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北海道新聞2024年10月1日 10:44
人とクマのトラブルが増える中、文芸評論家川村湊さん(73)が稲作以前の狩猟・採集時代から諏訪信仰など各地に残る「熊」への崇拝を探った著書「熊神」(河出書房新社)を刊行した。「日本は古来より人と熊が接近しているが、縄文社会では、人は熊を畏敬して近づかず共生した。いま一度、敬い畏れた熊信仰に注目したい」と話す。
■諏訪大社、縄文期 神話文化の再構築提唱
川村さんは厄災、疫病よけの民間信仰がテーマの「牛頭天王(ごずてんのう)と蘇民将来(そみんしょうらい)伝説」など古代神話や伝承・伝説を調べた著書もある。今回は日本人と熊の歴史的・文化的関わりを諏訪大社を中心に探った。同大社は、国譲りを迫るアマテラス側に駆逐された日本土着の神タケミナカタをまつるなど、ヤマト朝廷征服以前の日本の古層となる縄文社会の記憶が残る。本書では、広範な文献や国内・韓国などの研究をもとに、諏訪信仰の底に「熊」への信仰を見いだした。
諏訪信仰の中軸的な存在、生き神である「大祝(おおほうり)」の家系の初代が「熊子」の名を持っていたことに言及。今は廃れたものの「大熊の神事」など「熊」が諏訪信仰の古層に入り込んでいたことも記す。「食性が人間と近く、後ろ足で立つ、手のひらで物をつかむなど近親性もある一方、強く恐ろしい存在。縄文列島の狩猟世界では『熊神』として崇敬の対象だった」と話す。
諏訪大社(上社)・・・・・・・
本書ではさらにアイヌ文化や縄文式土器などにも目を配った。川村さんは「熊信仰から、ヤマト朝廷の征服を描いた記紀神話(『古事記』『日本書紀』に記された神話)で抹殺された敗者、縄文人側の精神文化を見据えることが大事。隠され排除されてきた縄文神話をよみがえらせたい」と日本の神話文化の再構築を提唱する。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1069507