語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】情報分析:民族問題における宗教と政治 ~インテリジェンス~

2018年09月17日 | ●佐藤優
 <コーカサス地域で、民族が政治的意味をもつようになったのは遅く、19世紀末のことだ。それまでは人間集団を分ける指標として、宗教が大きな意味をもった。
 コーカサス地域の宗教事情を簡単に説明しておく。アゼルバイジャン人がイスラーム教のシーア派(イランと同じ十二イマーム派)で、チェチェン人、イングーシ人、カバルディア人、チェルケス人などの北コーカサスの山岳民族のほとんどはイスラーム教のスンニー派(シャフィイー法学派)である。アルメニアはキリスト教だが、五世紀にキリストの神性しか認めない(正統派神学ではイエス・キリストは、まことの神で、まことの人なので、神性と人性をもつ)「異端」と断罪された単性派(アルメニア教会)だ。
 ここで、「北コーカサスの山岳民族のほとんど」として、「すべて」としなかったのは、北コーカサスの北オセチア共和国(ロシア領)とトランスコーカサスの南オセチア自治州(グルジア領)の宗教事情が特殊だからである。南オセチアは、一方的にグルジアからの独立を宣言し、2008年8月26日にロシアのメドベージェフ大統領が南オセチアと同じくグルジア領のアブハジア自治共和国を一方的に「独立国」として承認し、2008年9月現在、国際情勢を混乱させる大問題を引き起こしている。
 宗教的にオセチア人はもともと他の山岳民族と同じスンニー派だったが、18世紀後半から19世紀前半にロシアがコーカサスに進出する過程でロシア正教に改宗した。世界史でもイスラーム教からキリスト教に改宗するという稀な例で、現在、正確な統計は存在しないが、オセチア人の九割以上が正教徒とみられている。
 グルジア人は、ロシア正教と教義を同じくするグルジア正教を信じている。ちなみにロシアがキリスト教を導入したのは、988年、キエフ・ルーシのウラジミール公が洗礼を受けたときとされる。グルジアに関しては、317年に東グルジアに存在したイベリア王国がキリスト教を受け入れている。キリスト教受容についてグルジアはロシアよりも671年も先輩なのである。
 コーカサスにおけるグルジアとオセチアは、ロシアにとって重要な同盟者なのである。ロシア帝国はグルジア人、オセチア人の協力者を通じて、コーカサス支配を行う。1917年の社会主義革命後もグルジア人、オセチア人はソ連共産党中央委員会、KGB(国家保安委員会)、内務省などに強力なロビーを形成し、それはソ連崩壊後の現在に通じているのである。>

□佐藤優『自壊する帝国』(新潮社、2006/後に新潮文庫、2008)の「文庫版あとがき--帝国は復活する」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】情報分析:民族問題における言語構造と思想 ~インテリジェンス~
【佐藤優】情報収集のコツ ~インテリジェンス~
【佐藤優】情報操作 ~インテリジェンス~

 


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1 コメント

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Unknown (kincyan)
2018-09-17 11:42:51
この本は、大変参考になりました。以降、いろいろなキリスト教の歴史に関する関係の本を読みました。なつかしい本です。

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