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「涼しさ天下一品」 釧路に道外シニア熱視線 長期滞在者・リピーター根強く

2022-08-14 | アイヌ民族関連
北海道新聞08/13 15:31 更新
 福岡県飯塚市の野田豊美さん(78)、耕蔵さん(83)夫妻はこの時期、毎日のように釧路市の海沿いを散歩する。2人は15年間、夏の1、2カ月を釧路川近くのマンスリーマンションに滞在。午前中に散歩し、魚料理の店で昼食をとって体を休め、午後は日用品を買い足して、また散歩。ゆったりとした時間が流れる。豊美さんは「地元では日中は暑くて一歩も外に出られない。釧路の涼しさは天下一品。汗をかかずにウオーキングできるだけで幸せ」とほほえむ。
 釧路市の8月(2021年)の平均最高気温は22.0度。札幌市より5度低く、同じ道東の帯広市より3度低い。涼しさを目当てに、避暑目的で本州から釧路を訪れる人が年々増え、リピーターが定着している。
 釧路市が集計する長期滞在者は、10年前の約120人から2021年度は約1300人に増加。道が市町村から聞き取り集計した20年度の長期滞在者数の実績では、10年連続1位となった。30日以上滞在する人の数は、新型コロナの感染拡大が始まった20年度は前年度の約6割に落ち込んだが、21年度は以前の水準まで回復。全道的にコロナ禍で観光客が減る中、釧路市は根強い長期滞在者のリピーターをつなぎとめている。
 長期滞在者のほとんどは、関東以南に住むリタイアした60代以上の夫婦だ。マンスリーマンションを利用する人のほか、釧路市内の中古住宅を購入し、夏の間だけ住む人も増えている。自然あふれる市内の春採湖に一目ぼれしたという東京都の藤田則生さん(63)は昨年、湖近くの築50年の物件を購入。「釧路はショッピング施設も、大自然もすぐ近くにある。ほどよく都会、ほどよく田舎で快適」と気に入った様子だ。
 釧路の「涼しさ」を道外に売り込む長期滞在者誘致の取り組みは09年、官民協働で始まった。炭鉱の閉山や水産業の低迷など基幹産業が衰退する中、「何かしなければ」と市や地元の不動産会社が立ち上がり、「くしろ長期滞在ビジネス研究会」を設立した。
 「地元の人が『7月にストーブがいる』とため息をつくような夏の寒さ。これが売りになるなんて、当時は誰も思っていなかった」。創設時から今春まで研究会の会長を務めた不動産業ユタカコーポレーション(釧路市)元会長の木村豊年さん(80)は振り返る。
 木村さんは愛媛県出身。20代のころ放浪の旅で北海道を訪れ、釧路の海風の気持ちよさと雄大な自然にほれ込み、住み着いた。「夏の快適さ、大自然、人の良さ。よそ者だからこそ、その魅力を実感していた。絶対に外から人を呼び込める」。そう信じた木村さんを筆頭に、研究会では、道外での宣伝活動や滞在者向けのイベント開催などを地道に進めてきた。その取り組みが今、着実に実を結びつつある。
■長期滞在 地域の一員に
 涼しさを求め、毎年のように本州から釧路を訪れるリピーターの長期滞在者たち。通い続けるうちに、地元の人と交流したり、アイヌ文化を学んだりして地域に溶け込み、活動の拠点を築く人も少なくない。
まちづくりへ市議転身
 釧路市に10年通う牧野早苗さん(73)は、3年ほど前に市内に住宅を購入。現在は夫が主に暮らす大阪市と2地域居住をしている。
 釧路滞在中はフォークダンスやアイヌ文様刺しゅう教室などのサークル活動に打ち込む。特にアイヌ民族楽器のトンコリにはまり、2年前にはアイヌ民族文化財団のアイヌ文化活動アドバイザーを取得。トンコリサークルの仲間と一緒に、市内の高校で毎年、生徒たちに教えている。牧野さんは「阿寒湖を訪れてからアイヌ文化に興味を持って、アイヌ語も勉強した。釧路の人は懐深く、熱心に教えてくれる」と話す。

釧路市動物園でアイヌ文化ガイド(左)から、民族ゆかりの動植物について説明を受ける長期滞在者(小松巧撮影)
 「磨けば光る釧路のために何かしたい」。11年前に夏の間、釧路市に通い始めた粟屋剛さん(71)は3年ほど前、地域おこしを考える市民団体「くしろ活性化市民フォーラム」を設立し、代表を務める。2019年には知人の後押しもあり、釧路市議選に立候補して初当選。大好きな釧路川河口の景色は「世界にも通用する」と語り、観光振興に力を入れている。
多彩なイベント 後押し
 市内では毎年、長期滞在者向けの交流会や地域学習会など多彩なイベントが開かれている。7月中旬には、釧路・愛国小で小学生と長期滞在者との交流会が開かれ、6年生が手作りのパネルで地元グルメや自然動物の情報を紹介。同月末に釧路市動物園で開かれたアイヌ文化体験会では、約10人がアイヌ民族の守り神とされるシマフクロウなどを見ながら、ガイドの解説に耳を傾けた。
 こうしたイベント情報は、釧路市が専用サイトに掲載するほか、長期滞在者宛てのメールマガジンでも送る。メールマガジンの読者は市の窓口で無料発行する「くしろステイメンバーズカード」の登録者。図書館を利用できたり、65歳以上は博物館や展望台の入館料が無料になったり、市民並みの特典が受けられると好評だ。カードは毎年デザインが変わり、コレクションする人もいるという。
 ほかにも、マンスリーマンションなど物件情報の提供や、滞在中の困りごとなどにも市が応じる。市の担当者は「『今年も来たよ』と毎年市役所に顔を出してくれる、顔見知りの長期滞在者も増えてきた。交流イベントの参加者をもっと増やしたい」と意気込む。
■需要増へ若い世代誘致が鍵
 釧路市の長期滞在者誘致の取り組みが成果を上げる中、受け皿となる滞在先の確保が課題になっている。夏と冬の需要の差が滞在施設を増やす障害となっており、新たな対策が求められる。長期滞在者は現在はリタイア世代が中心だが、底上げにはテレワークなどをしながら滞在する若い世代の需要開拓も必要になりそうだ。
 受け皿のマンスリーマンションは夏のハイシーズンはほとんど満室になる。滞在中に翌年の予約をして帰る人が多く、飛び込み客は予約が難しい。
 受け入れ先を増やす障壁が夏と冬の需要の格差だ。寒さの厳しい冬に滞在する人は少なく、長期滞在者の年間延べ宿泊数のうち、11~4月は約1割にとどまる。「くしろ長期滞在ビジネス研究会」の会員で、マンスリーマンションを提供する不動産会社は、通常の賃貸物件の一部を長期滞在者向けに確保しているが、夏のみの入居では採算が取れず、受け入れ先の拡充策としては現実的ではない。
 研究会は閑散期対策として、スギ花粉が多く飛散する3月から6月にかけ、スギのない釧路への「避粉」を呼び掛けるキャンペーンをインターネットやイベントで実施。ただ、まだ成果はあまり上がっていない。
 長期滞在者を増やすには現在は少ない現役世代の誘致も課題だ。研究会は市内のコワーキングスペースを利用する場合に利用料として1日千円を助成し、働きながら長期滞在する人の誘致も図る。コロナ禍で分散勤務やテレワークが推奨される中、新たな需要として期待が高まっている。
 研究会はこれらの課題解決に向け、今月にもプロジェクトチームを設置する予定だ。
 年2千人規模で減る釧路市の人口は、日本製紙釧路工場が製紙事業から昨年撤退したこともあり、減少に拍車がかかりそうだ。釧路公立大の調査では、市内の長期滞在者の消費総額は年間約2億4千万円。定住人口にすると約200人分だと試算した。涼しさを武器に、地域活性の可能性を広げる長期滞在者誘致にかける関係者の期待は大きい。
 蝦名大也市長は「技術が進歩して働く場所を選べる時代になってきた。釧路でしか得られない経験や人との交流を提供できるよう一つ一つ取り組むことが、発展につながる」と話す。
■リピーター、地域持続に貢献
 地方創生に詳しい東京都立大の山下祐介教授(社会学)の話
 地方に人を呼び込む事業は、官が中心となり「上から言われて」やっているところが多い。釧路の事例は、早い時期から民間がしっかりとビジネスにつなげようと取り組んでいる健全な事業だ。(地域を理解し、何度も足を運ぶ)「濃い」お客さんに長く来てもらい、地域社会を持続させていこうという試みは評価されるべきだろう。
 ただ、人口減の問題は、多くの高齢者が来るだけでは解決しない。人口減対策の柱は子どもを増やすこと。長期滞在ビジネスで地域に落ちたお金を、子育て支援や教育、人材育成に投資すれば良い循環になる。避暑に来た活動的なお年寄りが、若い人たちの育成に寄与したり、地域づくりに関わったりしてくれれば、釧路の将来のためにもなる。
 道内の出生率は全国的にも低い。滞在者の誘致に成功して終わりではなく、この先の着地点をどこに置くかが大切になるだろう。(長谷川史子)
<ことば>釧路市の長期滞在者 釧路市や市内ホテルの運営会社、不動産業者など47の企業・団体でつくる「くしろ長期滞在ビジネス研究会」が、会員企業の宿泊施設を利用した人数や、市が長期滞在者向けに発行する「くしろステイメンバーズカード」に登録申請した人の情報を集約し「長期滞在者」として集計している。2020年度は1644人で、10年連続道内1位。2位の十勝管内上士幌町の68人に大きく差をつけている。
 市内の長期滞在者は主に、10日間程度のツアー客と、30日以上滞在する個人客とに分かれる。阪急交通社(大阪市)は13年、「暮らすように旅する」をテーマに、自由行動日が多い釧路行きの避暑ツアーを始め、「ヒット商品になった」(同社広報)。同社を含む団体ツアー客は毎年、長期滞在者数全体の2~5割を占める。ツアー参加をきっかけに滞在期間を延ばした個人旅行に切り替え、リピートする人も多い。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/717346/
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