「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「ウマさん便り」の後日談

2023年03月16日 | ウマさん便り

前回の「南スコットランド・・」は、多くの方々の興味を引いたと見えて、近年にないダントツのアクセスでした。ありがたいことです。

何よりもロマンがありますね~、
そして、お国柄というかイギリス人の飾り気のない奥ゆかしさ・・!

そこで「鉄は熱いうちに・・」と、後日談をご紹介。

まず、ストーリーの中でスポットライトを浴びた明治屋(大阪)さんの「盃」だが、「百聞は一見に如かず」なので、画像をようやく探し当てて「ウマさん」(スコットランド在住)あてに「これで間違いないですか?」と問い合わせたところ、次の画像が送られてきた。



”どんぴしゃり”でした! 私も欲しいです(笑)。

そして、ありがたいことに追加のメール「後日談」がありました。

「実は、とても素敵な後日談があるんです。
 
アンドレアの息子アンディーが、フランス人の恋人ソフィーと僕を訪ねてくれたことがありました。ちなみにアンディーは通常アンドリュースの略ですが、彼の場合、アンドロメダの略だそうです。こんな素晴らしい例外は他にないでしょう。やっぱり爺ちゃんの孫ですね。
以下は、そのアンディーの話です…
 
アンドレアは亡き母の形見のグヮルネリ・デルゲスを、ロンドン・シンフォニーオーケストラで母のルイーズと一緒にヴァイオリンを弾いていたマーガレットに貸与したと言います。

爺さんをよく知るマーガレットは、幼かったアンディーに、しょっちゅうディズニーの「ピノキオ」の挿入歌「星に願いを」を弾いて聴かせたそうです。いい話ですよね。
 
そのアンディが、なんとグリニッジ天文台に勤務していると言うんで、僕は唸ってしまいました。なんちゅう孫や。草葉の陰で爺ちゃん、きっとニッコリしているでしょう。

さらに、アンディーがソフィーと知り合ったのが、パリのデイズニーランドだと言うんで、このファミリーはどこまでファンタジーの世界にいるんだろうと、僕は呆れてしまいました。
 
それと思いがけないことを発見しました。
僕の愛聴盤の一つ、アンドレ・プレヴィン指揮、ロンドンシンフォニーによるラフマニノフの交響曲第2番に、メルヘン爺ちゃんの白雪姫ルイーズが、オーケストラのメンバーとしてヴァイオリンを弾いている可能性が非常に高いんです。いや、そう思いたいですね。

僕のスピーカーから流れてくるオーケストラのヴァイオリンの中に、ルイーズの音が混じっている…」

いやはや、「縁は異なもの・・」といいますか~。

次に、(メルヘン爺ちゃんの)星の観測時のBGM「ピアノソナタ」(モーツァルト)について。

この、ブツブツとつぶやく「独り言」に「ふ~ん、そうかそうか」と付き合いだしてから軽く40年にはなりますが、いまだに飽きがこず汲めども汲めども尽きせぬ泉のように水がこんこんと湧いてくる印象です。一度嵌ってしまうと病み付きになる音楽ですよ・・、これは。

      

次に、メル友の「I」さん(東海地方)から次のメールをいただいた。

「今日のウマさん便り興味深く拝見しました。

ヒュー爺さんはヒューム元首相なんじゃないか? と思いながら読んでいましたが、年齢が合わないかな? と・・・そういう方だったんだ!

MG-Bが出てきましたね。

この車は私が〇〇保健所で精神保健の業務に付いていた頃、〇の精神保健センターにいらっしゃった鈴木さんという先輩の愛車でした。

サスが弱くて乗り心地が悪く、雨漏りもするで、苦労されていました(笑)。しかし。 佇まいは最高でした。

鈴木さん(スーさん)は一回り年上の方で、私は凄く可愛がってもらいました。

テニスやスキーそしてワインの手ほどきを受けましたが、テニスは最後までかないませんでした。

10年ほど前に肺がんで亡くなられました。70歳前半という若さでした。

自宅療されている時に、電話で良く話をしましたが、人に心配をさせない方で、私は電話を切った後、落涙したものです。

スーさんはクラシックファンで、もちろんモーツアルトの話も良く聞きました。

「Iさん、弦楽五重奏第〇番の第〇楽章の出だしのここが、「天使の声が聴こえると」〇〇が表現したんだよ」

と言われましたが、いい加減な私は、〇及び〇〇の部分を覚えておりません。

もし、ご存じでしたら教えていただけませんか?」

というわけで、まず、「MG-B」について。



不覚にも名前と姿が一致しなかったが、このクルマなら見たことがあります・・。フロント部分が旧型「ジャガー」に似てますね。このクルマが「盃」と交換ですかあ!


次にモーツァルトの弦楽五重奏曲について。

実は「カルテット」と「クインテット」の区別が判然としなかったので確認しました(笑)。

前者が「四重奏」のことで構成は「ヴァイオリンが2、ヴィオラが1、チェロが1」、後者の「五重奏」では「ヴァイオリンが2、ヴィオラが2or1、チェロが1or2」。

ヴァイオリンがヴィオラやチェロに対抗するためには2挺要るというわけですかね。

手持ちのCDがこれです。弦楽五重奏曲の第3番と第4番(ヨゼフ・スークとスメタナ・カルテット)



「ライナーノート」には、こうありました。

「モーツァルトの弦楽五重奏曲はすべてヴィオラ2挺の編成で、チェロ2挺のものは1曲も書かれなかった。これにはさまざまな理由を考えてみることが可能であろうが、まず一つにはチェロを2挺にして、低音部を重くすることは必ずしも彼の音楽的趣味に適うものではなかったと思われる。彼の音楽はどんな場合にも低音は明快でなくてはならない」

よく分かりますよ~。「天馬空を駆ける」ような軽快な音楽が彼の持ち味なので、低音部が重たいと話になりませんからね。システムだって・・。

おっと、また余計なことを口走りそうに~、危ない、危ない(笑)。


さて、「I」さんの想い出「天使の声」に該当するかどうかわかりませんが、久しぶりにこのCDを聴いて「3番 K515の第二楽章」「4番 K516の第三楽章」の冒頭部が琴線に触れて思わず涙しました!

さっそく、その旨「I」さんにご連絡すると、たまたま同じCDを持っておられて
私も、このCDを聴き返しました。いい音楽ですね。天使の声として、ひとつを選ぶとしたら、第4番の第3楽章ですかね・・・」

K(ケッヘル)の500番代といえば、ほかにもディヴェルティメントK563があって、名曲ぞろいですね。

最後に「ウマさん、これからもおもろい話をぎょーさん頼んまっせえ~」(笑)。



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南スコットランドからの「ウマさん便り」~2023・3・14~

2023年03月14日 | ウマさん便り

「メルヘン爺ちゃんと星とモーツァルト」

時々、うちの近辺ののどかな田舎道(いなかみち)を、犬のクリを連れて散歩する。

途中、小高(こだか)い丘に緩(ゆる)やかに登っていく脇道がある。その丘の上からの風景が絶景でね、はるか下に見下ろす我がアラントンハウスが立派なお城に見えないことはない。その丘に、僕がメルヘンハウスと呼んでいる家がある… 

放(はな)し飼(が)いのニワトリが十数匹ウロウロしているその家の前を通るたびに、しげしげとその家を眺(なが)めてしまう…

だってな、ディズニーの白雪姫(しらゆきひめ)に出てくる七人の小人のお人形さんたちが、西部劇に出てくるワゴンホィールなどと共に、そこらに飾(かざ)ってあるのよ。誰が見ても、ちょっと普通じゃないこの家、まさにメルヘンハウスなんや。

陶器で出来た、その大きな?七人の小人さんたち、皆さんニコニコと、そこにいるのがとても幸せそうなのよ。白雪姫はどこや?

クリスマスの季節になると、我が家からも、そのメルヘンハウスのロマンチックなイルミネーションのカラフルな光が見えるんや。丘の上に、夢見るようにキラキラと輝いて… 

いつだったか、雪が降ったあとの月明(つきあ)かりで、あたり一面の雪がキラキラと光るクリスマスイブの宵(よい)、丘の上のメルヘンハウスを、うちのリビングルームから見上げていた僕は、雪面に輝くそのイルミネーションのあまりの幻想的な美しさに、これはファンタジーの世界やと見惚(みほ)れてしまった。

で、ふと、あの七人の小人たちに思いを馳(は)せ、思わず「白雪姫(しらゆきひめ)(スノーホワイト)はどこや?」と呟(つぶや)いてしまった。そしたらアンタ、僕の脇でワインを呑んでいた女房のキャロラインがな「…ここにいる…」やと。

彼女って、めったに冗談を云わない真面目(まじめ)な方なんで、思わず吹き出してしもたがな。ワインで、エエ気分になってはったんやろね。ま、クリスマスイブやし…結構(けっこう)けっこう… 

それはさておき、このメルヘンハウス…どんな人が住んでるんやろ? そう思うのは当然だよね。

ある日、クリを連れての散歩の途中、そのメルヘンハウスの前にさしかかったら、ヨボヨボの小さな犬が出てきて我々を歓迎してくれた。

その犬、歩くのもよたよた、右に左にフラフラ、かなりのお歳やないか。その直後、家の中から「メグ!メグ!」と叫ぶ声があり、その犬メグの飼(か)い主(ぬし)が家から出てきはった。

年のころ80歳ぐらいやろか。メグもとてもきれいな犬とは云えないけど、その爺ちゃんの格好(かっこう)も、もうヨレヨレ。ところどころ破(やぶ)れたキルティングのジャンパーを着たその姿、まるでホームレスや。首に、なにやらペンダントみたいなものをぶら下げてはるけど、もちろん、ぜんぜん似合(にあ)ってない。


そう、メルヘンハウスの主(ぬし)に、やっと会えたのよ。 

その爺ちゃん、僕を一瞥(いちべつ)するや、ややぶっきらぼうに

「今、お茶淹(い)れたとこやから家に入っといで」と、人の返事も聞かずにメグを連れて家に入ってしまいはった。仕方がないから、彼のあとから家に入った。

ウ~ム…この人がメルヘン爺ちゃんか? でも、イメージがちょっとなあ?

家の中は、メルヘンチックな外観と違い、かなり重厚(じゅうこう)な造(つく)りで、そのリビングルームのロッキングチェアに腰を下ろし、暖炉(だんろ)の前でお茶をごちそうになった。

棚(たな)にかなりの数のウィスキーボトルがあったんで、しげしげとそれらに見とれていると「君、ウィスキー呑(の)むか?」返事も待たずにグラスに注(つ)いでくれてはる。  

挨拶も自己紹介もなし。けったいな人や。

で、このメルヘン爺ちゃん、自分もウィスキーをひとくち飲み、やっと僕に質問しはった。近隣では唯一(ゆいいつ)の東洋人と言っていい僕に「どこから来た?」とは聞かず「どこに住んでる?」…アラントンと答えると「ああアラントンか!」と、膝(ひざ)を叩(たた)いてニコニコ…。やっとニコッとしはったんで、やや安心した。  

これが、ヒュー爺ちゃんと僕との出逢(であ)いだった。 

この爺ちゃんな、ニコッとすると顔が変わるんや。やや無骨(ぶこつ)な顔が、途端(とたん)にめちゃ可愛(かわい)い顔になる。もう満面(まんめん)の笑(え)みで顔はしわくちゃ。裏(うら)おもてゼロ! まさにメルヘン爺ちゃんや。格好はホームレスやけどさ。しかし、あのペンダントは似合わんなあ。 

以後、毎週のように自分とこでとれた新鮮な卵を届けてくれるようになった。挨拶なしでアラントンの玄関に卵のパックを置いていきはるのよ。放(はな)し飼(が)いのニワトリのその卵、もう、スーパーの卵とは黄身(きみ)の色からして違うし味もぜんぜん違う。

ある日、たまたま、アラントンの玄関で、初めて爺ちゃんに会ったキャロラインが、日頃の卵のお礼を言った時、ちょっと慌(あわ)てた様子(ようす)の爺ちゃんの返事にはずっこけてしもた。

「いやな、うちのニワトリどもがな、卵をアラントンに持っていけ!云うとるもんでな」人に恩を売らない洒落(しゃれ)た言い方だよね。好きやなあこんな人。 

彼、ヒュー爺ちゃんがうちに卵を届けるのに乗ってくる車、これが超ブリティッシュなんです。今から半世紀ほど前のMG–B、かつての英国を代表するスポーツカー、今や骨董品(こっとうひん)と云ってもいい車や。自動車少年だった僕にとっても、かつての憧(あこが)れの車やった。

ある日、近所の街道(かいどう)で、爺ちゃんが乗るブリティッシュグリーンのMG–Bを見かけ、そのうしろを走ったことがあったけど、爺ちゃんの運転、もうフラフラ…

アカン、爺ちゃん、もう、運転やめなはれと云いたくなった。 

さて、ちょっと話がそれるけど、大阪市阿倍野区の、チンチン電車が走る通(とお)り沿(ぞ)いにある居酒屋・明治屋は、僕が大学浪人時代に通(かよ)い出した居酒屋であり、大阪で一番古い居酒屋でもあった。この店、今でも僕の最愛の居酒屋なんだよね。

居酒屋ってさあ、インテリアを民芸調にしたりして、わざと古い雰囲気を作る店がけっこうあるけど、この明治屋はね、そんなことをしなくても、そもそもとても古い。サムライが現れそうな雰囲気なんや。 

かなり以前のことやけど、僕がスコットランドに移住すると知ったこの店の御主人、松本さんが「うちを忘れんといてください」と、明治屋のおちょこ、つまり、さかずきを僕にくださった。

お酒を呑(の)むのにこんなに相応(ふさわ)しいさかずきはちょっとない。唇(くちびる)に当たる部分の、そのカーブが絶妙なんや。

今でも、お酒を呑むのに僕が一番好きなのが、この明治屋のおちょこなのよ。松本さんにいただいた、この明治屋のさかずきは、僕にとって、お酒を美味(おい)しく呑(の)めるこの上ない器(うつわ)であり、さらに、地球の裏側スコットランドで、大阪はアベノの、あの懐かしい明治屋を思い出させてくれる、とても大切
な道具となった。 

さてさて、ある日、ヒュー爺ちゃんが、週末の午後かなり遅くに卵を届けにうちにやって来た。

「爺ちゃん、きょうはうちに泊(と)まっていかない? 日本から上等のお酒が届いたんや。いっしょに呑もうよ」

ヒュー爺ちゃん、めちゃ喜びはった。かねてより日本のお酒には興味を持っていたとおっしゃる。が、ちょっとした異変(いへん)があった…

 ヒュー爺ちゃん、例の明治屋のおちょこに痛く興味を示し「こんなの初めて見た。素晴らしい! これ、わしにちょうだい」やと。

「アカン! 爺ちゃん、これ、僕にとって、想い出深い大阪の明治屋のさかずきやねん」…そしたら爺ちゃん「わしの車と交換しよう」やと。

冗談やと思ったら、彼、久しぶりにロンドンから彼の家に来てるという娘さんに電話して

「ウマにわしの車をあげることにしたから、明日(あした)の朝、迎えに来て」だって。

冗談やなく本気なのよ。ビックリした。 

で、翌朝、迎えに来た娘さんのアンドレアが云った。

「もう運転はやめてって何度も云ってきたので、ちょうどいい機会だわ」

…やっぱりな…

そんなわけで、かつての英国を代表するスポーツカーMG–Bをいただいたのでございます、明治屋のさかずきと交換でな。

明治屋のさかずきを手にした爺ちゃん、もう、満面の笑みで

「ウマ、これ、わしの宝もんや」

ま、そもそも、さかずきなんてもんがないスコットランドの田舎(いなか)やけどさあ。

でも、おちょことスポーツカーを交換した人間なんて、世界中探してもおらんやろ。で、この話、明治屋の御主人、松本さんに言ったらきっと驚くやろなあ。  

日本に行く機会があれば、明治屋に寄って、松本さんに事の顛末(てんまつ)を報告し、厚(あつ)かましくも再度さかずきをいただこうかな。 

爺ちゃん宅では、いつも、リビングやキッチンで呑(の)んでたけど、ある日、二階の彼の書斎(しょさい)で呑んだことがあった。いやあ、もう、びっくりしてしまった。

重厚(じゅうこう)な書斎の壁二面すべてが本棚(ほんだな)で膨大(ぼうだい)な数の本がぎっしり。さらに、たくさんのLPレコードと立派なオーディオシステムがある。

しかし、特に僕の目を引いたのは、ガラスケースの中に立ててあるヴァイオリンだった… 

「このヴァイオリン、爺ちゃんの?」

「いや、亡くなった女房のもんで、デルゲスっちゅうヴァイオリンや」

「えーっ? デルゲスって、まさか、グワァルネリのデルゲス?」

「なに? ウマはグワァルネリを知ってるんか?!」

「ストラディバリウスと並ぶヴァイオリンの名器でしょ」

爺ちゃんは遠くを見つめるように呟いた…

「ロンドンに住んでた時、女房はロンドンフィルのメンバーやった…」 

「爺ちゃんはどんなレコードを聴くの?」

「ほとんどモーツァルトや…」

英国を代表するタンノイの12インチのスピーカー、それに、かつて僕も使っていた、やはり英国のクォードのアンプ。嬉しい組み合わせやないか。ところが、レコードプレーヤーがドイツのデュアルのオートチェンジャーなんや。どうして?  

その理由はすぐに分かった… 

その書斎の南側は全面ガラス…、その外側には広いデッキがある。そこに、電動で屋根が大きく開閉(かいへい)するサンルームがあるんやけど、なんと、そこに、めちゃデッカイ反射望遠鏡があるのには、まあ驚いた。その直径50センチはある巨大な反射望遠鏡の周(まわ)りには、なにやらおびただしい数の観測機器らしいものまである。まるで天文台(てんもんだい)やないかここは。 

本やオーディオ、それにグワァルネリのデルゲスに目を見張り、さらに、まるで天文台みたいな設備に目を丸くしている僕に…

「星を観(み)るためにここに引っ越してきたんや…ここで、モーツァルトを聴きながら星を見ている時間が最高なんや。しかし、星に魅入ってる時はレコードプレーヤーのことは忘れてしまう」…そうか、だからオートチェンジャーなんやね。

「ブラームスやシューベルトもいいが、やっぱりモーツァルトがいい。特にヴァイオリンソナタやピアノソナタが星の観測には一番ふさわしい…」 

天気の良い日、うちアラントンの夜空は素晴らしい。女房のキャロラインは、冬の我が家の庭で二回オーロラを観ている。銀河(ぎんが)も天(あま)の川(がわ)も、手が届きそうな位置にくっきりはっきりと見えるし、アンドロメダ星雲も、うっすらだけど肉眼で見える。だから丘の上やったら、なおさら星空がきれいやろなあ。

きれいな空気、澄(す)んだ空、しかも丘の上…、なるほど、ここやったら星を観測するのに最高や。モーツァルトを聴きながら星を観察するヒュー爺ちゃんって、なんかロマンチックで素敵だよね。そう、やっぱりメルヘン爺ちゃんやなあ…格好はホームレスやけど…

しかし、何年かあと、彼の一人娘(ひとりむすめ)のアンドレアから、爺ちゃんの経歴を聞いたときはビックリした… 

さて、時が流れ… 

彼、ヒュー爺ちゃんが亡くなった時は、ちょっと、いや、かなり寂しかったね。明治屋のおちょこは、棺(ひつぎ)の中に入れ、彼と一緒に埋葬してもらった。 

葬儀ではめちゃ驚いた。その参列者の多さにびっくりしてしもた。もう、おびただしい数の人々が、ロンドンその他の英国、そしてヨーロッパはもちろん、なんとアメリカからもおおぜい来ておられたんで目を丸くしてしまった。ヒュー爺ちゃんって、いったい何をしてた人なんや?  

教会では幾人もの方が故人を偲ぶスピーチをしたけど、その間、ずっとピアニストがモーツァルトのソナタを演奏していた。 

ロンドンから来ていた娘のアンドレアが、遺品(いひん)整理の最中、アラントンに寄ってくれた。そして、彼女の話には、まあ、びっくりしてしまった。

あの飄々(ひょうひょう)としたヒュー爺ちゃん…、家の周(まわ)りをディズニーのキャラクターで飾り、クリスマスには、遠くからも見えるファンタジックなイルミネーションで村の人々を楽しませた、あのメルヘン爺ちゃん、モーツァルトのソナタを聴きながら星を見ていたメルヘン爺ちゃん…

なんと、かつて、オックスフォードやケンブリッジ大学、さらにハーバード大学や、あの名門MITで、天文学や気象学を教えた博士やったという。しかも、NASA、つまり、アメリカ航空宇宙局の顧問(こもん)もしていたというから驚きや。

1969年、人類が初めて月に降り立った時の地球の気象分析も彼がしたと言う。 

いやあ、もう、びっくり。失礼ながら、元大学教授で博士だったとはとても思えないぐらい飄々(ひょうひょう)かつ剽軽(ひょうきん)な人柄だったんで、ほんまかいな?と思ってしもたがな。しかも、いつも、これ以上ないヨレヨレのホームレスみたいな格好(かっこう)やし…

だけど、不思議なのはあのペンダントや。なんなのアレ? 

ま、それはともかく、僕はちょっと考え込んでしまった…

過去を人に語らず、さらに過去を振り返らない人間って、なんて素敵(すてき)なんやろ。メルヘン爺ちゃん、格好はホームレスみたいな爺ちゃん。モーツァルトを聴きながら星を観察したメルヘン爺ちゃん…実は、めちゃカッコええ人やないか。 

あの大きな反射望遠鏡を、ダンフリーズの天文観測クラブに寄贈するなど、一か月近くかかって遺品整理を終えたアンドレアが、アラントンに挨拶に来た。

彼女は、爺ちゃんの遺品として、十数本の貴重なモルトウィスキー、それにモーツァルトのレコード十数枚と共に、彼の著書を一冊置いていった。

その本のタイトルが「宇宙のファンタジー」…爺ちゃん自身の撮影によるロマンチックな星の数々…さらに、爺ちゃんの手によるパステル画に添えられた詩はメルヘンそのもの。まさにファンタジーの世界や。ヒュー爺ちゃんって、そう、やっぱり、七人の小人のお友達に相応(ふさわ)しい方やったんやね。 

アンドレアが云った… 

「母のルイーズは、私を出産した直後に亡くなったんです。だから私は母の顔を写真でしか知りません。以来、父は、その母の写真をペンダントに入れて肌身離(はだみはな)さずもっていました…そして、父はずっと独身を通しました…」 

そうか…メルヘン爺ちゃんの白雪姫って…奥さんのルイーズさんだったんや…

(合掌)

(註 ブログ主より)

言わずもがなですが・・。

星の観測のBGMとして「ヴァイオリンソナタ」と「ピアノソナタ」が適しているのは何だか「腑に落ちます」。

この二つのジャンルはモーツァルトの膨大な作品群の中でやや異質です。聴衆を意識しておらず、自己の内部に深く沈潜した「独り言」のような趣があります。

「独り言」にいちいち返事する必要はなく聞き流しておけばよいので、ほかの作業に没頭するのにこのくらい適した音楽は無いでしょう。


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「失われていく高音域」への執着

2023年03月13日 | 独り言

先日のブログ「村上春樹さんの記事の蒸し返し」の文中で、オーディオ愛好家からいただいたメールを転載させてもらったのをご記憶だろうか

豊橋市にお住いのMさんからで「オーディオは
スピーカーの音を聴くよりも音楽の空間が聴けるように心掛けている」というまるで仙人のような境地を述懐された方である。

当時(4年前)88歳とお伺いしていたので現在は御年92歳のはず、今回のブログ搭載時に「ご健在だろうか?」と、正直なところいささか気になっていた。何しろ日本人男性の平均寿命は「81歳」ですからね~。


ところが、ありがたいことにこのほど次のメールが送られてきた。

「お久しぶりです。ずっと貴ブログは拝見しています。相変わらず興味深い記事が続き、楽しみに拝見しています。今回は4年前のメールを再掲して頂きありがとうございます。


その後の変化をお伝えしようと思います。


約2年前90歳になった頃から難聴がひどくなってきました。高音が聞こえなくなってきました。ヴァイオリンの倍音が聞こえなくなったのに続き、ヴァイオリンそのものが聞こえ難くなってきました。好きだった弦楽が聞こえ難いのは非常に残念です。


中音部は未だかなり聞こえ、会話には不自由しませんが、テレビの会話は聞き取り難いので、必要な時は補聴器を使用します。

ピアノの音がかなり良く聞こえるので、ピアノの曲を聞くことが多くなりました。

それにつれて、今までのオーディオ・システムは弦楽合奏に重きをおいていたので、中音部に重点をおいたシステムが必要になりました。2年前にシステムを入れ替えました。

スピーカーをイタリア製のソナスファベールに、始めソネットⅢというスリーウェイを聴きましたが中音部がもの足らず、1年聞いて一つ上のクラス、オリンピカ・ノバⅠというツーウェイに替えて聞いています。アンプとプレーヤーはマランツの中級機。

モーツアルトのピアノ協奏曲などを楽しんで聞いていました。

しかし昨年夏頃から更に難聴が進みました。92歳後半からです。雑音が聞こえるのです。以下、略~。」

そうですか・・、身につまされます。

誰しも寄る年波には勝てないが、とりわけ聴覚は周知のとおり低音域よりも高音域がだんだんと聴こえづらくなっていく。誰だって例外なくそう~。

人間の可聴帯域は「20ヘルツ~2万ヘルツ」とされているが、おそらく自分の場合だと1万ヘルツ以上はほとんど聴こえないのではあるまいか。

それかといって、聴こえないことがそれほど気にならないのが不思議。

(耳では聞こえていないはずなのに)いったいどうして?

以下、勝手な妄想です。

これまで50年以上オーディオに腐心してきたので、脳の記憶の中でひとりでに過去の音の帯域を覚えており、高齢になって聴こえなくなった高音域を脳が勝手に補正している、いわば幻の高音域を脳が創っているのではあるまいか。

というわけです。さあ、どうなんでしょう・・。

我が脳はいつまでも「高音域」に執着しているようで、現在使っているプリアンプもやたらに高音域が伸びているのが大いに気に入っている。

最後に、昨日(12日)になってMさんから再度メールが来たのでご紹介して終わります。

「前回は悲観的な感想をメールしてすみませんでした。今回体調の回復もあってか、良い体験をしたのでお知らせします。

 

「追記」

3月中旬 日曜日 午前

何時ものようにブログに目を通した後、オーディオ・システムのスイッチを入れ、iPadを開き、内田光子(P)の新しい録音、クリーヴランド管弦楽団との共演で、モーツアルトのピアノ協奏曲25番k.503を選択して聴きました。

序奏から爽やかなオーケストラの響きが聞こえました。続いて内田さんのピアノが綺麗に続きます。クリアな音に聴き入りました。

暫くぶりの歪の少ない音響が聴けました。良い音、良い演奏です。


2楽章、3楽章と聴きますが音の歪は少なく、ピアノの音もオーケストラの音にも安心して聴き入ることが出来ました。


ヴァイオリンの音はどうか、ヒラリー・ハーンのヴァイオリンでバッハの協奏曲を、オーボエとの二重協奏曲を聴きました。オーボエの音が素晴らしく大好きな曲ですが、以前のように綺麗に美しく聴こえました。ヴァイオリンの音も何とか聞こえます。彼女の素敵な倍音は無理ですが。


内田さんのピアノでベルリン・フィルとの共演、ベートーヴェンのピアノ協奏曲も問題なく綺麗に聴こえました。

こんなに良く聞こえる日もあるのだな と嬉しく思いました。

まだまだ楽しめる日もありそうです。」

御年92歳にしてこの文章・・。敬服します!

お互いに息を引き取る寸前まで音楽を楽しみたいものですね。



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さあ、たいへん、ネットラジオが聴けない!

2023年03月12日 | 独り言

音の入り口となると音質的には「レコード」が一番だと思っているが、わかっちゃいるけど・・で、フォノモーター、トーンアーム、カートリッジ、レコード盤の優劣などを考えるとあまりにも面倒くさくて、ついデジタルに落ち着いてしまう。

まあ、音質的にはレコードが100点だとすると95点くらいはいくと思っているし、取扱いの便利さやコスパからすると総合点ではレコードを上回ると思っている。

そのデジタルにおいては、パソコンによる「ネットラジオ」、ブルーレイに収納したCDソース、CDトラポによる再生が我が家の3大潮流となっている。

この中で一番音がいいのは「ネットラジオ」で、DAC「A-22」(GUSTARD)による「384KHz」のハイレゾ再生が一頭地を抜いている。

ドイツ発の「モーツァルト専門チャンネル」と「オペラ専門チャンネル」はいつも朝起きぬけに関連機器のスイッチを入れて”いの一番”に耳を傾けている、というかBGM風にしてブログを創っているのが実状。

ところが2日前のこと、いつものとおりパソコンを立ち上げてから「AIMP」を開き「専門チャンネル」をクリックすると画面中央に「エラー表示」が出る。

何度やっても同じで、おかしいなあ・・。

パソコンのご機嫌が悪いのかと、いったん電源を落としてから再度起動させて繰り返すもやはり「エラー表示」が出る。

「さあ~、たいへん、ネットラジオが聴けない!」となると何だか両翼をもがれた気がして一気に落ち込んでしまった(笑)。

「ピンチはチャンス」という言葉があるが、こればかりは何も生まれてこないだろう・・、と嘆きつつさっそくこのネットラジオの設定をしてもらった「北国の真空管博士」に、朝食後に泣きついたところ「ああ、それは心当たりがあります」。

博士によると、このドイツの専門チャンネルは出力系統が2系統あるそうで、おそらく片方の出力を止めたのだろうとのご推測。



「いいですか、まず左上の環境設定をクリックしてください、すると中ほどにアップデートの確認というのがありますのでクリックして最新のものになっているかをまず確認してください」

「ハイ、確認しました」

「次にラジオの専門チャンネルを右クリックしてください。そして上から4番目のファイル情報をクリックしてください。ホームページが表示されますので、アドレスの最後を「-192」と書き換えてください」

言われたとおりにしてから、専門チャンネルをダブルクリックすると、何といつものモーツァルトが流れ出した。

飛び上がらんばかりに嬉しかったねえ~(笑)、博士、どうもありがとうございました。

同じ要領で「オペラ専門チャンネル」以下「ベートーヴェン」「バロック」を書き換えて無事完了。

博士によると理由はこうだ。

「このラジオ局は途中から2系統の出力になりましたが、あなたの専門チャンネルを設定をしたときは旧来のままの1系統でした。おそらく、この古い系統を廃止したのだと思ったので新しい系統のファイルに書き換えてもらったというわけです。おそらく音質も向上している筈ですよ」

そう言われてみると、何だか以前よりも一段と音が澄み切っている感じがする。

日頃から度々流されている「ハフナ―セレナーデ K250」(アンダンテ)の美しい旋律がひときわ身に沁みてきて”うっとり”~。(名曲中の名曲ですよ! 
ぜひユーチューブで聴いてみて・・)

これって、もしかして「ピンチはチャンス」だったのではなかろうか(笑)。



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二転三転する「見てくれオーディオ」

2023年03月11日 | オーディオ談義

このブログに貴重な彩を添えてくれる「南スコットランドからのウマさん便り」は日頃縁遠い「世界平和維持活動」について身近に考えさせてくれるが、その活動を支える主、「ウマ」さんからつい先日、次のようなメールをいただいた。(あえて原文のままにします)

「音楽&オーディオ」の小部屋の主は、知恵と工夫に加え、実践することで、無限なる音の向上を目指しておられる。この方のブログを拝読して気づくことは、人の意見を謙虚に取り入れ、さらなる実践を経て結果を求める姿勢です。つまり、知恵と工夫と実践による「偉大なクリエーター」と言える。
…ま、一応、持ち上げておいて…
 
先だって「見てくれ」のことを書いておられた。「見てくれ」良ければ音も良い…
彼が「見てくれ」の向上を目指した結果、スコーカーをなんと植木鉢にセットされた。これねえ…「見てくれ」が良いというより…う〜ん…なんと言っていいやら…
その発想たるや、もう、いやはや…でござる。
 
さて本題です。
 
その「見てくれ」の記事を拝読して、我が自作スピーカーをしげしげと見てしまった。これ、どう見ても誰がみても「見てくれ」が良いとは言えないよなあ。

フルレンジユニットを、バックロードバスレフ形式の自作の箱に取り付けたんだけど、リボンツィーターを可能な限りフルレンジユニットに近づけるために、エンクロージャー側板に、ガムテープやらタコ糸などで縛り付けてある。
これ、う〜ん、ちょっとなあ… 
そこで…
「音楽&オーディオ」の小部屋の主に見習い「見てくれ」の向上を目指すことにした。とは言え、自作スピーカーの醜いところを、すっぽり覆い隠す大きな箱を作ることにしたんです。工作は得意やから半日で出来た。

本箱などを解体した木材を使用したので費用はゼロですよ。もともとその本箱は白色だったので作った箱も白色のままです。フロントのネットは洗濯室でめっけた女房の薄いスカーフを失敬しちゃった。

「私の青いスカーフ知らない?」「え? …知らないよ…(汗)…」今のところバレてません。もしバレたら?…「そこへ座んなさい…」…は、はい…
 
スピーカーを隠す大きな箱…出来栄えは非常によろしい。さらに音も良くなった。ピアノやヴァイオリンの音色がやや深く艶やかになった(気がする)。
 
非常に満足のいく結果となったけど、何か足りないなあ?

そうや!バッジや! 市販スピーカーには「JBL」とか「TANNOY」とか、バッジがフロンバッフルに付けてある。で、ジュエリーデザイナーの知人に頼んでバッジを作ってもらった。「WSBS」と彫金したバッジを左右に箱の上部に貼り付けた。

その意味…「ワー・スゲェー・ビックリ・サウンド(や)!」
 
で、我がスピーカーの「見てくれ」が激変した次第でござる。これも「音楽とオーディオ」の小部屋の主のお陰や。彼も、ワー・スゲェー!お方でござるなあ。
感謝感謝!
 
 
この白い箱、スピーカーじゃなくてスピーカーを隠す箱でござる。



内容は以上のとおりだが、白とブルーの組み合わせがとても映えていて素敵ですよ~、ウマさん。

それに「WSBS」のバッジがあるの無いのとでは見栄えが随分違う気がします。

センスいいですね!(笑) 「見てくれオーディオ」の記事が少しばかりお役に立てたようでうれしいです。

というわけだが、一転して我が家では・・。

「見てくれ」が逆戻りなんです、情けない(笑)。

で、その原因ともなると一に「新プリアンプ」の出現にあり、澄み切った透明感と瑞々しさに溢れた音にすっかり魅了されてしまい、病が嵩じるあまりJBLの「175」と「075」ならはたしてどういう音が出るんだろう。

久しぶりに「AXIOM80」を登場させて堪能していたものの、その誘惑に抗しきれずとうとう復活~。



仲間から「少しとげとげしい音」と不評だったので雪辱を期して、「175」のローカットを「2000ヘルツ」(-6dB
/oct)から「900ヘルツ」に一気に下げてみた。高音域のハイカットは従来のままで「8000ヘルツ」(-12dB/oct)。

これで少しは「太い音」になるんじゃないかな~、あとは新プリアンプ効果に期待。

ワクワクドキドキしながら聴いてみると・・。

以下、続く。



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南スコットランドからの「ウマさん便り」~2023・3・10~

2023年03月10日 | ウマさん便り

 「カレンとシャロン」  

カレンは40代半(なか)ばだろうか。いつも地味な柄の、ふわっと広がった長いワンピースに白いズック靴、化粧っけなしの素顔、そして腰まである長い赤毛をうしろで束(たば)ね三つ編みにしている。いつ会っても、それ以外の格好を見たことがない。

ダライラマ14世の代理人も務(つと)める彼女、時々、スイスからスコットランドの我々を訪ねて来る。

カレンは、アフリカの子供たちを飢餓(きが)やマラリアから救う活動を、長年、地道(じみち)に続けている人でもある。つまり、この世から消えさる寸前にあった幾多(いくた)の幼い生命が、彼女の献身(けんしん)的活動により、生きながらえて母の姿を自分の目で見ることが出来たわけですね。 

ある時エディンバラで、彼女とも親しく、我々とも時々一緒に活動をしているイヴェントプロデューサーのドイツ人ヴィクターに、カレンの生(お)い立(た)ちを聞いた時は、まあ驚いた。 

スイスの世界的食品会社(そう、誰でも知ってる、コーヒーで有名なあの会社)の創始者の家系、つまり億万長者の家に生まれた彼女は、小さい時、運転手付きのロールズロイスで幼稚園や小学校に通っていたという。もちろん欲しいものは何でも手に入る何不自由ない子供時代を過ごした。そういう生活が当たり前だと思っていた彼女に、一生を左右させるほどの衝撃(しょうげき)を与えたのが、高校を修(お)えた年に訪れたアフリカだった。  

ヨーロッパの他の国の青年たちと参加したキャラバン旅行の途中で見た光景…

栄養失調の幼い子供たちが目の前で死んでいくそのショッキングな光景は、今まで見たことも聞いたこともない、彼女にとっては、まったく想像すらしなかった未知の世界だった。あまりの衝撃に目の前がクラクラし、その場に立ちすくんでしまったという。そして、その衝撃的体験(しょうげきてきたいけん)が、彼女の生きる方向を決めた。 

その後、親の強い反対を押し切ってアフリカへボランティア活動に出向き、アフリカ各地で、無我夢中(むがむちゅう)の7年間を過ごしたと云う。そして国へ帰ってきた彼女は、根本的に別の人間になっていた。あらゆる贅沢(ぜいたく)にはもういっさい目が向かず、寝ても醒(さ)めても自分に何が出来るのかを模索(もさく)し続けたと云う。

<人の為に何が出来るか>…これが、彼女にとっての永遠の命題となった。

そして遂(つい)には、アフリカの子供たちを飢餓(きが)から救うファンドを立ち上げ、ユニセフなどとも連携(れんけい)しながらのNGO活動に全身全霊(ぜんしんぜんれい)を捧(ささ)げることになる。大邸宅から、事務所も兼ねた質素なアパートに移った彼女の意思の強さ固さに、とうとう両親も理解を示し、以後、協力を惜(お)しまなくなったと云う。 さらに、愛してやまない一人娘の確信に満ちた行動に、誇りすら示すようになったとも云う。 

カレンの驚嘆すべきストーリーを聞いて目を丸くしている僕に、ヴィクターが一息ついて付け加えた…

「カレンの献身的(けんしんてき)な歩みを知ったことが、それまで儲(もう)けることばかり考えていた私を大きく変えたんだよ」 だからヴィクターは、僕たちアラントンのイヴェントやプロジェクトに無報酬で積極的に協力してくれるんだね。 

ところで、ラグビーやオートバイなど、僕と共通の趣味をもつジェイクは、まったく気の置けない、隣り村に住む親しい友人です。その彼が、「バカンスで10日ほどスペインへ行くから、オートバイ貸したろか?」(オートバイ、正しくはモーターサイクル或いはモーターバイク、そして、バイクは自転車のことです)

女房のキャロラインは所用でスイスのカレンに会いに行って不在やし、これは嬉しい申し出やないか。で、彼の、BMW1100cc水冷4気筒の大型オートバイを借りてロンドンへ行くことにした。 

ロンドンでは、ミュージシャンをしている長女くれあのライブを聴いた。ライブ終了後、大英博物館近くの赤ちょうちん「酔処(よいしょ)」で、人肌燗酒(かんざけ)と塩辛や板わさなど、スコットランドではお目にかかれない貴重な珍味をいただいて、もうニコニコ顔の僕の脇で、うどん、ギョー

ザ、さらに梅干茶漬を嬉しそうに食べているくれあ…

あゝ幸せやと、久しぶりにロンドンの夜を堪能(たんのう)した。 

翌日、スコットランドへ帰ろうと準備しているところへ、スイスにいるキャロラインから連絡が入った。僕に、ジュネーブへ来て、ユニセフやカレンとの共同プロジェクト「アフリカ・ピース・デー」の仕事を手伝って欲しいという。どうやら手が足りないらしい。

で、ロンドンからジュネーブへのエアチケットの手配をしている時、…そうや、このままオートバイでスイスまで行ったろかいな…と、相変(あいかわ)らず成り行き任(まか)せのエエ加減さが頭をもたげてきよった、いやはやですね… 

で、ユーロトンネル(通行料高い!)でフランスへ、さらにフランスの、平坦であまり変化のない田舎道(いなかみち)をひたすら走った。美味(おい)しい店が多いグルメの街リヨンで何か食べたかったけど、我慢して走り、そして、やっとこさジュネーブのキャロラインが泊(と)まっているホテルへ着いた。

しんどかった。歳(とし)をとるとオートバイはきついわ。でも、久し振りのオートバイ、やっぱりエエなあ、とても楽しかった。

駐車場にオートバイを停めていると、ホテルのテラスで、キャロラインがカレンや友人たちとお茶を飲んでる姿が目に入った。ヘルメットを脱ぎ、オーイ!と叫ぶ。キャロラインが驚いて立ち上がった。カレンも立ち上がり、二人とも僕を見て目を丸くしてる。

「ウマ! オートバイで来たの!? ナニ考えてんの、呆(あき)れたー!」

自分でも呆(あき)れるわ。

「いやあ、カレン、久しぶりやね!元気?」

挨拶(あいさつ)しホッとひと息つく。ロングドライブのあとの冷えたビールが実に美味(うま)い! ひとしきり、スコットランドからロンドン、そしてジュネーヴまでのオートバイでの道中の話しをしたあと、アフリカから帰ったばかりのカレンの話を聞いた。 

アフリカでは民主化が進展する国もある反面、部族間対立が引き起こす政情不安が今でもおびただしい数の難民を生み、子供たちが真っ先にその犠牲(ぎせい)になっている図式は、昔も今もほとんど変っていない。治安(ちあん)はもちろん、衛生状態の劣悪(れつあく)さが子供たちを直撃している地域が山ほどあると、彼女は顔を曇(くも)らせる。

国連や各国政府の医療援助などは非常にありがたいけど、部族間同士の報復の連鎖や、住民のことなど眼中にない独裁政権に対する、もっと根本的な解決策に、国際規模での知恵を働かせてほしいと言う。それに日本からのODAなど、援助の資金を自分のポケットに入れる政府高官が少なくなく、正しく使われていない現実に何度も出くわしたとも云う。 

カレンがアフリカの子供たちに寄せるシンパシーは普通じゃない。今のNGO活動が自分の天命だと思っているのは話を聞いていてよくわかる。化粧もしない質素で地味な雰囲気からは、子供の時、ロールズロイスで学校に通ってたなんて、とても信じられない。しかし、化粧して美しくなる以上に、生き方や信念そのものが、その表情を生き生きと美しくしているし、その凛(りん)とした瞳の輝きも普通じゃない。

誰が見ても彼女は美人だと思う。でも、こういう人には、異性としての魅力などとは次元の異なるオーラのようなものを感じて、僕は、すごく爽(さわ)やかな気分になるんだよなあ。男でも女でも尊敬できる人は尊敬出来るんですよ。また、そうでなくちゃいかんと思うよ。 

オートバイでの長距離ツーリングは自動車の何倍も疲れる。ま、充実感のある心地よい疲労だけど。でね、焼き立ての香ばしいクロワッサンに地チーズ、それにスイスの地ワイン(コレがめちゃいける)など、皆とワイワイやりながらすっかりくつろいだ頃、カレンのケータイが鳴った…

「…もしもし、ああシャロン、久し振りね、その後元気? いまね、スコットランドのキャロラインが来ていて、ユニセフと共同で催すアフリカピースデーの打合せをしているところなの。ご主人のウマもついさっきオートバイで着いて、皆で呆(あき)れてたところ…」 

「シャロンは私の最大の理解者の一人よ。ちょっと挨拶してみない?」と嬉しそうにケータイをキャロラインに渡すカレン…

「初めましてシャロン。あなたのことはカレンから聞いてますよ。いつか会いましょうね」とキャロライン、しばらく親しげに話したあと僕にケータイを渡す。急にこっちに渡されても困りますがな。めちゃ美味(おい)しいスイスワインでエエ気分になってるのに…

「ハ、ハイ、シャロンさん、ウマです。そう、キャロイランのハズバンドです。スコットランドへ来る機会があればぜひウチへ寄ってくださいね」

「わたし、エディンバラの映画祭には参加したことがありますよ。スコットランドは好きですねえ。一度ゆっくり訪ねたいと思っています…」

このシャロンさん、落ち着いた低めの声がすごくハスキー…。とても魅力的なアルトでしたね。そのあと、カレンが、シャロンとの幸福な出逢(であ)いを語ってくれた。 

アフリカの難民救済救援活動をするいくつかのNGOが合同で主催したアムステルダムでの集会で、アフリカの子供たちの深刻な現状をリポートしたカレンに、集会のあと面会を求めてきたのがアメリカから来ていたシャロンとの出逢いだったと云う。そしてその場でいきなり2万ドルの寄附(きふ)をしたいと申し出て、カレンの目を丸くさせたそうです。その時以来、シャロンはカレンの活動を積極的に後押(あとお)しするようになった。

類は類を呼ぶんだなあ。彼女たちのミッションの実現には、気の遠くなる時間と不屈(ふくつ)の忍耐(にんたい)と努力が必要だろう。一円にもならない仕事に自身の生きる価値を見いだし情熱を捧(ささ)げるカレンやシャロン…

こういう人たちを尊敬しなくていったい誰を尊敬する? 

ところで、キャロラインという人、人を見下(みくだ)したり、逆に卑屈(ひくつ)になることもない、如何(いか)なる人に対しても態度が変ることのない稀有(けう)な人だと云えます。

ダライラマ14世やスコットランド政府の大臣たちとの会見、さらに、エリザベス女王への謁見(えっけん)など、そういう有名人著名人との接触に特に興奮もしない。僕みたいなミーハーが、得意げにそういう話を人にするのも好ましく思っていない。 

例のシャロン…彼女が如何(いか)なる人物か、キャロラインは知っていたのに僕には云わなかった…

ある時、テレビでハリウッド映画を観てたとき、キャロラインが画面の女優を指差(ゆびさ)しボソッと呟(つぶや)いた。「カレンをサポートしているシャロンよ」…

カレンをサポートしているシャロン?…

彼女がハリウッド女優シャロン・ストーンだと知ったのは、電話で挨拶してから二年以上も経(た)ったあとの事でしたね。


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憎まれっ子、世にはばかる

2023年03月09日 | オーディオ談義

昔の全盛時代を知っている人間からするとオーディオは廃る一方だし「オーディオ愛好家」は希少価値的な存在になりつつあると思うが、それにしても中身は様々のようですね。

まあ、だれに迷惑をかけるでもなし、自分さえ楽しければそれでいい趣味だが、あまりにも違い過ぎるので、つい要らぬお節介をやきたくなった(笑)。

もちろん個人的な視点からだが「オーディオ愛好家の分類」を試みてみたのでご参考までに~。

 オーディオの位置付け
 
A 音楽が主役で、オーディオは道具 B オーディオが主役で音楽は道具 C 何でもあり

 好きなジャンル

A クラシック主体  B ジャズ主体  C 何でもあり

 前段機器が「アナログ」か「デジタル」か

A アナログ・オンリー  B デジタル・オンリー C 何でもあり

 増幅系統のアンプが「真空管素子」か「TR素子」か

A 真空管(古典管)オンリー B TR素子オンリー C 何でもあり

 スピーカーの形態

(1)A 古典系 B 近代系 C 何でもあり

(2)A フルレンジ派 B 「2ウェイ」or「3ウェイ」派 C 何でもあり

我が家をこの分類に当てはめてみると、

「1→A」、「2→A」、「3→B」、「4→A」、「5→(1)A、(2)C」となる。

既にお気づきのとおり、選択肢「A」が「王道」のつもり・・。

これで「オーディオ愛好家」の実像がかなりシャープになって浮き上がってくると思いませんか・・。

実はどうしてこんな分類を持ち出したかというと、焦点は「4」にあって、同じオーディオ愛好家でもその違いがあまりにも大きすぎると思ったのがきっかけ。

先日、同じく真空管を愛好するオーディオ仲間がご来訪された時にこういう会話を交わした。

「オーディオの楽しみっていろいろあるんでしょうが真空管アンプを使っていると、同じ型番でもブランドの違いによって音が千変万化するのでメチャ楽しいですね」

「そうですね。オーディオ雑誌や他人のブログを見ていると圧倒的にTR素子を使っている人が多いですが、とても”もったいない”気がします。こういう人たちははたして真空管オーディオを経てTR素子へ移ったのかどうか大いに興味があるところですね。」

「おそらく、初めからTR素子だったのではないでしょうか。たとえばアキュフェーズのアンプなんか、見てくれはいいし、お医者さんなんかのお金持ちが愛用している例が多いみたいですよ。

私たちにしてみるとタダでくれるといっても要らないアンプですが、嬉々として使っている方が多くて驚かされます。倍音成分があんなに無味乾燥なのに~。音質にメチャうるさい人が平気で使っているのが不思議です」

「周りに真空管を使っている人が少ないと刺激を受ける機会が少ないからますますそういう傾向に拍車がかかるようです。オーディオショップに置いてある真空管アンプも高価の割には冴えないものが多いですからね。真空管アンプばかりは市井に埋もれた達人に任せるのに越したことはないです。やっぱりたしかな情報が勝負でしょう」

「使っているスピーカーにも一因があるのではないでしょうか。近年は低能率が多くてアンプのパワーが求められるのが多いですからね。古典管を使うのなら(高能率の)古典系スピーカーの組み合わせじゃないと無理でしょう」

「そうなんです。最後はスピーカーに行き着くわけですが、その歴史はとても長いのにはたして進歩しているんでしょうか・・。たとえばAXIOM80なんて現代の技術をもってしても創れるメーカーは見当たりませんよね」

と、オーディオ談義をひとくさり。

また要らんことを言ってしまったかな・・。

まあ「憎まれっ子、世にはばかる」ということばもあることだし~(笑)。



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オーディオ意欲をそそられる新プリアンプ

2023年03月08日 | オーディオ談義

前々回の記事「躍動するプリアンプ」の続きです。

オーディオシステムの中で一番音が変わるのは「スピーカー」、その次は諸説あろうが個人的には「プリアンプ」ではなかろうかと思っている。

ちなみに、オーディオに「絶対」という言葉は「絶対」に使わないようにしている。

なぜなら、あまりにも機器が置かれた環境を取り巻く「変数」が多いのでうかつに断定できないから。

オーディオにとって「先入観は罪、固定観念は悪」なのだ!(笑)。

というわけで、このブログの記事はすべて「我が家の条件下では・・」という注釈付きになるのでどうか悪しからず~。

で、今回手に入れた「プリアンプ」はこれまでの手持ちの3台とは違って音の傾向が明らかに異なっている。

もちろん、それぞれにいいところがあるんだけど、音が柔らかくて長時間聴いても聴き疲れがしない、したがってスイッチを切るのが惜しくてつけっぱなし、と我が家のオーディオに新風を吹き込んでくれている。

これまで気が進まなかった音楽を聴き直したり、日陰に埋もれていたアンプが相性が良くて息を吹き返したりするのもたいへんうれしい現象。



たとえば、プリアンプの製作者「YA」さんと、パワーアンプの品定めの対象としたのはこのシステムの低音域(700ヘルツ以下:-6db/oct)だった。

プリアンプの低音域がやや薄い傾向にあるので、ひときわシビアなテストになる。

対象は「WE300Bシングル」に始まって「2A3シングル」、「71Aプッシュプル」そして「PX25シングル」。

結局、一番良かったというか、相性が良かったのは「PX25シングル」だった。



日頃は「WE300Bシングル」に押されっぱなしの印象だったが、低音域の充実ぶりはこれが一番で「YA」さんともども、これで決まりですねと、一件落着。

そして、2日後になってこんなに麗しい音を出してくれるのなら「AXIOM80」ならどういう音になるんだろう・・・。

いったん、思いつくともうダメ・・(笑)、ブレーキがかからず久しぶりに「80」さんの出番となった。アンプはそのまま「PX25シングル」で。



200ヘルツ以下の低音域をウェストミンスター(改)で補強して聴いてみたところ、ウ~ン、参った!!

ヴァイオリンの濡れたような響きはやはり「80」の独壇場で、音響空間をそこはかとなく漂うように彷徨っている佇まいがもう泣きたくなるほどで激しく気持ちを揺さぶられた。さすがは同じイギリス勢同士~。

プリアンプでこれだけ変わるんだから「参ったなあ・・」と、思わず嘆息した。

ほかにもグッドマンの「TRIAXIOM」(口径30cm:同軸3ウェイ)やJBLの「D123+デッカのリボンツィーター」などが目白押しに控えているのだが、しばらく「80」さんで存分に楽しませてもらうとしよう。



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村上春樹さんの記事の蒸し返し

2023年03月07日 | 独り言

3月ともなると、冬から春へと切り替わる真っ最中で気候的には「陰から陽」なのだが、この時期はなぜだか毎年不調になる。

そういえば、去年(2022年)の今ごろは心臓に「ステント」を入れる手術(3泊4日)をやってたなあ。

したがって、ブログの方もスランプ気味でどうも創作意欲が湧いてこない。

それかといって更新しないでずっと放っておけばいいのだが、これはこれでどうも精神衛生上スッキリしない。


そこで、次善の策としてこれまで投稿してきた過去記事に「加除修正」を施して再度upしている。つまり、新たな文章を「付け加える」、間違った部分を「削除する」、不適切な表現を「修正する」、といった作業でリフレッシュして堂々と再登場!

「ケシカラン」「サボりだ」「厚かましい」・・・、批判は甘んじて受け入れよう(笑)。

実を言うと一石二鳥の狙いもあって、まるで夢、幻のように“はかない”「ネット空間」だが、過去記事がどなたかの検索の網に引っ掛かったときにこのサイトの管理者として、恥ずかしくないように(文章を)整理しておこうという魂胆もある。こんなブログでも意外と過去記事の閲覧が多いのですぞ!(笑)

とまあ、そういうわけで今回も過去記事を引っ張り出して”ひとくさり”。

投稿した記事「村上春樹さん レコードを母校へ寄贈」は、珍しく興味を惹かれた方が多かったようで、初めてという方からもいろいろメールをいただいた。

当方としてもとてもありがたいことで、2件ほどご紹介させていただこう。

まず時系列で福岡県在住のMさんから。

「現在アシダボックスの励磁スピーカー(AMPは自作6B4G-PP)と「AT-7700のツイーター(AMPは2A3シングル)の2WAYを使用しております。

村上春樹さんの記事ですが、ジャズ喫茶時代は「1619のPP」を使われていたという記事を見た覚えがあります。(学生時代は村上春樹好きでした)

村上春樹さんも昔は真空管もお好きだったのかもしれません。」

以上のとおりだが、村上さんが真空管アンプを使っておられたとは初耳だった。しかも「1619」とは・・・。おっと、「知ったかぶり」はいけませんね(笑)。

               

こういうときは古典管の泰山北斗「北国の真空管博士」の出番である。問い合わせると
次のような回答が返ってきた。

「ああ1619ですか。4桁ナンバーですね。軍の無線機の通信用真空管です。直熱型のビーム管で、戦闘中にもすぐに使えるようにクィック・スタートが特徴です。私自身は使ったことがありませんが、当時の「無線と実験」誌では製作例がいくつか載せてありました。評判は悪くなかったようですよ。」

こういう答えが即座に返ってくるのだから凄い!古典管の世界ではもはや「神」に近づいた方である。

いずれにしても、村上さんが有名どころの真空管ではなく「ひっそりと野に咲くレンゲ草」のような真空管を選択されるなんて、いかにも(村上さんらしい?)反権威主義的な傾向が如実に現れているではないかと、ある意味で感心した。

それにしてもメールの送り主のMさんが使っておられる貴重な「アシダボックス」の励磁型スピーカーは一度聴いてみたい気がする。

ネットオークションでときどき見かけるが、おいそれと手が出る価格ではないものの、実際に聴いてみて気に入ったらバッタのように飛びつくかも~。


そして、次のメールは中部地方にお住いのMさんからだった。

なぜかオーディオ愛好家はイニシャルの「M」さんがやたらに多い気がするが(笑)、次のような内容だった(抜粋)。
 
「私は88歳のオールドクラシックファンです。70年以上クラシック音楽を聴いてきました。村上春樹さんの記事について思うこと。メル友のMさん(奈良県)のご意見に賛成です。音楽に興味を持たれなくなったということは考えられません。 

また、オーディオに関心を持つことが長続きすると思われているようですが、私は70歳過ぎのオーディオ・ファンが高齢のため機器を扱えなくなった時、多くの方が興味を失い、音楽からも遠のいた、と嘆かれた方を知っています。音楽を聴くことが先ず先にある方が長続きするのではないでしょうか。

私はオーディオにも興味を持ち、装置も変えてきました。モーツアルトのピアノ協奏曲が好きで、その再生が好ましく聞こえるようにと考えています。 

始めは管球式でしたが、時代とともにデジタルに移行しました。スピーカーの音を聞くよりも、音楽の空間が聞こえるようにと考えました。小音量で楽しめるようにと思って現在のシステムを組んでから15年が経過してしまいました。

現在のスピーカーはスイス・アンサンブルのレファレンス・シルバーという小型のシステムです。スピーカーから少し離れると、スピーカーの音が聞こえず空間全体から音が聞こえます。音色的にもバロック音楽を聴くに適しているといわれ、少し特殊でしょうか。ゴールドムンドのシステムで鳴らしています。~中略~

説明が長くなりました。何時も貴兄のスピーカー、真空管アンプのシステムで、どんな素晴らしい音が聞けるのだろうか、想像しながら楽しんでいます。

DAコンバーター「エルガープラス」(dCS)なら、さぞかし素晴らしい音が聞けるのだろう と羨ましく拝見しています。

スピーカーやアンプ、真空管たちも大切に、熱心に使ってもらって幸せですね。」

以上のとおりだが、オーディオの、ひいては人生の大先輩からご丁寧なメールをいただき、まことに感謝の至り、どうもありがとうございました。

文中に「スピーカーの音を聴くよりも音楽の空間が聴けるように」とありますが、これはまさに「仙人の境地」ではないかと深く感じ入った次第。

それにしても、話の行き掛かり上、仕方なく「血祭り」にあげた「アキュフェーズ」を使っておられてなくてほんとうによかった(笑)。



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躍動する「新しいプリアンプ」

2023年03月06日 | オーディオ談義

「ご注文のあったプリアンプが出来上がりましたよ。」と、オーディオ仲間のYAさん(県内B市)からご連絡があったのは2日(木)の午後だった。

「えっ、そんなに早くですか・・」たしか製作をお願いしたのは1日(水)だったので、たったの1日で・・?

「はい、フォノ部分を取り外すだけで電源トランスやシャーシ、回路はそのままですから~」

「なるほど・・、そういうことなら出来るだけ早く聴きたいですね、明日(3日:金)はいかがですか」

「ハイ、わかりました。」

「善は急げ」とはこのことかな~(笑)。



このプリアンプは借り受けていた2週間の試聴を通じて、およそ音質の傾向は把握している積りだが、フォノ部分を取り除いたときにどういう音が出てくるか興味津々。

きっかり予定の時刻にお見えになった当日はYAさんから教わりながら結線を完了していよいよ音出し~。

と、その前にYAさんからご注意があった。

「ヒーター電圧に12VをかけていますのでCV4068(13D3)とE80CC以外の球は挿さないようにしてください。たとえば12AU7を挿すといっぺんで昇天しますよ」

「あっ、そうですか。逆に言えば、これまで13D3やE80CCを12AU7の代わりに挿していましたが、十分なヒーター電圧をかけてなかったので実力を十分発揮できなかったことになりますね。」

「ハイ、馬力のいいクルマにはガソリンをたっぷり食わせてやるのと一緒の理屈です。また、コンデンサーにはドイツ製の最高級品を使ってます。電源トランス代と合わせると、全体価格の半分以上を占めてます。」

こういう話を聞くと益々胸が高まってくる(笑)。

最初に「CV4068」(BRIMAR)を挿して聴いてみた。

想像どおり、全体的に柔らかい音で誇張感の無い自然な佇まいは聴き疲れがなく我が家のように長時間にわたって聴くケースにはもってこい。ただし、澄み切った秋の青空のような中高音域の透明感に比べて低音域の重量感がややもの足りないかな~。

これは真空管整流とダイオード整流の違い・・?、どちらを取るかと言われたら、今のところ前者を優先したくなるほどメリットの方が明らかに上回る。

「CV4068」の次に「E80CC」(ドイツ:ヴァルボ)を挿して比較することになった。



その結果となると・・、これはもう好き好きのレベルだろう。

音のスピードと締まり具合は「13D3」が上回り、響きの「豊かさ」からいえば「E80CC」の方がプレートが大きいせいか有利で、自分なら後者を優先する。

それに「E80CC」はいろんな銘柄を籠いっぱい持っているので「スペア」の心配をしなくていいので助かる(笑)。



そして、次の段階へ移った。

新しいプリアンプの相性を試すため手持ちのパワーアンプを次々に試しての聴き比べ。

最後に勝ち抜いたのは、意外にも・・。

以下、続く。


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南スコットランドからの「ウマさん便り」~2023・3・5~

2023年03月05日 | ウマさん便り

「二人のジョアンナ、その人生の選択のとき」

ロンドンのホテルでコンファレンスがあった日は、大雪、しかも風の強いかなりの悪天候で、欠席者がかなり多かった。 

欠席者が多く、空いた席が出席者同士の距離を遠くするという主催者の発案で、急遽、大きな楕円形(だえんけい)のテーブルをかなり縮小した。

縮小したテーブルのぼくのすぐ隣りに、ハリウッド女優みたいな美人が座ったんでドキドキしてしもた。

驚いた! びっくりした! ぼくに「日本の方ですか?」と聞いた彼女、めちゃ流ちょうな日本語で挨拶したんや。

「わたしジョアンナと云います。東京に住んでいました…どうぞよろしく。」

スティーブ・マックィーンの奥さんだったアリ・マッグローから野性味を取り除いたような、洗練された清楚(せいそ)な顔だちをしておられる。こりゃ、誰でも振(ふ)り向(む)く別嬪(べっぴん)さんや。 

あのね、誤解のないように云っとくよ。ウマはね、そんな別嬪さんとお付き合いしたいとか浮気をしたいとか、そんな気持ちは、まったく、毛頭(もうとう)、ぜ~んぜん、もう金輪際(こんりんざい)ないのでござるよ(たぶん…)。

美人を見て、ウ~ム、綺麗(きれい)やなあって思うのはね、つまり、美術館で名画を観(み)るのと同じ感覚やね。そう、別嬪(べっぴん)さんはね、ま、つまり美術品ってことなんや。

美術館で名画に手で触(ふ)れたら叱られるよね。ウマはね、もちろん、名画や別嬪さんにタッチするなんて、そんな非常識なことしますかいな。だってさあ、観賞させていただくだけで、もう、充分シアワセでございまっさかい(たぶん…)。 

さて、ロンドンでのコンファレンス、その平和集会で、スコットランドの平和の聖地アラントンの存在を知ったジョアンナは「是非訪ねたい」と、後日ロンドンからアラントンを訪れてくれた。嬉しかったなあ! 美術館の名画の中の美女が、額縁(がくぶち)から飛び出してわざわざ電車に乗って来てくれはったんや。 

ジョアンナ! なんか食べたいもんある?

「ウマさん、梅干(うめぼ)しあるかしら?」エッ? 梅干し?…まかしなはれ! 姉が送ってくれた最高の南高梅(なんこううめ)がありまっせ!

この別嬪(べっぴん)さん、ごはんに梅干しが大好き!それに納豆も大好きだとおっしゃる。で、彼女が滞在中、様々な日本食を作ってあげた。うどん、そばにラーメン、みそ汁、それにチャーハンなどなど…。誰もが振り向くこの別嬪さん、なんと日本食が最高だとおっしゃるんや。

ロンドンでは日本食なんか作ってるの?って訊いたら、いや、ないですと、やや寂しそうにおっしゃる。日本食が最高やって云うのに、アレッ? ちょっとおかしいなと、その時思った。

で、ロンドンに帰る彼女に、おにぎりと共に、アラントンにストックしている様々な日本の食材をあげた。ところが彼女、とつぜん泣き出したんや。エーッ? なんでーッ? すごく嬉しい…と云いながら泣

いてはるんや。ちょっと大袈裟(おおげさ)とちゃうやろか? その理由はかなりあとで知ることになる… 

ロンドン南部のウィンチェスターに住む大阪出身の恭子(きょうこ)は建築家です。御主人のデビッドはウィンチェスター大学の職員で、かなりの日本通の方です。同じ大阪出身の恭子とは親しくしているし、彼女もアラントンでの集まりにはちょくちょく参加してくれる。

恭子は、同じ平和活動の仲間として、ジョアンナとも親しくしていて、ロンドンで、ちょくちょく彼女と会っていると云う。 

ある時、その恭子から、ジョアンナのストーリーを聞いた時は、まあ、驚いた。あの、誰もが振り向く別嬪さんジョアンナの、ちょっと普通じゃない過去を知っちゃったんや。で、思った…

人生って、大事な選択をせんといかん時があるんやなって… 

…ジョアンナは東京で日本人と結婚した。

その相手は、とてもお金持だった。豪華な家に住み、そして、欲しいものは何でも手に入る何不自由ない日々を送ったという。これ以上ない贅沢(ぜいたく)、かつすべてに満(み)ち足(た)りた生活だったとも云う。ところが…

ある日、彼女は、テレビのドキュメンタリーで、住むところも食べ物もない中東やアフリカの難民の過酷な姿を見た。そして、私の人生、今のままでいいのだろうか?…と、ふと考え込んでしまったという。

そう…、その、何不自由ない贅沢な生活に疑問を抱いたんやね。ぼくは、それを聞いて、思わず、億万長者の家に生まれたカレン、アフリカで栄養失調の子供たちが目の前で死んでゆく姿を見て自分の一生の道を決めたカレン(ウマ便り「カレンとシャロン」参照)を思い出した。 

ジョアンナは…難民を生まない世界って平和な世界しかない…そう確信するのに時間がかからなかった。以後、様々な平和活動に関心を向け、そして、実際に参加するようになった。しかし、美人の外人妻が自慢の御主人は、常に彼女を晴れやかな場所に連れていこうとした。が、彼女のこころは、そんなうわべだけ、つまり、虚飾(きょしょく)の生活からますます遠のいていったという。

彼女のこころを理解しようとしない夫との距離がだんだん遠のき、結局、離婚と云うかたちで日本での生活を終えた。 

ロンドンに戻ったジョアンナは、エスニックミュージックを専門とする音楽プロデューサーの助手の職を得る。そして、その職場で知り合ったのが、イスラムのスフィーグループ(知的穏健派(ちてきおんけんは))のメンバーのパキスタン人だった。

お金や贅沢(ぜいたく)以上に、より精神的な拠(よ)りどころを求めていた彼女は、優しいとはいえ、とても裕福(ゆうふく)とは云えない彼との結婚を決意した。 

夫の母親も同居する狭(せま)いアパートでの生活は決して快適なものではなかったし、彼女に家計を任(まか)せてもくれなかった。買い物もいちいち細かく指定され、レシートも点検された。ま、日本での贅沢(ぜいたく)な日々とは雲泥(うんでい)の差の生活やね。

ロンドンには、日本の食材がかなり揃(そろ)っている。しかし、彼女には、大好きな日本の食材など、梅干(うめぼ)しひとつ買うことは許されなかった。だから、僕が彼女に日本の食材をあげた時、堰(せき)を切(き)ったように涙を見せたんですね。 

さてさて、その後、ずいぶん年月が経(た)ちました。ごく最近の事です… 

何度かアラントンを訪れたジョアンナだけど、ここんとこしばらくはご無沙汰していた。それで、その後。どうしてんのかなあ?と思い、メールを出してみた。

「ジョアンナ、その後、元気にしてる? たまにはアラントンにおいでよ」

すると、嬉しい答えが返ってきたやないですか。それを見たウマはめちゃ嬉しかったねえ。 

独立した御主人の事業がかなり順調で、二人目の子供が生まれたのを機会に、ロンドン南東部の海沿(うみぞ)いの、かなり広い土地付きの家に引っ越したと云う。

そして「今はとても幸せに暮らしてます」だって…

「ビーチに近い新しい家に引っ越して、今、とても幸せです。夫も義理の母も、いつの頃からか、私の平和活動にすごく理解を示してくれるようになり、私の念願だった、庭にピースポールを立てることにも賛成してくれました。

私の好きな日本の食べ物を、この頃では夫も母も一緒に食べてくれるようになり、私は、今、日本の食材を自由に買うことが出来るどころか、夫や母親から日本食のリクエストを受けるんですよ。一時期のことを思うととても信じられない。

すごく苦しい時期、すべてを投げ出したい時もあったけど、いつも、これからきっと良くなると信じて、祈りを欠かさない日々を送ってきました。

アラントンは、とても不思議なところです。アラントンに滞在するたびに、間違いなく特別な波動を、心強い波動を、いつも肌で感じていました。アラントンを訪れたことが、間違いなく、今の私の、幸せに繋(つな)がっていると信じてます。

ウマさんはじめアラントンの皆さんには、とても感謝しています。次回お邪魔する時は、家族全員で行くつもりです…」 

美人を観賞出来たうえに、その額縁(がくぶち)の中に秘(ひ)められたストーリーを知り、さらに、額縁の中のその別嬪(べっぴん)さんが幸せになったことも知り…いやあ、ウマはなあ、素敵なメールをもらって、とても嬉しいわ。

ジョアンナの選択(せんたく)…間違ってなかったんやね。

(もう一人のジョアンナ)

アラントンに、ボランティアとして、ちょくちょく来てくれる、近郊の村に住むジョアンナはゲイの方です。歳のころ40歳半ば、知的な美人で、しかも穏やか、誰からも敬愛されている。ウマももちろん大好きな方や。 

日本にいた時、ゲイと云うのは男の同性愛者のことだと思っていた。ところが、こちらに来て、男女問わず、同性愛者のことをゲイと呼ぶのを知って驚いた。つまり、レズビアンの方もゲイなんですね。広辞苑には(男の)同性愛者とあるけど、これは間違い。(男の)はいらないね。 

ぼくは、同性の結婚を事実上認めているこの国で、同性同士の結婚式に呼ばれたことがある。あのスーパースター、エルトン・ジョン…ゲイの彼に女王が<サー>の称号を与える国やしね。

カミングアウトしているゲイの人は多いよ。ぼくのまわりにもいるけど、実はね、素晴らしい人格者ばっかりなのよ。彼らのまわりの人々で、彼らを拒否する人はひとりもいない。ぼく自身も、彼ら同性愛者の存在を認めている。なぜか? 

人がこの世に生を受ける…、男に生まれるか女として生を受けるか…いわゆるジェンダーやね。ところが、神さんが、ちょっとイッパイ呑(の)んではったんやろか、或(ある)いはちょっとよそ見してはったんやろか、そんな隙(すき)に、体は男、でも心は女、或いはその逆…てな方が、この世に生を受けるんや。 

心身が逆転した状態でこの世に生まれてしまったことは、ま、しゃーないよね。第一、本人にまったく責任などないじゃない。だから、そんな性を隠すことなく生きていける社会も必要だとぼくは思っている。どうしてそんな思いに至ったかと云うとね、前述したように、ぼくのまわりのゲイの皆さん、知的で見識のある方ばかりやからです。 

イングランド人のダイアナ、イタリア人のアンティネラ…

平和活動に人一倍熱心な彼女たちの結婚式には、双方の両親はもちろん、イタリアからも多くの方が列席された。素晴らしい結婚式、そして実に温かい雰囲気のパーティーだった。彼女たちの親兄弟も含め、誰もがハッピーなひと時を過ごした。

新婚のカップル、そのどちらもが女性だったのが、日本ではちょっと考えられないことだけど… 

アイルランド人のキャロルとモイラ…

大阪に長く住んだこのゲイのカップルは、僕たちの古い友人で、僕の子供達も小さい時から親しんでいる。この二人、今、故郷アイルランドのダブリンで幸せに暮らしているけど、周りの誰もが、彼女たちがゲイである事を知っている。

二人ともキャリア豊かな教師で、キャロルなど校長先生を務めている。そう、ゲイであることが社会にまったく迷惑をかけていない。 

僕の長女、くれあの高校時代の同級生ニッキー・スペンスは、いまや押しも押されもしないスコットランドを代表するテノール歌手となった。そのファーストアルバムは、クラシックでは異例と云えるベストセラーとなり僕も愛聴している。

彼は、学校祭で、いつもくれあと日本の歌をデュエットした。学校一の巨漢(きょかん)、まるで相撲取(すもうと)りみたいな彼が、くれあと踊りながら日本語で唄ったユーミンの「まちぶせ」など、先生方や御父兄さんたち、おなかを抱(かか)えて笑っていた。

巨漢の彼がゲイだということは、先生も含め学校中の誰もが知っていた。でも、誰一人、それを非難する者はいなかった。それどころか、彼、ニッキ―は、学校で一番の人気者でもあった。うち、アラントンにもよく遊びに来た。 

毎年、大晦日(おおみそか)に恒例(こうれい)となっているグラスゴー・ロイヤルコンサートホールでの彼のコンサートはいつも満員です。彼が登場した途端(とたん)、歓声があがります。

彼、ニッキ―は、毎回、僕たちを一番いい席に招待してくれる。僕の姉、美也子は、着物姿でこのコンサートに行き、彼、ニッキーとビッグハグしてたね。 

いかがですか? こちらでは、尊敬を受けるゲイの方の存在が少なくないってこと、わかっていただけたかな? 少なくとも、僕のまわりでは、という注釈付きではあるけど…

日本では一部のタレントがゲイとして社会的に認められていると思

う。おすぎとピーコ、美輪明宏などなど…、でも、ごく一般の人も、ゲイとしてもっと認知されていいと思う。それを隠すことなく生きていける社会って、きっといい社会だと僕は思っている。 

前置きが長くなっちゃった。さて、ジョアンナ… 

ゲイの彼女、パートナーとの間には、当然、子供は出来ない。

いつだったかなあ、彼女が、ぼくに、晴れやかな笑顔で云ったことがある。「ウマ、わたし、養子をもらおうと思ってるの」

ああ、それはいいことやね。ジョアンナ、養子を迎えたら、是非、アラントンにも連れてきてな。 

それから半年ほど過ぎた頃だった。アラントンでの集まりに、彼女は初めて、その養子の子を連れてきた。

驚いた! びっくりした。車椅子(くるまいす)のその子を見て驚いた。10歳だというその男の子、小児マヒで口もきけないうえ、杖(つえ)を使っても一人では歩けない。

養子にもらった子が小児マヒ、しかも車椅子、自分で歩けない。口もきけない。

北アイルランドのロンドンデリーの生まれだという彼サミュエルは、小さい時に両親とも交通事故でなくし、ロンドンデリーの施設で育ってきたという。 

養子をもらって、やや誇らしげなジョアンナ、とても嬉しそうなのよ。

でも、でもな、ちょっと迷ったけど、ぼくは思い切って彼女に尋(たず)ねたんや…

「ジョアンナ、こんな子を養子にもらうって、苦労も覚悟してのことなの?」

ところが、彼女の返事には、思わず目を白黒してしまった。

「苦労なんてぜんぜんないのよ。彼サミュエルがこの世に生を受けたことには大きな意味があるのよ」

「えっ? どんな意味?」

「私たちのようにごく普通にハンディなく生まれてきた多くの人間の代わりにハンディを背負って生まれてきたのがサミュエルなのよ。私はね、その意味を共有出来るのでとても幸せ、苦労なんてないのよ。彼を養子にもらったことは素晴らしい選択(せんたく)だったと思ってるのよ」 

なんちゅう人や! なんちゅう選択や! ぼくは思わず天を仰(あお)いでしまった。この世にこんな人がいるんや!

そして、あの、ヘレン・ケラーの言葉を思い出した…

…人生で、もっとも刺激的なのは、人のために生きる時です… 

追記:

北アイルランド・ロンドンデリー生まれのサミュエルに「ロンドンデリーの歌」をCDで聞かせたことがある。戦場に赴く息子を想う親の気持ちを伝えるこの歌は、アメリカに渡り「ダニーボーイ」となり、ナット・キング・コールの唄などで広く知られるようになった。

ぼくが、サミュエルに聞かせた「ダニーボーイ」は、若くして亡くなったアメリカのシンガー、エヴァ・キャシディのアルバム「イマジン」に収録されている。

生前の彼女は無名だったけど、没後、英国のBBCが、彼女の唄を放送したところ大反響があり、エヴァ・キャシディの名は世界中に知られるようになった。

多くのシンガーがこの歌「ダニーボーイ」を唄ってるけど、エヴァ・キャシディがギターの弾き語りで唄うこの歌は胸に迫るものがある。魂の叫びのようなものを感じるのはぼくだけではないと思う。

サミュエルは口がきけない。しかし、目を閉じてエヴァ・キャシディのこの唄を聴いていた彼の目から、涙がこぼれるのを見た…

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女性指揮者が少ないのはなぜ?

2023年03月04日 | 音楽談義

「男女共同参画社会」の御旗(みはた)のもと、女性の社会進出は目覚しい。いろんな企業の女性社長も珍しいことではなくなった。

それに女性は真面目でコツコツと勉強するせいだろうか、高学歴化とともに国家資格試験をはじめ各種の採用試験にも力を発揮して着実に割合が増加している。

ところが、指揮者については不思議なことに女性の活躍ぶりをあまり聞かない。指揮者にも知名度の面でいろいろレベルがあるのだろうが、1~2名、音楽誌で見た記憶があるが、それにしても少ない。

その理由については、一流の指揮者になるまでの修行は並大抵ではないので、練習時間などの肉体的なタフさの問題、あるいは楽団員に男性が多いことからコミュニケーションの問題もあるのかと推察していたところ、こちらの盲点をつくような興味深いエピソードに出会った。

日本の女流ピアニスト青柳いずみこさんの著作は軽妙洒脱な文章で新刊が出るたびに興味深く読ませてもらっている。

       

本書の257頁に掲載されていたもので以下、引用すると次のとおり。

芸大時代の(著者の)同級生(ピアノ科:女性)に指揮者志望の人がいて、管楽器奏者(男性)に〔指揮者への近道を)相談したところこう言われたという。

「ダメダメ、あんたには胸に余計なものがついている。そんなものをゆさゆさやられた日にゃ、男どもは気が散ってしょうがない」

思わず笑ってしまったが男女平等とはいいながら、どうしようもない性差についてこれほど如実に言い表している例も珍しいと思う。

豊かなバストを持つ女性が指揮をしている姿を想像すると、ちょっと・・・(笑)。

しかし、一方ではこの「胸に余計なものがついている云々」について、うがち過ぎかもしれないが、性差にかこつけて管楽器奏者が本人の自尊心を傷つけることなく、それとなく辛くて厳しい「指揮者への道」をあきらめるよう冗談めかして諭したとも考えられるような気もするが・・。

さて、同書ではこの文章に続いて、「西本智美さんなどは、宝塚の男っぽいカッコイイスーツに身を包み、全然ゆさゆささせていないように見えるが・・・」とあった。

指揮を志す女性はペチャパイに限るというわけでもあるまいが、有利なことはたしかかもしれない。ただし、これは指揮能力とは別次元の問題。

以下、「指揮者希望」の小題のもとに、青柳さん流の指揮者論が展開されるが、ピアニスト出身の指揮者が多いのは、音楽的欲求が強く、ピアノという楽器や自分自身の手の可能性との間にギャップを感じてしまうようなタイプだとのこと。

音楽評論家の青澤忠夫氏は、指揮者にとっての「技術」とは「オーケストラに巧く音を出してもらう能力」と定義する。

「楽員たちを掌握する力も含まれるし、作品解釈や説得力、人間性、政治力、複雑な人間関係なども絡んでくる。そして、他人の出した音に対して管理者として責任を取らされる」(「名指揮者との対話」春秋社)。

「悪いオーケストラはない、悪い指揮者がいるだけだ」という金言がある。

さて、世界的に著名だったピアニストのアシュケナージは指揮者への転身を果たしたが、その言では責任が分担されるから指揮のほうが気が楽だと感じるらしい。

「仮にぼくがミスをしても、いいオーケストラなら、なんとかカバーして僕を助けてくれますからね。ピアノを弾くときは、誰も助けてくれませんよ」。

指揮をするにあたって、ピアニスト出身者は断然有利だというのが彼の見解。ピアノはヴァイオリンなどと違って広い音域を再現できる楽器だから、容易にオーケストラという媒体に移行できるとのこと。

あのリヒテルもコンドラシンの手ほどきで10日間で指揮法を学びプロコフィエフの「協奏交響曲」を指揮し、作曲家本人は満足したが肝心のご本人は金輪際ごめんだと思ったらしい。

「嫌いなことがふたつあるからです。分析と権力です。オーケストラ指揮者はどちらも免れることはできません。私向きではありません」。

権力志向の人間がウヨウヨしてる中、リヒテルの質朴な人間性を垣間見る思いがする。

因みに、バッハの作品演奏にあたって三大名演奏があるという。

カール・リヒター指揮のマタイ受難曲、タチアナ・ニコラーエワ女史(ピアニスト)の「フーガの技法」、そしてリヒテルの「平均律クラヴィーア曲集」。

最後に「タイトル」への解答だが、指揮者とは音楽の才能ももちろん必要だがそれ以外にも管理、監督、権力行使、複雑な人間関係の処理や政治力などいろんな能力が必要とされるようで、どうやらこの辺にドロ臭さが漂っていて、女性指揮者が育たない、活躍できない真の原因が隠されているような気がするがどうだろうか。



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「プリアンプ騒動」の思いがけない顛末

2023年03月03日 | オーディオ談義

オーディオシステムの中で、(もし代えるとすれば)音の変化が一番大きいのはスピーカー、これにはどなたも異論があるまい。

その次は・・。

おそらく「百家争鳴」で、部屋の大きさ、デジタル機器、レコードプレイヤー、パワーアンプなど枚挙に暇がないだろうが、個人的には「プリアンプ」ではないかと推察している。

とはいえ、我が家ではいつも周期的な波が押し寄せていて、現在はたまたま「プリアンプの波」が来ているという言い方のほうが正鵠を射ているかもしれないですね(笑)。

まあ、プリアンプといってもピンからキリまであるわけだが、比較的手の届く範囲内のお値段で音の変化を楽しめるところが気に入っている。

で、我が家には現在3台のプリアンプがある。

「マランツ7型」「安井式」「JADIS」(フランス)だが、それぞれに特徴があって、スピーカーとの相性を考えてときどき入れ替えている。

これら3台があればもう十分だろうと思っていたところ、オーディオ仲間の「YA」さん(B市)が「素晴らしいプリアンプを製作したそうだ」という噂を聞きつけて、持参してきてもらったのがこのアンプ。



先日のブログでも取り上げましたよね。音の良さといい、専用の木製ケースの見栄えといい、まさにプロ裸足(はだし)~。(プロが裸足で逃げる、つまりプロ顔負けってこと)

以降、2週間ほどお借りして聴きこんでみたが、非常に素晴らしい音質だとは思ったが、レコード用の「フォノイコライザー」の部分が回路の大半を占めていて、我が家ではレコード不要でブルーレイやCDプレイヤーばかりなので、ちょっと勿体無いというか「宝の持ち腐れ」というか・・。

そこで、泣く泣くお返しする腹を固めて再度「YA」さんに我が家に来ていただいた。一昨日の3月1日(水)の午後のことだった。



当然、ついでに新しいシステムを聴いていただいたが、「とても柔らかい音で聴きやすくなりました。前回の時は中高音域の線が細くてちょっと刺激的でした」と、とても忖度されているとは思えないほどの好評ぶりだった。

YAさん宅は「JBLの3ウェイシステム」で、2インチドライバーを使っておられるが、我が家では1インチドライバーの「175」だったのでもろにその差が出たみたい。それと、ローカットが「2000ヘルツ」と、ウーファーと遠すぎたのも一因かな~。

で、問題はプリアンプである。

最初に「安井式」を聴いていただいてから「マランツ7型」へと交換していろいろお話しするうちに、話題がプリアンプ内部の部品の問題へと発展した。

「プリアンプはコンデンサーや抵抗のブランドで音がガラッと変化しますのでその選択には極めて注意を要します。私のアンプにはコンデンサーはドイツの○○の最高級品、そして抵抗は○○を使ってます」

実際にプリアンプの裏蓋を開けてもらってとくと拝見。

「なるほど、いい音の秘訣は部品の吟味と選択ですか~」と大いに納得して気持ちが激しく揺さぶられた。

そこで、いきなり「ど直球」を投げ込んだ。気忙しい性格はいくつになっても治らないので困る(笑)。

「フォノイコライザーの部分を省略して作っていただくとすれば○円で収まりますか?」

「ハイ、収まると思います・・」

というわけで、返還話から急転直下で創作話の方向でまとまった。

まったく思いがけない展開となったが、まあ墓場までお金を持って行くわけでもなし、生きてるうちに使わないとね~(笑)。

以降、細部の話へと移って「整流管(1本)と出力管(13D3=2本)は「BRIMAR」(英国STC)にしてください、そしてコンデンサーも抵抗も現用中のブランドでお願いしますね。」

新春にふさわしい話で気持ちの方もルンルン~(笑)。



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南スコットランドからの「ウマさん便り」~2023・3・2~

2023年03月02日 | ウマさん便り

「第21回アラントン・ワールドピース・フェスティバル」 

英国の6月は一年を通して一番いい季節です。ジューンブライドっちゅう言葉もあるぐらいやしね。天気のいい日は、夜11時過ぎても明るいよ。

だから、アラントン最大の催し〈アラントン・ワールドピース・フェスティバル〉は、毎年6月に行われるわけ。 

第21回目の今年は6月23日の日曜日。地元はもちろん、英国全土から多くの方々が訪れ、とても盛況だった。 

世界各国の旗が風になびくなか、メイン会場の巨大なテントを中心に、いくつものテントが張られ、書道、茶道、合気道などのワークショップの他、数多くの展示があり、さらに、スコットランドで一番のアイスクリームファームからの出張ショップも開店した。 

泊まり込みのボランティアの方々は、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、そして日本など様々な国から30名の方がおいでくださった。まあ、皆さん、呆れるほどよく働いてくださったなあ。ほんとにありがたいことだよね。 

アラントンのサポーターの東京の平和財団からは、Y女史が代表として来てくださった。女史と言うには、まだお若い彼女、夜遅くアラントンに到着したんやけど、翌朝、なんとトイレ掃除をしておられるんや。時差ボケは?

さらに彼女、ウマへのお土産だと言って、なんと一升瓶と四号瓶入りの、得難い超々高級日本酒を、わざわざ重たい目をして持って来てくださった。これにはもう言葉もなかった。主賓と言っていい彼女だったけど、まあ、よく働いてくださった。 

さらに、同じ平和財団に勤務するMさんは、なんと、幼い子供達も含め家族総出で来てくれたんや。これもとても嬉しかったなあ。 

メイン会場のステージでは、スコットランドでは知らぬ人のいないハープの名手ウェンディさんを始め、地元のいくつかのバンドの演奏が流れ、そして、メインイベントのフラッグセレモニーではすべての方が参加、これ以上ない盛り上がりを見せました。ほんでね、毎年好評のウマ式ジャパニーズカレー、なんと二つの大鍋が空っぽになっちゃったのよ。 

アラントンが、この地でNGOとしての平和活動を開始した頃、例のオウムの事件があり、アラントンの近隣では、〈怪しいオカルトが来たのとちゃうか?〉との風評があったと言う。

アラントンの主要スタッフ、キャロライン、ジェシカ、グレンダの三名は、過去を語らないんで憶測するしかないんやけど、彼女たちの苦労は並大抵じゃなかったと思う。 

それが今、スコットランド政府や、地元のダンフリーズ市も全面的に協力してくれているほか、近隣の村の方々も〈お手伝いさせてください〉と、積極的に協力してくれるようになり、アラントン・フェスティバルは、ま、地元の風物詩になったと言えるんじゃないかな。

何年か前、ダンフリーズ市当局からお借りした大きなテントを返しに行ったことがあったけど、なんと〈そのテント、アラントンで保管しておいてください〉だって。つまり実質的には、市からの寄付なんだよね。 

前述したように、第21回目の今回も、実に多くのボランティアの方々の積極的な協力を得た。

アラントンは初めてだとおっしゃるドイツから来られたラモーナさんもよく働いてくれた。誰もが〈彼女、美人ねえ〉と言う明るいブロンド・ロングヘヤーが印象的なラモーナさん。

でっかすぎて流しのシンクに入んないカレーの大鍋二つとご飯の大鍋、計三つの重たい大鍋を、彼女は綺麗に磨き上げてくださった。

だけど、このラモーナさんには一つ問題があった。ウマにとってちょっと困る問題やった。ま、それはあとで書く… 

アラントンフェスを翌日に控えた6月22日、超忙しいさなか、ディナーの準備を終えたウマは、もうクタクタでさあ、自分の部屋でビールを飲んでホッと一息ついていたのよ。ところが次女のらうざ(ローザ)が〈おとーちゃん、皆がおとーちゃんにダイニングルームに来て欲しい言うてるよ〉〈疲れて寝てる言うといて〉〈でも、ちょっとだけ来て〉

で、よっこらしょ、とダイニングルームへ行き、ドアを開けた瞬間びっくりした。誰かのピアノ伴奏で全員がハッピーバースデーの大合唱!エッ?

その日が自分の誕生日だなんて、すっかり忘れてましたがな。誰がいつ焼いてくれたのやら、イチゴとチョコレートがたっぷりのゴージャスなバースデーケーキにキャンドルが…。いやあ、驚いたなあ。

誰かが〈ウマ!いくつになった?〉と聞くんで、〈忘れた〉言うといた。

さて、前述のラモーナさん… 

彼女がキッチンに入って来た時、ウマはその姿を見て、エーッ!

な、なんと、ぴっちりした、膝上20センチの、しかも薄〜いタイツ姿、さらに、あんたな、胸の谷間が、もう、しっかり見えるタンクトップやねん。こ、これにはめちゃ困った。そんな姿でおいらの周りをウロウロされたら、あんた、もう… 

ウマはな、ほんまにほんまに、ほんまに困っちゃったのよ。

で、あゝ困った困ったと、玉ねぎを刻んでいた時、キッチンに入って来たローザが言った… 

「おとーちゃん、なんでニコニコしてんの?」


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「見てくれオーディオ」へ 二歩前進

2023年03月01日 | オーディオ談義

前々回の「~一歩前進~」からの続きです。

今回のオーディオは「見てくれ」からの視点によるアプローチだが、たまにはこういう企画もいいでしょう。これまであまりにも「見てくれ」を無視してきたのでちょっぴり反省の気持ちも籠っている(笑)。



前回は「スーパー10」(口径25cm)の話だったので今回はツィーターに移ろう。

ほんとうはJBLの「075」を代えたくなかったんだけど、「見てくれ」がどうも金属的でクラシック音楽の雰囲気にはちょっとそぐわない憾みが残るかなあ・・。

そこで、小振りの「スーパー3」の登場。


   

数年前にオークションで落札したものだが、いきさつはこうだ。

出品されたタイトルは「英国 ビンテージ Wharfedale Super 3 重量級 アルニコ ツイーター 優雅な響き ―とても貴重な 初期型 アルニコ Gold Magnet ユニット」

当時のことだが、この「マグネット」を黙って見過ごせるほど自分はまだ成仏しきっていなかった(笑)。

周知のとおりSPユニットはコーン紙タイプにしろ金属のダイヤフラム・タイプにしろ、その機能の生殺与奪の権をにぎっているのは強力なマグネット次第だが、口径の小さなコーン紙(口径10センチ)に対してこれほどの大型マグネットを初めて見た。ついロ-サー(イギリス)を連想してしまう。

ツィーターはかなり持っているが、とても強烈な誘惑に抗しがたく右手が勝手に動いて入札欄を「ポチッ」(笑)。

いつものことながら出品者「T」さんの「ふつふつと愛情が伝わってくる」詳しい解説をご紹介しよう。

「Wharfedale社の、3インチコーン・ツイーター、Super 3。2本での出品です。

ラベルからもわかりますように、組み込み用バージョンではなく、単品として販売されていた品です。まだ、モノーラル中心の1950年代前半の製品ですので、完全な揃いはなかなか見つけることはできません。

出品の品は、比較的揃っていますが、コルゲーション・ダンパーに片方はカバーかかっていますが、もう片方にはこのカバーがありません。(これが一般的です。)その意味で、厳密に、pairではなく2本としましたが、pairとしてステレオ使用するのに全く問題はありません。
 

Super 3は、Wharfedale社を代表するツイーターで、高級システムW70をはじめとして、数多くのシステムに使われておりました。また、Leak社のスピーカーシステムにも使われるなど、タイプは全く異なりますが、Peerless社のMT25と並んで、この時代のヨーロッパを代表するツイーターになっておりました。
 
出品のSuper 3は、中でもとりわけ貴重な、初期型のアルニコ Gold マグネットを搭載したユニットで、Wharfedale社の最高級機SFB/3などに採用されていました。

画像からもわかりますように、巨大なアルニコ・マグネットで、Red アルニコ時代のSuper 5のマグネットよりはるかに大きなものが使われています。(Wharfedale社のマグネットは、アルニコ Gold タイプ→アルニコ Red タイプ→フェライトタイプと変わっていきますが、Super 3についてはアルニコ Red タイプは存在しなかったようです。)
 
音質的には、重量級のマグネットの効果でしょうか、コーン型としては、反応が早く、切れのある音で、ホーン型に負けない音の強さがあります。

フェライトタイプのSuper 3で時に感じられる「キツイ」という感じも、このアルニコタイプにはありませんので、ゆったりと、まさに優雅に音楽に浸ることができます。

また、上品で、透明度の高い音は、ジャーマン・ビンテージの高域に通ずるものがありますので、イギリス系のビンテージはもちろん、ジャーマン・ビンテージとの組み合わせも、よい結果が得られます。 (当方、出品のものとは別の10-15ΩタイプのSuper 3を、一時期、Siemens15dと繋いでおりましたが、心地よい音楽を奏でてくれました。)
 
およそのサイズは、ラウンド径92.5mm。取り付け寸法が、ネジ穴対角で、およそ100mmになっています。
 
イングランド・トーンを愛する方、ジャーマン・ビンテージのファンの方、38μF程度のコンデンサーによるローカットでフルレンジの高域補正に、また、本格的なネットワークを使用しての2way構成にいかがでしょうか。」

とまあ、そういうわけだが期待通りの性能だったし、お値段もリーズナブルでコスパは抜群~。

ネットワークにはウェスタン製のブラック型コンデンサーを使って、およそ8000ヘルツでローカットした。

さあ、最後はそれぞれのユニットに組み合わせるアンプの選択である。



まず「~700ヘルツ」までを受け持つ「スーパー12」には「300Bシングルアンプ」(画像上段左側)の出番で、出力管には「エレハモ」の300B。周波数帯域を部分的に受け持つだけなのに「WE300B」はもったいなくて使わない(笑)。

次いで「900ヘルツ~」を受け持つ「スーパー10」には「2A3シングル(出力管:フランスVISSEAUX刻印)」(画像下側)をあてがった。

最後に「8000ヘルツ~」を受け持つ「スーパー3」には、(画像上段右側の)「6AR6シングル」(三極管接続)を~。

JBLの高能率ドライバーには無類の強みを発揮する「71A系アンプ」だが、今回は相手が悪すぎて能率が低いため軒並み「討死」だった。

で、こうして書き出してみると奇しくもスピーカー勢は「ワーフェデール一色」になってしまった。同じブランドなので音色も同じだろうからこれは吉報だ。

そして、いよいよ音出し~。

慎重に3台のアンプのボリュームを調整しながら聴いてみると・・・。

あらゆる音楽ソースに対して「何でもござれ」で、しかも「高次元」で対応できることが分かった。

これはもう究極のパラダイスですぞ~(笑)。

本日(3月1日)の午後、お客様がお見えになるのでご意見を聴かせていただくつもりだが、「忖度」が無ければいいんだけど~(笑)。



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