バブル崩壊後、30年近く、日本は構造改革を実行し続けているが、結果が出ていません。その原因はどこにあるのか?その根本を考察し、本当に取らざるおえない真っ当な国づくりへの方策を提唱しています。
第一義に考えなければならないのは、構造改革路線を選択した日本人観にあるとしています。それは、
「日本人は自律性、主体性を欠き、同調主義的で個が確立しておらず、権威に弱く、それに依存する」
という見方です。欧米人のような自律した個人へ変革すべしと方向で進んでいますが、はたしてそれでよいのか?
著者が強調するのは、「日本型自律性」は存在し、欧米とは自律性の獲得のメカニズムが違う点です。欧米では、「原理主義の道徳観」に基づいた「相互独立的自己観」があるのに対し、日本では、 「状況重視の道徳観」から発する「相互協調的自己観」が古来から実在します。つまり、「自己発見や自己実現といったものは、多様な他者の観点の内面化を通じて自分をなるべく偏りなく見つめる認識の構えを身に付け、自分が多様な関係の網の目の中の存在であることを自覚」し、その場でいかなる思考や行動をとればよいかを決定できる人格こそが日本での自律です。
しかし、欧米型への指向を促されている日本人は幼少の頃より、しつけやしきたり、また言語など、無意識レベルでは状況重視のなかで育っているため、メンタリティーが引き裂かれた状況に陥り、ひきこもりや自死という道を選ぶ人の出現しているのは自明なことです。
それでは実際に取るべき路線は、日本型への回帰の構造改革です。個の自律を求めるのではなく、自分が関係するステークスホールダーとの協働、協業のなかで、自己を確立し自信を醸成していくことが大切です。インバウンドで日本を訪れる外国人は、その日本らしさに惹かれてお越しになられているのに、日本人がそれを忘れている状況です。日本人は本来持っている良さを思いだし、見直すことが先決かもしれません。
『本当に日本人は流されやすいのか』(施 光恒著、角川新書、本体価格820円)