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エクアドルの森に失われた農耕社会の痕跡を発見

2018-07-27 | 先住民族関連
ナショナルジオグラフィック2018.07.25
キホス渓谷にはかつて繁栄し、滅びた社会があった

エクアドルの風光明媚な雲霧林に、かつて栄えていた農耕社会の痕跡が隠されていた。
 19世紀半ば、植物学者から成る探検隊が、南米エクアドル東部にあるキホス渓谷の雲霧林へ調査に入った。うっそうと生い茂る植物を斧で切り落としながら、やっとの思いで前へ進んだ。一行は、人類がかつて一度も足を踏み入れたことのない原生林の奥深くを旅していると思い込んでいたことだろう。
 だが、それはまったくの思い違いだった。その昔、この一帯には先住民のキホス族が高度に洗練された農耕社会を築いていたからだ。だが、その社会も16世紀にスペインの入植者たちによって滅ぼされてしまう。人間がいなくなった後、キホスの人々が築き上げた社会の痕跡は植物で覆い尽くされてしまった――キホス渓谷にかつて農耕社会があったことを示す論文が2018年7月16日付けの進化と生態学の専門誌「Nature Ecology and Evolution」に発表された。
アマゾンとアンデスを結ぶ交易ルート上にあったキホス
 キホス渓谷は、世界でも有数の生物多様性を誇る雲霧林に囲まれている。コロンブスのアメリカ大陸到達以前、渓谷に沿ってアマゾンの豊かな低地とアンデス高地を結ぶ交易ルートが存在した。スペイン人が入植するはるか前から、人々は谷底のやせた土地でトウモロコシ、カボチャ、豆、パッションフルーツを栽培して暮らしていたようだ。 (参考記事:「アマゾンに広がる古代都市ネットワーク」)
 論文を書いた研究者たちは、この谷で小さな湖を見つけた。湖底から1000年分の年縞堆積物をボーリング調査で取り出してみると、コアサンプルの一番深い部分(最も古い時代の年縞)に、かつて人間が定住していたことを示す証拠が見つかった。
 その証拠とは、微量の花粉だ。風が吹き抜ける開けた土地でしか育たないトウモロコシをはじめとする植物の花粉で、谷や周辺の森から湖まで風で運ばれてきたものと考えられている。これは、かつてキホス渓谷で農耕が行われていたことを示している。さらに、火をおこしていたことを示す炭の破片も多く発見された。
 スペイン人は1540年代、先住民の社会を崩壊させたようだ。先住民は虐殺されたり、捕らえられて奴隷として働かされたりした。キホス族は反乱を起こしたが、土地を追われるなどして1578年までにはいなくなり、やがては入植したスペイン人もこの地から撤退した。
 虐殺や疫病で多くの先住民が命を落としたこの時代について、「人類史上、まれにみる悲劇が起こったと言っていいでしょう」と、論文の筆頭著者であるニック・ローフリン氏る。今回採取された堆積物のコアサンプルで、キホスの農耕文化がいつ消滅したかが正確にわかった。(参考記事:「アステカ人の大量死、原因はサルモネラ菌か」)
 コアサンプルの分析から、戦いがあった時期と、その後の不気味なほど何も起きなかった時代があることがわかった。争いが最高潮に達していた頃の年縞には木炭が多量に含まれていた。また、渓谷から人間がいなくなった時期の年縞に含まれていた花粉から、この地域に生えていた植物が急激に変化したことも判明した。(参考記事:「かつてのアマゾンに大量の集落、従来説覆す」)
 今回の研究には関わっていない米フロリダ工科大学の生態学者マーク・ブッシュ氏は、「その後、この一帯は休閑期に入ります。人が消えて耕作されなくなり、かつての農地に草が生え始め、徐々に樹木が生い茂って森林へと変わっていったのです」と説明する。
百余年で谷はかつての森林に戻った
 やがて130年かけて雲霧林が生長すると、人間の活動を思わせるものは一切見られなくなった。コアサンプルの年縞は、成長が早い植物の花粉、長い時間をかけて成長する樹木の花粉の順に堆積していた。こうして、谷全体が森林で覆い尽くされていったのだろう。
 この谷に再び人間が住み着くのは19世紀に入る頃だ。コアサンプルの年縞に残る堆積物からは、人々がいつ定住したのか、ここで何をしていたのかまで正確にわかる。生えていた樹木の種類がわずかに変化しており、大型の家畜が放牧されていた証拠も見つかっている。
 19世紀半ば、この地に分け入った探検隊は、深く生い茂った森を見て、はるか昔から現在まで変わらない状態だと想像した。だが、実際は、まったくの手つかずの自然が一度人間によって変えられ、その後人が消え、また自然に戻った森林を見たのだと、ローフリン氏は説明する。
 カナダ、アルバータ州にあるレスブリッジ大学の人類学者アンドレア・キューラー氏は、「探検隊がそう思ったのも仕方ありません。一帯の森林の豊かさを見れば、誰でも手つかずの自然だと思いますよ」と語る。同氏はキホス族の文化と農耕の歴史について研究しているが、今回の論文には関わっていない。
 同じくレスブリッジ大学の人類学者エスタニスラオ・パズミーニョ氏は「今回の調査は、人間活動の影響を受けても、キホスの自然に回復力があったことをはっきりと示しています。今も昔と同じ回復力があるかは不明ですが」と語った。
 というのも、現在、キホスの谷底の平地は家畜が草を食べつくし、土はやせ、周囲の森林は手つかずの自然からは程遠いものになってしまっているからだ。パズミーニョ氏は言う。「コロンブス以前の時代に先住民が用いていた技術は、現在よりもはるかに自然への影響が少ないものだったのでしょう」
【参考動画】グアテマラの密林に眠っていた古代マヤ都市
ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー、アルバート・リン氏が、テクノロジーを駆使してグアテマラの密林の奥深くに眠る謎の古代マヤ都市を発見。(解説は英語です)
文=Alejandra Borunda/訳=ルーバー荒井ハンナ
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/072500327/
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