語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【野口悠起雄】世界経済の不確実性は長期 ~英国のEU離脱~

2016年07月21日 | ●野口悠紀雄
 (1)円高の原因となった英国EU離脱【注1】による世界経済の不確実性は、長期にわたって続く可能性がある。なぜなら、
  (a)英国は他国と新しい通商協定を結ぶ必要があるからだ。①EUとの協定、②EU以外の国との協定。以上の交渉にはかなりの時間を要する(一説によれば2020年まで)。よって、世界経済はかなりの長期にわたって大きな不確実性に直面することになる。
  (b)金融分野においても、新しい取り決めを作る必要がある。特に「パスポート協定」について。これはEU加盟国で免許を有している金融機関は、新たな免許を必要とせずに加盟地域で金融商品やサービスを提供できる協定だ。日本の金融機関はEU加盟国で新たに免許を取らなければならなくなる。
  (c)同様の問題が、さまざまの分野で発生する。こうした問題がどうなるか、何もわからないから、世界経済は大きな不確実性に直面している。
  (d)他の諸国もEUから離脱するかもしれない。スウェーデン、ベルギー、デンマークなど。フランス、イタリアでも国民投票を提起する声が上がっている。
  (e)6月24日の株価の動向は、大陸諸国の株価下落幅は英国のそれを上回った(<例>フランスは8.0%)。これは英国の負担において他国が利益を得るような要素がEUの仕組みに含まれており、そのため英国離脱による問題が、英国においてより大陸諸国において大きいことを意味する。

 (2)世界経済のリスク増大によって円高がさらに進めば、企業の利益も外国人旅行客も2012年頃に戻ってしまう可能性が高い。これに対して、政府・日銀はいかなる政策をとり得るか?
  (a)為替介入・・・・為替レートは自由に操作できる変数ではない。2004年頃の大規模介入を行うことは不可能ではないが、為替操作について米国が牽制球を投げていることを考慮すると難しい。それに、実質実効為替レートで見ると、最近の指数は78.8だが、これは2001年から04年頃の指数が111程度だったのと比べてかなりの円安だ(指数が小さいほど円安)。この水準で介入を行うことに国際的な理解を得ることは難しい。
  (b)マクロ経済・・・・安倍晋三内閣は既にこの方針を表明している。しかし、
   ①財政拡大はGDPを拡大する効果と同時に、為替レートを円高にする効果もある(要注意)。政府の目的が円安誘導であることを考えると、財政拡大はむしろ逆の効果をもたらす。
   ②公共事業の増加によって利益を受けるのは建設業だ。これに対して円高で利益が減少するのは製造業であり、観光業だ。これらの分野には財政拡大は助けにならない。
   ③公共事業の増加は、建設労働者の受給を逼迫させる。
   ④財源の問題もある。これまで企業利益の増大によって法人税収入が伸びていたが、円高に伴う法人税収の低迷によって、2015年度の国の税収は、2016年1月時点の予測56.4兆円から減少して56.3兆円となる見通しだ。
  (c)金融政策・・・・しかし、国債購入額を拡大することは難しい。民間の金融機関は国債を購入して保有額を増やすことに慎重な態度を取っている。マイナス金利幅を拡大することも考えられるが、金融機関からの反発もあり、難しいだろう。

 (3)マクロ経済政策は手詰まりに陥っている。問題は構造改革を進めず、円安に容易に依存した企業利益拡大に満足してしまったことだ。日本経済にとって最も必要とされたのは、円安に依存しないで利益を上げられるような産業構造を作りあげていくことだった。
 リーマンショックのときも、日本経済は大きな影響を受けた。それは米国経済の落ち込みよりも大きかった。日本経済が為替レートに強く依存する構造になっていたからだ。このときから8年近くたっているが、事態は全く改善されていない。日本経済は、金融緩和と円安に目をくらまされて、貴重な時間を浪費してしまった。【注2】 

 【注1】
【アベノミクス】よ、さらば ~数字が示す日本経済の悪化~
【古賀茂明】有権者の騙し方 ~英国のEU離脱派政治家、日本の自民党政治家~
【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~
【EU離脱】嘘の「公約」で多数派を勝ち取った政治家たち
【英国】EU離脱がもたらす世界危機 ~困る米国、喜ぶロシア~

 【注2】記事「(教えて!政策チェック:1)アベノミクス 野口悠紀雄さん」(朝日新聞デジタル 2016年7月13日)は、野口悠紀雄のアベノミクス批判を要約している。
 <(前略)アベノミクスを進めた3年余りで、株価と企業の営業利益、税収は大きく伸びました。一方で、物価上昇による影響をのぞく実質GDP(国内総生産)や企業の売上高はほとんど伸びていません。実質賃金指数や実質家計最終消費支出など、賃金や消費の実態を示す経済指標の伸びはマイナスです。
 結局、株を持つ人たちは利益を得たが、日本の経済の実態はほとんど変わっていない。これがアベノミクスの本質です。安倍首相は「アベノミクスを加速させる」と言っていますが、実態に大きな変化がないので、時間が経っても賃上げや設備投資などへは波及しません。
 今後、大規模な経済対策を実施しても、(公共事業を中心とした)財政支出の拡大で恩恵を受けるのは建設業ぐらいです。(すそ野が広い)製造業や観光業に効果は乏しいでしょう。
 そもそも、「デフレから脱却する」「物価上昇率を2%にする」という目標が間違っています。物価上昇や、それによって増える名目GDPではなく、1人あたりの実質GDPを引き上げること、国民1人1人が豊かになることを目指すべきです。
 そのためには経済構造を変えなければなりません。日本経済は1990年代の中ごろがピークで、その後、どんどん貧しくなっています。1人当たりの実質GDPは米国との差が広がり、中国との差が縮まりつつあります。
 重要なのは新技術を導入するための規制緩和です。(中略)
 日本銀行はマイナス金利政策で、設備投資を活性化させようとしていますが、機能していません。円安が進んで利益が増え、もうけをため込む内部留保が膨らんでも、企業は設備投資をそれほど増やしていません。新しいビジネスモデルを見つけられず、お金を使いようがないのです。
 これ以上マイナス幅を大きくしたら、収益率が低いムダな設備投資を正当化することにしかならず、生産性を低下させます。企業が利益を活用できないというのなら、法人税率を下げるのではなく、逆に引き上げ、増えた分の税収を貧しい人に再分配することを考えるべきです。(後略)>

□野口悠紀雄「イギリスのEU離脱で不確実性が長期に続く ~「超」整理日記No.815~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
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 【参考】
【野口悠起雄】日米で経済情勢や政策に著しい違い ~アベノミクスの本質(3)~
【野口悠起雄】期待への働きかけは効果なし ~アベノミクスの本質(2)~
【野口悠起雄】為替と株の投機ゲーム ~アベノミクスの本質(1)~
【野口悠起雄】誰が負担するのか? ~マイナス金利のコスト~
【野口悠起雄】物価下落は実質賃金を上昇させる ~経済成長~
【経済】外国人投資家は株式から国債へ ~世界金融市場混乱(2)~
【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~「リスクオフ」~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(2) ~現存特例措置の見直し~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(1) ~現存特例措置~
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