西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

エイズと癒し(速水正憲客員教授講義より)

2007-12-22 | 2005年4月以降(平女、高槻、学研都市等)
本日、本年最後の講義日だった。平安女学院大学では土曜日だが、金曜日の講義日となっており、生活福祉学部の一回生を対象に速水正憲(はやみ・まさのり)客員教授(京大名誉教授)の「エイズと癒し」というテーマで講義があった。私も「世話係」の一人として講義を聞かせてもらった。目からうろこ、であった。

速水先生は、東大農学部卒、京大ウイルス研究所教授歴任、私より1歳年下である。エイズの研究では日本で第一人者である。

私は、エイズと言うと、アフリカの猿から人間にうつったウイルスによる病気で不治の病と思っていた。それは主にセックスを通じて伝播するもの、と認識していた。

それは間違ってはいないが、エイズの全体像ではない。やはり、全体像を把握することが大切だ。速水先生の講義「レジュメ」から全体像に通じる幾つかの点を伝えておきたい。

HIV(人免疫不全ウイルス)の四つの感染経路
・セックス・母子感染・輸血・血液製剤 (つまりセックスによるだけではない!)

エイズを起こすHIVはウイルスの中でも最もヒト(宿主しゅくしゅ)に慣れ親しむウイルスである。
(1)ウイルスは生きた細胞の中でしか生きられない。
(2)HIVは増える(子孫を残す)為には私たちの細胞の遺伝子にならなければならない(レトロウイルス)。
(3)いったん(人間の)身体の中に入ったウイルスは一生とどまる。
(4)感染した人を倒すのは、ウイルスの自殺行為である。
賢いと言われるHIVがそんなことをするのだろうか。

HIVの賢さの秘密
(1)複雑な遺伝子―情報の探知と発信のネットワーク
(2)変わり身が早い(すぐに変異する) (そのためにワクチンがつくれない)
(3)多様性を持つ(ためにクローン孫悟空のようにアキレス腱ー弱点ーを狙われると全滅する、ということはない)
(4)隠密性を持つ―細胞の遺伝子に潜み、病気として認識されない

HIVは何処から来たのか
(1)HIVの仲間―ウシ・ネコ・サルのエイズウイルス いろんなHIV
(2)中央アフリカが起源
(3)アフリカのサルおそらくチンパンジーから伝播
(4)アフリカのサルではエイズを起こさない(平和共存している)
(5)(サルからヒトへ)動物種を超えた為に病気をおこす

HIVは何処へ行くのか
(1)サルからヒトに来たばかりでギクシャク―で、病気を起こす
(2)将来、矛を納める―病気を起こさなくなる
 アフリカのサルと同様に平和共存、ヒトの自然宿主化
(3)ローカルな生態系から地球規模の生態系への移行過程
(4)細胞・個体・人類に住み続ける―身体に存在しつづける
(5)ヒトとHIVの共生

結論:HIVとも感染者とも一緒に仲良く生きていかねばならない。

薬害エイズ訴訟原告で参議院議員の川田龍平さんの事例も挙げられた。http://ryuheikawada.jp/

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ウイルスの立体構造 (宇宙人Copernicus)
2007-12-23 16:16:05
ウイルスというのは、ある種の巨大分子のようなもので、遺伝情報(RNAとか)しか持たず、自分では代謝が出来ないのですよね。

だから、代謝(=生きること)は、他の(取り付いた相手の)細胞に任せた上で、自分は自分の遺伝子を使って増殖だけに専念して、自分のコピーを作ることだけしかしません。

でも、そうすることで「生きて」いる。それがウイルスなんですね。

ウイルスというのは、もともとが巨大分子のような形をしているので、その立体構造が重要です。例えば表面にイボイボやトゲトゲがあるような、そんな特異的な構造を持っている。例えば
http://niah.naro.affrc.go.jp/research/exotic/result.html

だからそのような立体的な箇所で、構造変化を起こしやすいわけです。例えばインフルエンザ・ウイルスのように、構造が違ったもの、が(突然変異の結果)出来やすくて、それらがどれも存在しています。そのような構造の違いは、例えば、鳥インフルエンザウイルスの発生でよく分かります。鳥インフルエンザウイルスも、ウイルスの一種ですが、この場合はH5N1型と呼びます。似たものに、例えば香港型はH3N2型、ソ連型はH1N1型という具合で、これらは互いに親戚です。ちょっとした立体構造の違いです。だから、鳥にしか感染しないウイルスが、いつ、人に感染する型に突然変異を起こすか、心配されています。例えば
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2006/060120/detail.html

ちなみに、H5N1型のHとかNとかいった数字の意味ですが、Hは自分自身が相手の細胞に取り付く時に利用する構造(ヘマグルチニンというたんぱく質)の分類番号、Nは自分が細胞の外へ出る時の(別の)構造(ノイラミニダーゼというたんぱく質)の分類番号、です。

タンパク質そのものも巨大分子の一種ですから、立体構造を持っています。そしてそれらは変化します。こうして、立体的なウイルス本体と立体的なたんぱく質が変化したり「くっつき具合」が変化したりて、HなんとかNなんとか、という種類の違いが発生します。例えば
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/news/2006/mar/image/spo_02.jpg
http://www2d.biglobe.ne.jp/~chem_env/rensai/i_virus.gif

上の図では、HAがヘマグルチニン、NAがノイラミニダーゼ、というタンパク質ですね。原理的に、Hは15種類、Nは9種類ありうるそうなので、15×9 = 135種類のインフルエンザウィルスの基本型が存在することになります。

さて、問題のエイズ・ウイルスの場合ですが、これを契機にちょっと調べてみると、こんな構造をしているようですね。
http://www.glycoforum.gr.jp/science/word/Infection/KS-A01J.html
なかなか面白いです。この説明でも、どういう時に変異株(別の立体構造の巨大分子)が発生しうるのかが書かれていますね。

いずれにしても、こういった基礎知識を学ぶきっかけを、授業できちんと教えてくれることはとても重要だと思います。今回、教えていただいたように、エイズを科学として学ぶことは、たとえば放射線を科学として学ぶことと同じように重要だと思います。つまり事実を事実として認識することで、初めて、それについて何か考えることができるのだろうと思います。
返信する
長いコメントありがとう (ichiro)
2007-12-24 10:15:19
学生が両方読んでくれるといいのですが・・・。
返信する

コメントを投稿