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『花殺し月の殺人』 デイヴィッド・グラン著

2018-07-17 | 先住民族関連
読売新聞 2018年07月16日 05時24分
評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)
実話に見る底知れぬ闇
 一九二〇年代のアメリカ、ネイティブ・アメリカンの保留地で二十余件もの不審死が相次ぐ。事件解決のためやがてFBI(連邦捜査局)となるBI(司法省捜査局)が乗り出す。派遣されたのはテキサス・レンジャーの過去を持つ捜査官。対する事件の黒幕は町の有力者、差し挟まれる写真もそのまままるで西部劇の世界なのだが、本書は実話である。
 舞台はオクラホマ、オセージ族保留地。保留地といえば先住民が強制移住させられた貧しい土地といったイメージだが、ここは違った。石油が出たのである。オイル・マネーのおかげでアメリカでいちばん裕福な先住民となったオセージ族、その富の匂いを嗅ぎつけて、ワルい奴やつらが集まる。差別的な後見人制度など、法律もワルに有利とあってはタダでは済まない。
 白人と結婚したオセージ族女性の家族が次々と不審死を遂げ、一族の富がすべて夫の手に落ちる。あるいはオセージ族の謎の死によって白人後見人が富を手にする。オイル・マネーと人種差別の二重構造による大量殺人を背後で操る黒幕の存在が次第に明らかになる。告発しようとした人物は殺害され、捜査チームには裏切り者の気配が。そしてFBI創立を目ざすJ・エドガー・フーヴァーの影が現場の捜査官たちの背後にちらつく。
 結論をいえば捜査官たちは遂ついに黒幕を追い詰めるのに成功するのだが、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀犯罪実話賞の本書のコワさはその先にある。現在の保留地に事件関係者のその後や子孫たちのいまを追った著者は推測する……事件はあの犯人たちだけの仕業だったのか、ほかにも同様な手口でオセージ族の富をかすめ盗とった者たちがいたのではないか。犠牲者はもっといるのではないか。さらに深くて暗い闇が垣間見えて、本書ラストの大平原の写真とオセージ族女性のひとことに背筋が凍った。犯罪歴史ノンフィクションの傑作である。倉田真木訳。
 ◇David Grann=1967年、ニューヨーク生まれ。ジャーナリスト。著書に『ロスト・シティZ』など。
 早川書房 2200円
https://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20180709-OYT8T50050.html
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