事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「蜜蜂と遠雷」(2019 東宝)

2022-09-09 | 邦画

恩田陸のあの小説が原作なのだから、ある程度の面白さは保証されている。逆に直木賞も本屋大賞もとった人気作なので、半端なつくりだと炎上しかねない。辣腕で知られる東宝のプロデューサー、市川南さんもそのあたりは意識したことだろう。

監督に「愚行録」で、役者から徹底的にリアルな演技を引き出した(それはエキストラにも及んでいた)石川慶を起用。

主演の栄伝亜夜に松岡茉優、高島明石に松坂桃李。この人たちはひたすらにうまいと同時に薄味なイメージなので適役だったと思う。マネージャーで、圧倒的な庇護者だった母親の死にショックを受けて音楽の道を断念した少女、楽器店で働きながら、それでもピアノの道をあきらめられない社会人……うん、ぴったりだ。

その天才で音楽界へショックを与える風間塵(くどいようですけどカンザスの名曲Dust in The Windをいただいた名前だと思います)に鈴鹿央士、ジュリアードの王子にマサル・カルロス・レヴィ・アナトールという新人を抜擢(近ごろよく見かけます)。この四人に斉藤由貴と鹿賀丈史という味の濃いオトナを配してキャスティングはばっちり。

問題は彼らのピアノ演奏シーンにあることは自明で、あの名作「砂の器」でも加藤剛の指の動きは音とずれていて、当時の観客は、まあそれも仕方がないかとあきらめていたものだった。

しかし現代は違う。あの「ラ・ラ・ランド」でライアン・ゴズリングが代役なしで全部自分で弾いたのをわたしたちは知っている(3ヶ月の練習であの腕前ってのは信じられない)。

この映画はそのあたりもうまくクリアしていた。“誰がどう弾いているか”をあまり意識させないように撮っているのだ。これもまた、プロの仕事。

映画は音が使えるメディアだから、逆に原作で“音を想像させた”手口は使えない。そこを、松坂桃李を解説者的な位置に変更して観客を納得させてくれる。メジャーな映画会社だからこそできる細心のスタッフワーク。余計な心配なんかせずにもっと早くに観ればよかった。

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