事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察 その141「黒石(ヘイシ) 新宿鮫Ⅻ」大沢在昌著 光文社

2023-10-23 | 日本の警察

その140「香港警察東京分室」はこちら

それはシリーズ最凶最悪の殺人者――。

冷酷な〝敵〟認定で次々に出される殺人指令を受け、戦慄の手段で殺人を続ける〝黒石〟。どこまでも不気味な謎の相手に、新宿署・鮫島刑事が必死の捜査で挑む!(Amazon)

……もう三十年も続いている新宿鮫。累計800万部のベストセラー。光文社にとっても大沢にとってもお宝のシリーズだ。

さてこの第12作は、新宿鮫第Ⅱ期の最終作という位置づけだろうか。

第Ⅰ期は、警察内部の秘密を託されたためにキャリアでありながら新宿署から異動もできず、警部のまま出世もできない鮫島が、孤高のなかで正義を貫いていく展開。しかし鮫島を認めている桃井という上司と、ロックシンガーの恋人(じゃまでしたけど)が彼を支えてもいた。第Ⅰ期は恋人と別れ、桃井が殉職するという形で幕を閉じる。

第Ⅱ期は、中国残留孤児三世たちが組織する「金石(ジンシ)」と呼ばれる犯罪ネットワークとの攻防。その緩やかな組織内に潜む暗殺者が黒石。花崗岩を含む凶器によって脳天を叩き潰すという残虐さ。はたしてどんな武器なのか。

残留孤児が日本でどのように遇されたか、その悲しみが背景にあるので、単なる勧善懲悪ものにはなっていない。シリーズ最高作だと思っている「毒猿」への言及もちゃんとあります。

前作「暗約領域」でもそうだったが、女性上司とのやりとりなど、鮫島の態度はとてもオトナだ。おそらく大沢在昌は、警察官とは、あるいは公務員とはこうあるべきではないかという理想を鮫島に仮託しているのだと思う。新作、お待ちしております。

その142「臨場 劇場版」につづく

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どうする家康 第40回「天下人家康」

2023-10-22 | 大河ドラマ

第39回「太閤、くたばる」はこちら

秀吉がいなくなって、五大老五奉行による合議制開始。石田三成(中村七之助)の理想とする形になっている。形としては。

しかし綻びを見せたのも三成のせいだったともいえる描き方。朝鮮から帰ってきた加藤清正や福島正則らは、三成たちが担った兵站の脆弱さが苦戦の原因だと思っていて、だから尊大(に見える)な三成の対応に激昂する。

彼らに襲撃される三成が、家康の館に逃げ込むというエピソードは今回描かれない。史実じゃなかったのかな。

清正らを懐柔する家康(松本潤)のやり方は、天下を簒奪するものだと大老である毛利輝元(吹越満)や上杉景勝(津田寛治)は三成に吹きこむ。家康は、いくらでも嘘をつける男だと。

酒田市民会館である希望ホール(酒田出身の岸洋子のヒット曲「希望」からその名がついた)では、きのう「中村勘九郎・中村七之助 錦秋特別公演2023」が行われた。妻がS席で(!)見てきたのでどんなだったか聞くと、トークコーナーで観客から

「わたしは松本潤さんのファンなので、大河では七之助さんと仲がいい設定になっていてうれしいです」

という声が。七之助はしかしちょっと困って

「これから仲が悪くなっていくんです(笑)」

翌日にいきなりこうきたか。

オープニングのアニメが象徴するように、本日から白ウサギはタヌキに変貌している。老けメイクもおそろしく自然で、体型もタヌキらしくなっている。そんな家康の登場が、まるで「夜のヒットスタジオ」のオープニングだったのが笑える。

タヌキとしてのリスタートの回。キャストのほとんどに「(回想)」と入る。ああ、この大河も終わりが近い。

第41回「逆襲の三成」につづく

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巨人ファンの見たCS2023

2023-10-21 | スポーツ

YUI - Please Stay With Me (Official Audio)

巨人ファンの目を通して2023年のクライマックスシリーズを振り返ってみます。わたしはつくづくと思いました。巨人が進出していなくてよかった。なぜなら、木っ端微塵になっていたのではないかと。

CSや日本シリーズの場合、短期決戦だから強力な先発投手を擁しているチームが有利だとは誰でも気づくはず。その点、巨人は事実上、戸郷しかいなかったわけで。

しかしそれ以上に、使える投手の数が多くないと、下克上はむずかしいのだと今日の藤川と伊東の解説で思い知らされた。短期決戦だからこそ、集中して投下するコマが必要だと。その点、巨人は(以下同文)。

セ・リーグでは東(この人はいつ負けるんだろうと思ってました)と今永を先発させたDeNAが広島に敗れ、その広島も、大瀬良と床田が好投したものの、阪神に一勝もできなかった。

パ・リーグは、短期決戦にめっぽう強いソフトバンクが、なんと延長戦で3点リードしたのに逆転サヨナラ負け。勝ったロッテは、吉井監督独特の投球起用法(コンディションをまず第一に考える)もあってファイナルステージも健闘した(山本から5点もとったのである)けれどもオリックスに退けられている。

阪神もオリックスも、その特徴は選手層の厚さだ。ペナントレースで2位以下に大差をつけた両チームの激突に期待。

それにしても、これほど複雑な表情の優勝監督もめずらしいぞ中島。だよなあ、MVPが負傷して表彰式に参加できないんだから。杉本は日本シリーズに……無理なのかもなあ。

ザッピングしながらCSを全試合観て(痛風なので酒も飲まずに)、つくづくと食えない監督がそろったものだと。監督のインタビューを聞くだけでも、今年の日本シリーズは面白いかも。

巨人ファンとしては、ポランコや石川などの活躍はうれしい……いろいろあるけど今年の外国人を見る限り、ポランコは残しておくべきだったのではと……言うまい言うまい。

本日の1曲はYUIの「PLEASE STAY WITH ME」いや別にポランコのことを言っているわけでは。

 

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「どんがら トヨタエンジニアの反骨」清武英利著 講談社

2023-10-20 | 本と雑誌

大人気シリーズ「ワイルドスピード」によってTOYOTAスープラの人気は爆発した。しかし、そんな背景がありながらも、TOYOTAはスープラをもう生産していなかったし、それどころかMR-Sを最後にスポーツカー自体、一台も作っていなかったのである。

それはなぜかといえば、売れないからに決まっている。開発には莫大なコストがかかるのに。商売上手なTOYOTAは、売れ筋のSUVやミニバンに傾注し、空前の利益をあげていたのだ。

しかしそれでいいのかと、先を見通した人もいた。若者のクルマ離れは顕著で、それはあこがれの存在であるスポーツカーをトップメーカーとして製造していないことも一因ではないかと。

そして、TOYOTAはふたたびスポーツカーの開発に着手する。それはしかし苦難の道のりだった……

この本は、有り体に言えば86(ハチロク)の開発物語。AE-86のレビン、トレノを継承するクルマをとチーフエンジニアの多田哲哉は命ぜられる。

ここで彼が苦労するのは、TOYOTAの社風だ。この会社は営業の力が強く、顧客の意見を設計に反映させる度合いが大きい。おかげで世界でいちばん故障の少ないクルマを生み出しはするが、最大公約数的な、面白みのない製品しかつくれないでいた。

ヴィッツを例にとればわかりやすいかもしれない。ギリシャ人デザイナーに丸投げした初代ヴィッツは革新的だったけれども、モデルチェンジのたびに“普通の”クルマになっていった。

スポーツカーとはすぐれて貴族的な精神がなければつくれない。だから多田は、MAZDAロードスターの開発者たちに会い、その遊び心に影響を受ける。スバルと提携してつくりあげた86は、水平対向エンジンを積載した面白いクルマになった。しかし、どうしても採算がとれそうもないのでレクサスブランドで売ろうかという話になり……

多田は決して社内で優遇されたとは言い難い。そんな彼のことを、ナベツネによって巨人から解任された清武英利が書いたわけで、そんなこともこのノンフィクションの面白さに影響しただろうか。

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明細書を見ろ!2023年10月号 財形をめぐる二、三の事柄

2023-10-19 | 明細書を見ろ!(事務だより)

Money (WE ARE STILL ON THE ROAD.)

2023年9月号PART2「わたしの見かけた有名人2」はこちら

♪この町のぉメインストリート わずか数百メートル♪

これは浜田省吾の「MONEY」という曲の出だし。“この町”というのは、実は米沢のことではないかという噂がありました。確かにあの町は意外に狭い。いやそれ以上に、浜田省吾の奥さんが米沢出身であることで一定の信憑性が。しかしどうやら特定の町をイメージしたわけではなかったようです。

さて、この曲では金持ちへの憎悪が語られ、恋人を奪っていったあいつの足元にビッグマネーを叩きつけてやると吠えています。さてそれでは、彼はどうすればビッグマネーを得て、

♪最高の女と ベッドでドン・ペリニヨン♪

なことができるでしょう。

……前置きが長くなりました。この流れで財形貯蓄を紹介するのはあまりにもあざとい。というのも、ドンペリに至る経路として、財形はいかにも遠いと言わざるを得ないのです。

というのも、財形のメリットは利息が非課税(年金と住宅だけ)ですが、この低金利のご時世に利息に課税されたとしてどれだけの影響があるでしょう。その点、節税効果だけをとってもiDeco(個人型確定拠出年金)NISA(少額投資非課税制度)の方が有利であることは否定できません。

しかし、投資という名のギャンブルに国民を必死で誘い込もうとする政策に、ちょっと違和感も。ギャンブルというのは胴元が勝つようにできているわけで、勝ち負けに一喜一憂するのもめんどうな人には向かないかもしれません(わたしが三十代か四十代なら文句なく検討はしたはず)。

さて、財形貯蓄というのは、雇用主と金融機関と従業員の三者が合意してようやくスタートできる制度。むかしは

「うちの職場は財形もないし」

と嘆く人たちも多かったのです。

雇用主にとってもメリットはあって、そのあたりを厚生労働省はこう解説しています。

・従業員の貯蓄意識を喚起し、勤労意欲が高まります。

・大きな負担を負うことなく、社内の福利厚生制度や社内融資制度の充実を図ることができます。

・従業員の定着性を高め、優秀な人材確保にも効果的です。

・ハローワークの求人票への表示により、福利厚生が充実している会社としてアピールできます。

……財形をやったからといって勤労意欲が高まるかは微妙ですが(笑)、わたしたちにとって、一種の権利であることは確かです。年に一度の募集期間なのでご検討ください。用紙は事務室に常備しています。10月26日(木)まで、事務室に提出のこと。

え、ドンペリはどうしたって?痛風のために妻から一切の酒を禁じられたわたしにとって、そんなものはなんの意味ももたないのでした。

ということで本日の1曲はもちろん「MONEY」

 

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コルチカム日記

2023-10-18 | 日記・エッセイ・コラム

「伍長、球根からいきなり花が」

「そういう植物らしい」

「にしたって最後はあまりに急成長」

「痛風で休んでたらこうなってたんじゃ」

出入りの花屋さんからもらったコルチカム(どうしてもおぼえられない)。いつまでも花が出てこないと思ったら、いきなりニョキニョキと。

次は地植えかな。

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「存在のすべてを」塩田武士著 朝日新聞出版

2023-10-17 | ミステリ

平成3年12月11日夕刻。神奈川県下で前代未聞の二児同時誘拐事件発生。30年後、封じられていた過去が動き出す……

罪の声」「騙し絵の牙」の塩田武士の新作。新聞記者出身だけあって、冒頭の誘拐の描写はリアルだ。

なぜわざわざ二人をほぼ同時にさらうかといえば、犯人がどれだけ計算したかはともかく、警察の対応が物理的にしんどくなるのだった。当時の最先端の捜査ツールが足りなくなり、犯人に警察の介入を気取られてしまう(のではないか)あたり、芸が細かい。

衝撃的なオープニングだが、この小説の主眼は、誘拐された少年のその後である。作中で何度もふれられている松本清張の某作品、そしてその映画化された超大作に肌合いは近い。

美術の世界にわたしは昏いが、写実派が(写真の登場などで)不当に貶められていたことは初めて知った。しかし、カメラは単眼だが、人間は複眼で見る以上、写真とは違う作品が出来上がる道理は理解できる。そして、登場する写実派画家の絵があまりにも正確なので、彼の人生を追跡する人々を驚かせる仕掛けもうまい。

後半は、ある夫婦と子どものお話になる。そしてラブストーリーだ。読む人によって感じ方は違うだろうが、ラストをハッピーエンドととるか、ある人物の不在を強調しているととるか……にしても傑作でした。

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「八月の御所グラウンド」万城目学著 文藝春秋

2023-10-16 | 本と雑誌

万城目学久しぶりに京都を描く。しかもスポーツ小説として。

わたしは京都に詳しくないので(とにかく暑い町という印象)、あの御所の内部が本当にグラウンドになっているのかは判然としないが、死者の町である京都を舞台に、しかも権力闘争の中心だった御所に“彼ら”が現れるという発想はすばらしい。

アメリカではトウモロコシ畑に登場した彼らが、日本ではここかあ。フィールド・オブ・ドリームスの「ヘイ!ルーキー」というセリフを思い出し、しみじみする。今は無き山形シネマ旭のトイレで、見終えた学生二人が号泣していたことまで思い出してしまいました。

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どうする家康 第39回「太閤、くたばる」

2023-10-15 | 大河ドラマ

第38回「唐入り」はこちら

時の最高権力者が床に伏している。助けを呼ぼうとする彼を、次の最高権力者となる女性がさえぎる……今回の展開は、去年の「鎌倉殿の13人」最終回を多分に意識したものになっています。古沢さんの三谷幸喜へのオマージュでしょ。

茶々(北川景子)は秀吉(ムロツヨシ)に向かって宣言する。秀頼はあなたの子ではない……わたしの子だ、と。家康にとってのラスボス決定の場面。

今日は酒井忠次(大森南朋)の最期も描かれた。もうほとんど目も見えなくなっている彼の最後の海老すくい。そして最後の“出陣”。

妻を演じた猫背椿が「ご苦労さまでした」と静かに頭を垂れる。秀吉=茶々との壮絶な対比。いやしかしクドカンのドラマで常に笑わせてくれた猫背さんの端正な芝居を、ロングショットで描いた演出はおみごとでした。

秀忠登場。演じているのは森崎ウィン……はて、どこかで聞いた名では。なんと「蜜蜂と遠雷」のあいつかあ!“あの4人”のことを、映画を観た人なら誰でも応援したくなるはずで、どうやらみんな確実にステップアップしているようでめでたい。

秀吉は例によって猿芝居の連続。石田三成がめざす“合議による政治”など微塵も信じていない。豊臣の世など自分限りで終わってもかまわないと放言。大きな権力を握った人間にとって、これほど甘美な誘惑はないのかもしれない。

ムロツヨシは今回、三段階ほど死相に近づいていく。江川悦子さんの特殊メイク炸裂。さあ来週は誰が退場していくだろう。

第40回「天下人家康」につづく

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「天災ものがたり」門井慶喜著 講談社

2023-10-14 | 本と雑誌

日本は天災の多い国だ。地震、火災、噴火、豪雪、飢饉、氾濫……問題は、その天災をどう防ぎ、あるいは被害を最小化し、いかに復興するかにある。

たとえば東日本大震災。過去にこの作品で描かれたような三陸沖の津波があったにもかかわらず、人はまた海岸近くに居住を始める。しかしそれは人間が愚かなのではなく、そうせざるをえない事情があったというお話には説得力があった。易きに流れるのではなく、経済活動や人的交流の側面から、仕方なく元の土地へもどっていく人々。

このあたりの描き方はやはりさすが門井慶喜

しかし、だからといって海岸近くに原子力発電所を設置するという営為の無謀さは、国民みんなが承知することにはなったわけだけれども。

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