事業に失敗し、離婚を言い出され、母親が亡くなり、父親が認知症になった主人公が自殺の下見に、浜松から富士の樹海へ行くために夜にタクシーに乗車します。運転手に樹海までは行けないけど、近くにいい場所があると提案を受け、天竜川の佐久間ダムへ向かいます。「この先にね、月に一番近い場所があるんですよ。」と言われ、「月まで3キロ」の標識のある場所で、タクシー運転手の身の上話を聞かされます。タクシー運転手の前は学校の教諭をしており、天文クラブの顧問をしていたので、月の蘊蓄を披露してくれます。「月は地球から離れていっている」「地球から分離した月は、初めは表裏とも地球から見ることが出来ていたが、今では表だけ、裏は見えない」などと語り、「子育てって、月に似てると思うんですよ。親が地球で、子どもが月。」最後には「下見を続けるか」と。
他の5篇も、科学、特に天体学、地学などに関わる人との出会いと、その知識で、生き方を考えさせられる、とても素敵な短編集です。科学が身近に感じられる小説です。
『月まで三キロ』(伊与原新著、新潮文庫、本体価格670円、税込737円)
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