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三浦綾子さんの人生を導いた西村久蔵氏の伝記小説『愛の鬼才』は以前から読みたかった本でした。小学館から文庫になったので手に取って見ました。
「西村久蔵という人物は、私たちの物差しではとうてい測り知れぬ人物である」
困っている人は無条件で助ける。家は無銭の宿屋状態で、頼ってくる人はすべて受け入れる。仕事のない人は彼が経営する洋菓子店で雇う。店で使う以上は家族同然。入院していた三浦綾子さんを定期的に見舞うのもその一環。これは彼のキリスト教徒の生き方以前に、久蔵の両親の行き様である、「困っている者の傍を黙って通り過ぎてはならない」という教えが西村家には息づいていました。
札幌商業の教師時代の久蔵は、「生徒たちを恋人のごとく夜も昼も念頭に浮かべて身心を傾注し、(中略)先生に接した人は、誰しも、自分は特別に目をかけられていた信じて疑わない。」という感想を教え子たちに抱かせる人でした。学生の父が酒に溺れ、勉学を続けられなくなると、札幌の町で禁酒を訴え、禁酒会を立ち上げる行動力は尋常ではありません。
また、両親の牛乳屋をニシムラ洋菓子店に変革し、戦時中に小麦や砂糖が入手できなくなると、水産加工の削り節製造へ、戦後は再度洋菓子に形を変えながらも事業を継続する実力も只者ではありません。
しかし、兵士として召集令状を受け、戦場へ派遣されたことを悔い、「信仰の不徹底からこの大戦に協力したこと」を罪と受け留め、「キリスト村建設」に注力し、「縁の下の仕事が、そして損することが、何よりも尊い」という人生を歩まれました。
損得勘定やより豊かに生きたいと思うのがこの世の中の常識とすれば、他利を徹底的に追及し、どんな人にも敬意を払い、人の心に灯りをともし続ける「潔い」人からは学ぶことばかりです。「偽ることなき誠実と人間愛の精神」の実像が北の大地に春風を吹かせていた事実に涙して読み遂げました。
『愛の鬼才 西村久蔵の歩んだ道』(三浦綾子著、小学館文庫、本体価格750円)
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