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またうど

2024-10-03 17:28:11 | 

 『まいまいつぶろ』で徳川家重、大岡忠光との誠に美しい主従関係に酔い、感動をおぼえました。そこにも登場した田沼意次は、吉宗とともに紀州から江戸に移り、幕府の一員になりましたが、彼を引き上げたのは第9代将軍の家重でした。10代将軍家治にも仕え、老中として実力を発揮しますが、家治は彼のことをこう評しています。

 「意次、そなたはさすが、父上がまたうどよ仰せになられただけのことがある」

 またうどとは「全き人」「愚直なまでに正直な信の者」という意味です。

 しかし、学校で学んだ田沼意次は賄賂に塗れて退陣したという印象が非常に強い。またうどがそんなはずがないと本書を読んで思いました。彼は内外の政治的環境の下、積極的な政策を取ります。蝦夷地の開発、印旛沼や手賀沼の開拓、東西の通貨の統合などに着手、成功への道筋は見えつつも、浅間山の噴火や長雨、洪水などの自然災害が影響、また、最大の庇護者である家治の死去によって、11代将軍家斉の一橋家のクーデターにより退陣します。彼の政策が全うしていれば、幕末の黒船来襲にも対応が付いていたやも知れません。いずれにしても巨星墜つ結末です。

『またうど』(村木嵐著、幻冬舎、本体価格1,700円、税込価格1,870円)

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