その68「宰領 隠蔽捜査5」はこちら。
佐々木譲の道警シリーズ第一作(旧題「うたう警官」)の映画化。原作はシリーズが進むにつれて佐伯と小島百合の関係は深まり、西部劇的趣向が強まっている。もう、ほとんどウエスタン小説。
「笑う警官」も、北海道警裏金事件をモデルにしながら、道議会百条委員会で“うたう(告白する)”警官を、組織総がかりで殺そうとするてんまつが描かれている。まるでイーストウッドの「ガントレット」みたい。
佐々木と角川春樹には強い結びつきがあるらしく、警察小説を書くように誘ったのも、角川文庫でかつて大ヒットしたマルティン・ベックシリーズ(熱中して読みまくりましたぁ)と同じタイトルに変更させたのも角川春樹だったとか。
その角川が製作・脚本・監督したほぼワンマン映画。なんか、いやな予感がします。怪作になりそう……というわけでしばらく見る気になれませんでした。
いざ見てみたら、それはまあ怪作には違いありませんが(笑)、予想とは違った部分も多々ありました。すばらしい味を出していたのは、町田警部補を演じる野村祐人。いまは製作の方にまわっているらしいけれど、ぜひ役者としてもっとがんばってほしい。
大森南朋、松雪泰子が佐伯と小島なのはいいとして、優男にして、ミス道警(最初の死者)と肉体関係があり、うたう本人である津久井巡査部長が宮迫博之というのはしかし。
というのも、佐伯と津久井がアンダーカバーに起用されたのは、警察官にしてはめずらしく(柔道の稽古などで)耳がつぶれていなかったから、などの細かい点をしっかり描いてあるのが原作の強み。佐伯のサックスへのこだわりを画面に定着させるためにも有効な設定だったと思うのだが。
佐伯チームのフランチャイズであるジャズバー「ブラックバード」のマスターの鬱屈、キャリアの暗闘など、確かにこしゃくな改変は行われてはいる。
でも、それではこのシリーズをドル箱に育てる芽を自ら摘んでいるとしか。角川春樹はこのストーリーを小さな因縁話に収束させてしまった。ワンマン映画の、限界というものだろうか。
その70「レディ・ジョーカー(WOWOW版)」につづく。