れた京都の嵯峨野(さがの)にかなり惹(ひ)かれたようで「お豆腐の美味(おい)しい嵯峨野に住めたら最高!」と云ったことがある。健康食に人一倍興味と関心があった当時の彼女が、豆腐ファンになったのは当然やろね。

で、翌年のことだけど、僕が家の事情で大阪に戻ることになった時…

「大阪は京都に近いから、どう? とりあえず大阪に引越してじっくり嵯峨野でアパートを探したら?」と、もちろんダメもとで彼女に話を振(ふ)ってみた。  

すでに慣(な)れ親(した)しみつつあった東京、仕事も順調で友人もたくさん出来た東京、さらに、日本語学校の松尾先生を自分の実の叔母のように慕っていたし…

それらを捨てて大阪に移住するってのは、ま、とても無理な話しだと僕が思ったのは当然だったけど… 

だけど驚いた。彼女、なんと「大阪に行ってみようかな?」と反応したんや。

いやあ、予想外の反応に、ほんまかいな?と思ったね。だから念を押した…

「東京と大阪はまったく違うよ。日本で大阪だけがラテンの国みたいやで」と云うと「大阪はコメディの本場って聞いてるけど、私の育ったグラスゴーも英国ではコメディーの本場、だから大阪には興味がある」と云う。

彼女の好奇心の強さには、もう、ウ~ム…だったね。そもそも、はるか遠い日本にやってきたのも、その好奇心のなせるわざだったんやろね。そしてその好奇心って、異文化に対するものだった。自分の知らない世界、違う文化の国を知りたいという、人一倍強い好奇心… 

聖徳太子建立(こんりゅう)とされる大阪の四天王寺、その東門脇の境内(けいだい)にあった「一音院(いちおんいん)」(今もあると思う)、その住職で画家でもあった坂本さんの奥さんは、歌舞伎が大好きなアメリカ人のヘレンさんだった。

坂本住職夫妻は、その風情(ふぜい)ある「一音院」の中にアパートを設け、近くにあった大阪外国語大学の海外からの留学生を住まわせ、何かとお世話をしておられた。ところが、その大阪外大が郊外に移転したため、その小さなアパートには空(あ)き部屋がたくさん出来ていた。

で、キャロラインのことを坂本夫妻に相談したところ、快い返事をいただき、彼女はめでたく四天王寺の境内に住むことになった。ま、嵯峨野(さがの)じゃないけど、この「一音院」での暮らしは、彼女にとってかなり快適だったみたいやね。 

そして、大阪でのあらたな仕事も順調で、友人も増え、さらに、なんと、東京にいた外国人の友人たちが、続々と大阪に引越してきたりして、日々、とても楽しかったんじゃないかな。

普通の日本人にとっても、由緒(ゆいしょ)あるお寺の境内にあるとても風情(ふぜい)ある院に住むなんて、ちょっと得がたいことだよね。その一音院には、なんと小さいけどプールまであった。
 

そんな大阪での生活が始まってしばらく経(た)ったある日…

「お腹が強烈に痛くて動けない」と、僕に緊急の電話をしてきた。喋(しゃべ)るのもかなり苦しそうな彼女、これは普通じゃないと判断した僕は救急車を要請(ようせい)した。で、運ばれた生野(いくの)区内の民間病院で盲腸の緊急手術を受けた。

ラッキーなことに、ちょうどその三日前、彼女は国民健康保険に加入したところだった。そして、僕はもちろん、僕の母も、入院中の彼女のお世話をすることになったわけです。 

当時の僕の家族、両親はもちろん、おばあちゃんも、言葉など全然通じないのに、彼女のことをかなり気に入ってた。彼女が昼下(ひるさ)がりの縁側(えんがわ)でおばあちゃんの肩を揉(も)んでたこともあった。おばあちゃんがニコニコして云った「エエ娘(こ)や」…

その時思った…この人は人種的偏見をまったく持ってないな。

いや、今、思うんだけど、人を上にも下にも見ない人なんやね。人を見下したり、逆にへりくだったりする彼女を見たことは、今まで一度もない。後年、ダライラマやエリザベス女王と会った時も、態度が普段とまったく変らなかった。

ま、盲腸の手術などは想定外だったと思うけど、東京同様、様々な異文化体験を楽しんだ大阪での生活は、けっこう楽しかったんじゃないかな。 

やがて、スコットランドに帰ることになった彼女を、伊丹空港に見送る日が来た。そしてその時、東京や大阪、京都や奈良、それに、大好きな日本の田舎(いなか)を存分に楽しみ、異文化に対する好奇心をふんだんに満足させた彼女のことだから、多分、もう日本には来ないんじゃないかという予感がした。

でも「ウマ、グラスゴーに遊びに来たら?」との誘いには乗った。

そして1980年8月、僕はグラスゴーを訪れた。初めてのスコットランドは、実に楽しく有意義な体験だった。彼女の家族はもちろん、すべての方が僕を温(あたた)かく歓迎してくれた。そして皆さんどなたも「日本に行ってみたい」とおっしゃるんでびっくりした。キャロラインが「日本は素晴らしい国」だと伝えてたんやね。で、後年、兄弟や妹、それに従姉妹たちが続々と日本にやってくることになる。 

十日ほどの滞在中、例の独身の伯母さんたちや従姉妹たちのおうちにも何度か呼ばれた。やっぱりキャロラインの云う通りや。皆さん独身生活を優雅に楽しんでおられる。

だから「私は独身の人生を歩むつもり」と、 かつて彼女が何度も云ったことにも、ま、納得出来たわけやね。一生独身の人生も、また良きかなだよね。
 

愛する故郷スコットランドに帰り、素晴らしい人たちに囲まれ、幸せに過ごしている彼女を見た僕は、帰りの飛行機の中で、たぶん彼女と会うことは、もうないやろなと思った。そしてそれ以降、手紙のやりとりもうんと少なくなった。 

ところがや… 

なんと晴天のヘキレキや!もうウマは目が点になりましたがな、その、とんでもない手紙を受取った時は…

1981年師走(しわす)に入った頃だった。クリスマスカードに添(そ)えられた、彼女からの、まあ、実に久し振りの手紙…、それを見たウマは、もう、目が点になっちゃったのよ。なんとなんと、あのコテコテの独身主義者が

「わたし来年の二月に結婚することしました」…エーーッ!!! なんやてーー??? 

一生、独身で過ごす云うとったやないか! 

でもな、めちゃビックリしたけど、すぐに思い直した。本人さんがそう云う以上、これはやっぱり祝福(しゅくふく)せんといかん。そうや、ここはひとつ祝福せんといかんよな。で、その衝撃的な手紙の続きを読んだ…

ところがや、驚いた! 驚いた! またまた驚いた!  な、な、なんやこれは?

なんと晴天のヘキレキ第二弾が待っていた。目が天に、アッ、ちゃう、目が店に、アッ、ちゃう、興奮して間違うてしもたやないか。お目目がね、もう一回点になっちゃったのでござる。な、な、なんやこの手紙は? これを晴天のヘキレキと云わずしてなんと云う! 

その手紙の最後にはこうあった…

「…そう言うわけだからウマ、あなたは、遅くとも結婚式の一週間前にはグラスゴーに来て、まず神父さんと会ってください。新郎として着用する服は日本から持ってきてください」ナ? ナ? なんやコレ~~???

以上、我が人生における「晴天のヘキレキ物語」でございました。ああ、しんど… 

いずれにしてもその手紙のビックリ内容に、コレほんまかいな?と若干(じゃっかん)の疑いは持ってた。だから姉や妹には「ひょっとしたらキャロラインさんと結婚することになるかもわからん」ってな言い方をしてたね。 

ま、そんなわけで、翌年二月、若干(じゃっかん)の不安を抱(かか)えながら、グラスゴー行きの飛行機に搭乗した次第です。飛行機の中で気が付いた。結婚ってプロポーズっちゅうもんがあるんと違うか普通は。僕、プロポーズしたっけ? いや、そんな記憶ないで。プロポーズなんかしてませんがな。そもそも彼女が「わたしは独身主義」…何度も云うとったしな。 

では、なぜ彼女がウマとの結婚を決意したのか? これ当然の疑問だよね。彼女の独身主義は、伯母(おば)さんたち従姉妹(いとこ)たちの影響だったのは間違いない。ところが、伯母さんたち従姉妹たちは、そのどちらも姉妹で暮らしてた。

つまり、同じ屋根の下で助け合う相手がいたってことや。で、万が一の事が起こった場合…例えば大阪での盲腸で緊急入院した件などを思い起こすと、やっぱり誰か一緒にいたほうが将来何かと安心ではないか、と考えたんじゃないか。だけど、そうだとしてもやな、そんな相手は、手近(てぢか)なスコットランドで現地調達すればエエやないか?
 

いくら異文化に対する好奇心や、特に、前世(ぜんせ)は日本人じゃなかったか?というほど日本大好きな彼女にしても、だからと言って亭主まで日本産を選ぶかなあ?

異文化に対する挑戦と、その人一倍強い好奇心を考えてもちょっとなあ…


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