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人はなぜ石を積むのか、世界中にある「石積み」

2021-04-12 | 先住民族関連
ナショナルジオグラフィック 2021/04/11 08:00

人はなぜ石を積むのか、世界中にある「石積み」(ナショナル ジオグラフィック日本版)
 米メーン州にあるアーカディア国立公園を歩いていると、巨大な花崗岩(かこうがん)に交じって、明らかに人の手によって積み重ねられた石に目が留まるだろう。石を積んだ2本の支柱の上に長方形の石板が置かれ、さらにその真ん中に、先端が尖った小さな石が載っている。子どもが遊びで作ったのかと思われそうだが、きちんとした目的があり、アーカディアが誇る大切な遺産の一つして保護されている。
 この石積みは「ベイツ・ケルン」と呼ばれている。「ベイツという名は、アーカディア国立公園があるマウント・デザート島の開拓者ワルドロン・ベイツにちなんでつけられました。現在使われているハイキングコースのいくつかは、1900年代にベイツが作ったものです」と、園内のハイキングコースを管理するボランティアグループのコーディネーター、ステフ・レイ氏は教えてくれた。
 レイ氏のグループ「アーカディア・サミット・スチュワード」は、ケルンの修復や崩れた石の積み直しも担当している。なおケルンとはゲール語で「積み上げられた石」の意味で、公園ではハイキング客への道しるべ(先端のとがった石が方向を指し示している)になっているほか、見る人の目を楽しませるオブジェとしての役割もある。
 こうした石積みは、世界中のいたるところにあるようだ。公園だけでなく、墓石の上に置かれたり、宗教的な像の足元に積み上げられたりすることもある。
 旅先で積まれた石を見ると、自分も同じように積みたくなってしまうが、やらないほうがいいことも多い。勝手に石を積んだために、ほかのハイキング客が道しるべと勘違いして、道に迷ってしまうかもしれない。また、高山植物などの繊細な生態系に害を与えたることもある。石積みをはがしたりすれば、その下の土はむき出しになり、雨に流されて浸食が起こることもあるだろう。
 実用的にも精神的にも、また見た目にもきれいな石を積みたくなる気持ちは理解できないでもない。人間の本能にも近いと言えるかもしれない。
「私たち人間は、岩のある風景のなかで進化しました」と話すのは、『Cairns: Messengers in Stone(ケルン:石のメッセンジャー)』の著者デビッド・B・ウィリアムズ氏だ。「人は数千年前から石を積んできました。私はここにいた、生きていたのだ、と伝えるために」
 とはいえ、石積みには道しるべ、墓、芸術作品など様々なものがあり、人々が石を積む理由も複雑だ。ここでは世界各地の石積みの例を紹介しつつ、その背景にあるものをひもといてみたい。
道しるべ
 遊牧民族から農耕民族、古代モンゴル人から南米の山岳民族まで、石を積む文化は世界各地に存在した。植物があまり生えない場所で、安全に旅をするための道しるべとして石が積まれることも多い。
 筆者が住む米メーン州では、森のなかを歩くときに松の枝を折って道を築くことは難しくない。しかし、砂漠や高緯度の北極圏など、踏みしめる草もなければ、枝を折る木も生えていないような場所では、石を積む以外に道しるべに使えそうなものは見つからないのだ。
 かつて、携行する水が無くなる前に、次の集落へ到着しなければならなかった旅人たちにとって、石積みは重要な道案内役だった。チベット高原やモンゴルの大草原、アンデスのマチュピチュ遺跡へ続くインカ道などに、こうした石の道しるべが残されている。
 18世紀から19世紀にかけて、米国西部の開拓地では、所有地の境界を示すために石を積んだ。モンタナ州やコロラド州の山には、その名残である巨大な石積みが残されている。先住民族や、スペインから移住してきた羊飼いの手によって作られたもので、「ストーン・ジョニー」と呼ばれている。
 古代スカンディナビア人やケルト人、スコットランド人の船乗りたちは、石を積んで灯台を作った。こちらは大の大人が1日がかりで作るような大きな建造物で、人の背丈よりも高く、しっかりと積み重ねられていた。道案内という意味では、ひざ丈ほどしかないベイツ・ケルンと同じ発想だが、その他の点では大きく異なる。
記念碑、巡礼の証
 護符や信仰の象徴として作られた石積みもある。
 スペイン北西部からフランスまで伸びる約800キロの「サンティアゴの道」は、使徒聖ヤコブの墓があるとされるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂までの巡礼路だ。その道端には、巡礼者たちが残した円錐形の石積みが立ち並ぶ。中世の巡礼者がしたように、今もひと月ほどをかけてサンティアゴまで旅するのは主にキリスト教徒だが、この道と石積みは、宗教を抜きにしても、人々がずっと往来してきたことを今に伝えている。
「ユダヤ教徒は、墓参りをしたとき、死者への敬意を表すために墓石の上に石を置く習慣があります」と、ウィリアムズ氏は言う。「米国南西部に住む一部の先住民族には、石に唾を吐き、それを石積みの上に置いて体内にエネルギーを取り込み、健康の回復を願う習慣があります」
 死者を葬った場所に築かれる石積みもある。クラバ・ケルンは、英国スコットランドにある青銅器時代の墓で、周囲には墓を守るようにして石板が立ち、墓の上には石がうずたかく積まれている。葬られた人物はよほど崇敬されていたに違いないと思わせるような、装飾的にも機能的にも優れた構造物だ。
 ヨルダンのジェベル・クルマ砂漠では、2017年に8000年前の埋葬塚が発見された。細長い「塔の墓」が頂上にあったとされる数百個の石を積んだ巨大な石積みが見つかり、話題になった。
石の芸術
 石を積み上げて作られた芸術作品もある。米ニューヨーク州ソーガティーズの森の中に隠されるように作られた巨大な石の構造物「オーパス40」は、彫刻家のハービー・ファイト氏が、建築用の砂岩を使って37年間かけて制作したものだ。面積2万6000平方メートルの土地に、アステカ遺跡とマヤ遺跡から学んだ技法を活かしつつ、高台や池、石積みが流れるように美しいカーブを描いて配置されている。
 アイスランド西部のアルナルスタピ村のはずれに、ラグナル・キャルタンソン氏が手がけたバゥルズル・スナイフェルスアゥス像がある。一軒家ほどの大きさの石の像は、芸術作品であると同時に、村のシンボルにもなっている。バゥルズル・スナイフェルスアゥスは、半分トロールで半分人間の、村の守護者だ。
 米ユタ州のグレート・ソルト湖に作られた桟橋は、コンセプチュアル・アーティストのロバート・スミソン氏による作品で、6万トンの玄武岩が使われている。1970年に完成し、「螺旋状の突堤(スパイラル・ジェティ)」と名付けられた。
石の迷路へ
 メーン州ポートランドにあるニューイングランド大学のアートギャラリーには、花崗岩と砂、松の落ち葉など、簡単な材料を使って作られた迷路がある。地面に描かれた円のなかをくねくねと曲がりながら進むと、最後には円の中心にたどり着く。
 石積みと違って、迷路を歩いても何も残らない。それでも、迷路は近頃コロナのせいか、急に人気を集めているという。迷路ファンが結成したラビリンス・ソサイエティの会長デビッド・ギャラガー氏によると、「歴史的に見ても、社会情勢が不安な時期になると、迷路人気が復活するものです」という。
 ラビリンス・ソサイエティのウェブサイトでは、世界中にある迷路を検索できる。南アフリカのアマトラ山脈に作られた全長1.6キロの迷路や、ドイツ、ニーダーザクセン州で修道院を改装して作られたホテル・クロスター・ダンメの迷路などは、いつか訪れてみたい。
 ギャラガー氏は、迷路と石積みは同じDNAを共有していると信じる。どちらも旅の象徴であり、人生のはかなさを示す道しるべだと。
 迷路を訪れるのは、平穏を見いだす小さな巡礼の旅に出るようなものだ。米ニューハンプシャー州ライのロック・スカルプチャー・ポイントや、アイスランドのロイフスカウラバルダへ旅行する人々も、同じ思いを抱いているのかもしれない。これら2カ所では、訪問者に石積みを築くことを奨励している。周囲の環境を傷つける心配なく石を積み重ねることができるとあって、既に数百個の石積みが築かれている。
 多くの人の手で作られた石積みがずらりと並ぶ眺めは圧巻だ。その中に自分の作品も加えるには、信仰心も芸術的才能もいらない。ただ両手を安定させて、石が自然にバランスをとれる位置を根気よく探すだけだ。
https://news.goo.ne.jp/article/natgeo/world/natgeo-0000ASrd.html


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