西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

「エネルギー生成系で知る病気の成り立ち」(安保 徹)より-2

2011-11-19 | 食物栄養・健康・医療・農業・教育
ちょっと「続き」を書きますね。

・二つの生き物の合体である私達の後半です。

「さて同じ頃、太陽の光を使って光合成する細菌が生まれ、大気中に酸素を徐々に放出しました。今の地球の大気は21%が酸素で、残りの殆どが窒素ですが、20億年前、約2%の酸素が大気に存在し始めました。その結果、解糖系で生きていた古い生命体は、酸素による酸化の害で生きづらくなっていました。

このような折、有害な酸素を使って効率よく大量のエネルギーを作る「ミトコンドリア生命体」が進化の過程で生まれてきました。ミトコンドリアは、我々の古い先祖である「原核細胞生命体=解糖系生命体」の残した乳酸を求めて寄生を繰り返しました。しかし、安定した寄生関係はなかなかできませんでした。何故なら我々の先祖の分裂があまりに早くて、ミトコンドリア生命体が寄生しても希釈されてしまったからです。

約12億年前、ミトコンドリア生命体が「分裂抑制遺伝子」を持ち込み、我々の古い先祖の分裂を遅くしました。それにより、ようやく安定した寄生関係が完成しました。両者は合体し「真核細胞生命体」となりました。我々の古い先祖は、ミトコンドリアという巨大なエネルギー生成工場を獲得したことによって、様々な能力を飛躍的に伸ばし、単細胞生物から多細胞生物へ、すなわち、カビ・キノコ・酵母などの真菌類、植物、動物へと進化を遂げていきました。

一方、ミトコンドリアを取り込まなかったために進化が起こらず、原核細胞のままの生命体もあります。大腸菌や乳酸菌は相変わらず単細胞の原核細胞のまま、栄養があればひたすら分裂し続け、栄養が枯渇すれば分裂をストップさせて生きています。」

こういう風に地球環境史のなかで無酸素状況の時代の生命体と有酸素にになった時に適応し進化した生命体の二つが我々の体に宿っているということです。いやー凄いですよね。

・ミトコンドリアの多い細胞、少ない細胞
「私達の体内にはミトコンドリアの多い細胞と少ない細胞があります。ミトコンドリアは分裂抑制遺伝子を持ち込んだため、ミトコンドリアの多い細胞はあまり分裂せず、(ミトコンドリアの)少ない細胞は活発に分裂しています。

ミトコンドリアが圧倒的に多いのは心筋細胞、骨格筋の赤筋、脳神経です。これらの箇所では、細胞分裂は約3歳までに終わり、以後殆ど起きません。では、(脳神経が分裂増加しないのに)何故賢くなるかというと、樹状突起で細胞と細胞の連絡を密にして、ネットワークを複雑にするからです。

一方、ミトコンドリアが一番少ないのは精子です。皮膚細胞、腸上皮も少ないです。これらは活発に細胞分裂を繰り返しています。


ミトコンドリアの多寡は、細胞分裂の頻度を決定するだけではなく、筋肉の場合、瞬発力に強い白筋であるか、持続力に秀でた赤筋であるかをも決定します。ポリフィリンという有機分子が鉄を取り込んだものをヘム鉄といいます。ヘム鉄がグロビンというたんぱく質と結合すると、ヘモグロビンになります。酸素はヘモグロビン中の鉄と結合し、血液によって全身に運ばれます。ミトコンドリアは酸素を受け取り貯蔵するために、シトクロム・ミオグロビンなどのたんぱく質を持っています。

これらのたんぱく質は赤いため、ミトコンドリアの多い筋肉は赤く見えます。一方、ミトコンドリアの少ない皮膚や精子や白筋は白く見えます。
鶏皮はミトコンドリアが少なく分裂しているので、白く見えます。ところが砂肝はいつも動いていて休むことがないので真っ赤です。マグロのような回遊魚は、休まず動き回るために赤筋が発達し赤身です。
一方、ヒラメやタイは、普段は波間に漂うか砂に潜っていて餌が近くに来た時に瞬発力を発揮するため、白筋が発達し白身です。

解糖系とミトコンドリア系の分布は、人間の場合、1対1ですが、生物によって著しく偏っています。」

・二つのエネルギー生成過程
解糖系は、白筋にて無酸素でぶどう糖をピルビン酸か乳酸に分解する過程で、炭素の結合エネルギーを取り出しています。反応が単純で、ミトコンドリア系の100倍の速さでエネルギー生成を行います。生成されたエネルギーは分裂と瞬発力に使われますが、持久力がなく疲れやすいです。

解糖系に最も適した温度は32~33度です。男性の精子は冷やすために怪しげな場所にあるでしょう。(私注:別に怪しげではなく合理的、安保先生は冗談で言った。昔から「金冷法」というのもある・・・)
昔から若者を裸にして冷やす(私注:水をぶっかけたりする)祭りが日本各地にあるのは、子孫繁栄を願ってのことです。
 また、100メートル走のような無酸素運動では、瞬発力とスピードを出すために呼吸を止め酸素を遮断し血液を止めて(私注:血液の流れを最低にして)体温を下げます。

一方、ミトコンドリア系は、赤筋などにて有酸素のエネルギー生成を行います。食事で摂った糖質や体脂肪を体内で燃焼・分解し、クエン酸回路に取り込みます。解糖系で残った乳酸やピルビン酸も、クエン酸回路に取り込みます。こうしてまず水素を取り出します。

食物から摂取したカリウムの中に中性子の一つ多いカリウムがあり、微量の放射線を出しています。ミトコンドリアはこの電磁波と紫外線を使って取り出した水素をプロトン(水素イオン)と電子に分け、電子伝達系にて膜電位エネルギーを作ります。

普通の細胞の膜電位はマイナス75ミリボルトで、これが脱分極すると細胞が興奮しますが、ミトコンドリアの場合は膜電位がマイナス150ミリボルトで、(普通の細胞の)2倍のエネルギーを持っています。ミトコンドリアはこの膜電位を脱分極させて、ぶどう糖1分子から36個の「アデノシン三リン酸」を作ります。 解糖系では、ぶどう糖1分子から2個の「アデノシン三リン酸」しかできないので、それと比較すると、18倍のエネルギー効率です。
ただしエネルギー生成に時間がかかるため、瞬発力はなく持続力に向いています。

ミトコンドリア系は、37度以上の高温で働きます。心筋がドキドキした時や一生懸命走った時に約40度になり、赤筋は42度まで上昇します。」

だから体幹は、37度以上なのだな。「体温を一定高く保つこと」が推奨されるのは、こういう根拠もあったのかな。

・人は一生の中でエネルギー系をシフトさせていく
「私(私注:安保 徹さん)はある時、人は一生かけてこれら二つのエネルギー生成系をシフトさせていくことに気付きました。

子ども時代は、解糖系が優位ですが、大人になるにつれ、1対1に調和していきます。60代から70代のお年寄りになると、解糖系が縮小しミトコンドリア系が拡大し、最期を迎えるのです。
このシフトを考えた時、子供、大人、お年寄りの特徴が全部見えてきました。

子供は解糖系なので、瞬発力できびきび遊びますが、乳酸が留まり易くすぐ疲れます。エネルギー効率が悪いので、10時や3時のおやつも含めて沢山食べる必要があります。成長とはまさに全身で活発に細胞分裂がおこっていることです。(私注:千島学説では「細胞生成」)
こういう子供特有の性質は18歳から20歳で終わり、成長が止まります。

大人になると、活発な細胞分裂は皮膚、腸上皮、骨髄、男性の精子等でしか起きなくなります。エネルギー効率の良いミトコンドリア系が増えてくるので、三食で足りるようになります。両者がちょうど1対1で調和するので、瞬発力にも持続力にも富む年代です。

お年寄りになるにつれ、解糖系が縮小するので分裂が少なくなります。年寄りの皮膚はしばらく分裂していないような皮膚です。瞬発力も衰えるので突発的な事故に対応できなくなります。しかし、ミトコンドリア系が主体となるので持続力は残ります。お年寄りは根気の要る仕事が得意です。最も特徴的なのは、ミトコンドリア系のエネルギー効率の良さを反映して、小食になることです。江戸時代からお年寄りの養生訓(私注:貝原益軒)が腹八分目だったのは、解糖系からミトコンドリア系へのシフトを体験的に実感していたからでしょう。」


さらに「続く」





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