前回紹介させていただいた、『読書という荒野』(見城徹著、幻冬舎、本体価格1,400円)のなかで、見城さんが「驚異的なオールランドプレイヤー」と評した百田尚樹さん。百田さんの代表作『永遠の0』よりも、この『影法師』をイチオシされていた。これは読まずしてはおれない。
茅島藩八万石を舞台に、武士の最下位層、下士の戸田勘一と、中士(中士の上には支配層の上士がいる)の磯貝彦四郎は、藩校で共に学び、同じ剣術道場で汗を流す。彼らは、刎頸の契りを結び、親友として成長する。彦四郎は勉学も剣術も藩内一の存在で、人間的魅力も大いにあり、勘一は彦四郎を常に追いかける立場であった。しかし、勘一の財政的に苦しい藩政をよくするためへの考え、また、実戦的な剣術の力などは彦四郎を刺激し、彦四郎は
「勘一は茅島藩にはなくてはならない男」
だからこそ、「どんなことがあっても貴女(おまえ)を護る」
と言い切る。
勘一は下士から、最後は筆頭国家老にまで抜擢される一方、彦四郎は不幸な侍人生を歩み、最後は不遇の死を遂げる。なぜ、彦四郎と共に藩政を携われなかったのか?その秘密を探っていくと、「勘一は茅島藩にはなくてはならない男」、「どんなことがあっても貴女(おまえ)を護る」につながる、とても清々しいエンディングを迎えます。
一人に光があたると、どうしても影が生まれる。逆に言えば、影がないと光は存在しない。勘一を藩の中心人物にするために、あえて影になる、友情に感動します。私は、この作品は、平成の『さぶ』(山本周五郎著)だと思います。見城さんの推薦する意味がよくわかりました。
『影法師』(百田尚樹著、講談社文庫、本体価格648円)