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決まらぬアイヌ研究倫理指針 遺骨「盗掘」謝罪せずDNA利用に固執

2022-07-29 | アイヌ民族関連
毎日新聞7/29(金) 6:00配信

アイヌ民族に関する研究倫理指針案を巡って議論した日本文化人類学会の特別シンポジウム=東京都千代田区で2022年6月5日午前11時27分、千葉紀和撮影
 過去を生きた人々の遺骨に、技術革新が新たな価値をもたらしている。骨のゲノムを調べる最先端の人類学研究は、従来の考古学や歴史学に基づく定説を続々と書き換える一方、国内外で民族や先住性を巡る新たな争いも引き起こし、研究倫理や成果の悪用が問題化している。遺骨を巡る「ゲノム革命」の光と影を追う。
 ◇草案作成から3年
 「3年たって、なぜまとまらないのかと素朴な疑問が出るだろう。自分たちの問題として考えてほしい」
 新型コロナウイルス禍がいったん落ち着きを見せていた6月5日、東京都千代田区の明治大。日本文化人類学会が「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」に関する特別シンポジウムを開いた。全国から集まった多くの研究者を前に、同学会の元会長で、総合地球環境学研究所(京都市)の特任教授、松田素二さんが切り出した。
 議題の指針は同学会と日本人類学会、日本考古学協会、北海道アイヌ協会の代表が2018年に検討を始めた。アイヌ民族の歴史・文化を研究する上で、初の横断的な指針作りとして注目された。草案ができたのは19年2月。4学協会の手続きを経て公表し、20年1月まで研究者や市民から意見を募った。だが今も、指針は「案」のままだ。
 ◇世界の潮流に反する
 なぜ指針が必要なのか。背景には、アイヌ研究が背負う「負の歴史」がある。半ば強引に採血するなど人権を侵害する人体調査や、資料の不当な取り扱いが批判されてきた。
 指針案は、前文で「研究対象となる個人や社会の権利は、科学的・社会的成果より優先される」と強調。研究には倫理審査が必要と定め、「近代(1868年の明治維新)以降」に埋葬されたアイヌの遺体や副葬品、「盗掘や遺族など直接の関係者の同意を得ずに収集された資料」などは「用いるべきでない」とした。
 だが、外部の反応は厳しかった。批判する意見書を出した広瀬健一郎・鹿児島純心女子大教授(先住民族教育史)は「カナダでは1万年前の遺骨も先住民族に返すのに、遺骨返還や再埋葬を進める世界の潮流に反している。研究ありきで利用の抜け穴ばかりだ」と憤る。アイヌ民族や研究者らで作る「アイヌ政策検討市民会議」も「国連の『先住民族の権利宣言』が定める遺骨返還の権利が尊重されていない」と指摘し、「尊厳を傷つける研究が数多くなされてきたことへの反省が不明確」として謝罪を要求した。
 見直しを迫られた4学協会。協議はこれまで16回開かれたとされるが全て非公開で、議事録も公表されていない。だが、複数の出席者は「骨を扱うことが少ない文化人類学会は利用に慎重だが、それ以外の一部学会が強硬姿勢を崩さない」と内幕を明かす。
 ◇責任の所在、対応巡り紛糾
 6月のシンポは、指針が成立しない事情の説明と、学会の姿勢の明確化が目的だった。松田さんは「突き当たった課題」として2点を挙げた。
 まず、過去の行為に対する責任の是非だ。かつて京都大や北海道大など旧帝国大の研究者が、アイヌの墓から骨や副葬品を持ち出した。2013年以降の文部科学省の調査で、1800体以上の遺骨が全国12大学と17の博物館などにあると判明。返還を求める訴訟も相次いだ。その責任を誰が負うのか、過去の行為を今の価値基準で判断するのかを巡り、協議は紛糾した。
 次に、学問の自由と責任だ。「現在の基準で研究対象を制限することが、イノベーションによって明らかにされるかもしれない人類全体の知的利益を侵害する可能性がある」というのだ。
 指針案には「DNA」「塩基配列データ」といった言葉が再三登場する。
 人類学分野では今、人の骨や組織から得たDNAを解析する手法で、人類の歴史や文化を一新する発見が科学誌をにぎわせている。特にこの10年は、高速遺伝子解析装置「次世代シーケンサー」の登場で、得られる情報量が格段に増加。「個々のDNA」から「総体としてのゲノム情報」へと広がり、学界は活況に沸いている。
 一方、過去のDNAを得るには、過去の遺骨が必要だ。DNAは主に頭骨の耳の周りや歯から抽出するが、骨の破壊は避けられず、新たな課題も生じる。
 ◇米国の学会は謝罪
 倫理指針を作れない日本を尻目に、世界は遺骨のゲノム研究実績でも倫理を巡る議論でも先行する。米国人類学会は21年11月、「我々の搾取的研究で被害を与えた」と過去の人権侵害を認め、先住民共同体に謝罪する声明を発表。国内では近年、旧優生保護法下の強制不妊を巡り、日本医学会連合や複数の関連学会が優生政策への関与などを検証し、陳謝や反省を表明した。だが、人類学分野の団体は謝罪を拒み続けている。
 文化人類学会で議論を主導してきた太田好信・九州大名誉教授は、シンポで研究者に呼び掛けた。
 「文化人類学は問題解決の知なのか、それともその問題の一部を構成する知なのか。過去の不正義を正そうという困難な課題と向き合って初めて、未来への学問の道が開かれる」【千葉紀和】
https://news.yahoo.co.jp/articles/8ac9a2674bbd41a9f74e9b5a634b1c68d633f421
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