前号繰越。
「新宿鮫」シリーズは、それまで悲惨なほど売れず、『永久初版作家』と揶揄された大沢在昌がブレイクするきっかけとなった。「このミステリーがすごい!」でいきなり第1作がトップを飾り、最新作まで9作が刊行されている。列挙してみよう。
『新宿鮫』(’90年)シリーズ第1作。「このミス」第1位。主人公鮫島の孤立の背景。
『毒猿 新宿鮫II』(’91年) 台湾の職業凶手(殺し屋)との死闘。「このミス」第2位。
『屍蘭 新宿鮫III』(’93年) 臓器売買をめぐる罠。意外な殺人者。
『無間人形 新宿鮫IV』(’93年)直木賞受賞作 。歌舞伎町に出回るシャブの陰に……
『炎蛹 新宿鮫V』(’95年) 南米から持ち込まれた害虫を追う鮫島。
『氷舞 新宿鮫VI』(’97年) 殺人の背後に透けて見える公安の動向。
『灰夜 新宿鮫VII』(’01年) 新宿をはなれた鮫島に訪れる危機。
『風化水脈 新宿鮫VIII』(’02年) 高級車窃盗団の“洗い場”に潜む新宿の歴史。
『狼花 新宿鮫IX』(’06年)広域暴力団と手を組もうとするキャリアとの対決。
……常に一定の質を保っているあたりはさすが。正直にいうと、しかし1作目は過剰な評価だったと思う。ミステリ業界で、ここは大沢を売り出してやろうという気運がはたらいたのではないだろうか。
キャリアでありながら所轄(新宿署)の刑事として恐れられる鮫島と、彼を支援する窓際族の課長。そして鮫島の恋人はロックグループのボーカル晶(しょう)……設定だけみると完全にオトナの童話だ。
わたしはこの晶がじゃまでじゃまで仕方がなかったが、どうやら彼女の存在が人気を支えてもいる。しかし大沢も、いい歳をした警官とヒットを連発するミュージシャンとの恋愛には無理があると考えたのか、晶は次作あたりで消えていくことになりそうな気配。
このシリーズを読むと、新宿がいかにも外国人だらけで一触即発であるかのように見えてしまう。最新作ではナイジェリア人(!)が薬の密売を。わたしが知っている新宿とは様相が違いすぎる(T_T)。しかし第2作「毒猿」は傑作なのでぜひ一読を。新宿御苑での死闘はすさまじく、結末は苦い。
さて、設定として新しかったのは鮫島がキャリアだったこと。昔ながらの刑事といえば、背広から開襟シャツの衿を出し、扇子をパタパタさせながら街のヤクザを恫喝する……たとえが古すぎますか。
鮫島は違う。国家公務員上級試験をパスし、何ごともなければ警察庁あたりでブイブイいわせていたはず。だから新宿署なんて犯罪多発地域で現場にいるような人事は本来ありえないのだ。しかしある「秘密」をにぎってしまい、正義感から権力に盲従することができなかった鮫島は、一種の飼い殺しのように新宿にとどめ置かれる……以下次号。
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