極端な格差社会の架空の都市“帝都”では、富裕層のみを狙い、美術品や骨董品を鮮やかに盗み出す“K-20”こと怪人二十面相が世間を騒がせていた。ある日、サーカスの曲芸師・遠藤平吉(金城武)は、財閥令嬢・葉子(松たか子)と名探偵・明智小五郎(仲村トオル)との結納の儀に潜入して写真を撮ってくる依頼を引き受ける……
江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを子ども時代に読んだことのない男性はいない(勝手に断定)。小学校の図書館にあのおどろおどろしい表紙が存在しないとしたら、その図書館はオトナの勝手な偏見によって漂白されすぎている。生活のために乱歩が気が進まないまま書いたのだとしても、あれほど興奮させる作品はめったにありゃしない。わたしも「青銅の魔人」や「大金塊」などに熱中したっけなあ。あれ?「大金塊」には怪人二十面相は出てこないんだっけか。
第二次世界大戦が回避された世界ということで、「三丁目の夕日」のスタッフは“破壊されなかった東京”を、帝都として見応えたっぷりに描いている(帝都ですもの、嶋田久作はとんでもない役でちゃんと出てきますよ)。
少年探偵団にかぎらず、活劇の基本は“お宝の争奪戦”。別にそのお宝には価値がなくてもかまわない、と喝破したのはヒッチコック。ところがこの「K-20」はその争奪戦に入る前が長すぎてちょっと退屈。でも、二十面相と遠藤平吉の追いかけっこが始まってからは、金城武の体技の鋭さもあってどんどん面白くなる。
確かに欠点は多いですよ。いくらなんでも「スパイダーマン」や「ダークナイト」、それにジブリの諸作をパクリすぎじゃないかとか(「リターナー」のときの「マトリックス」そのまんま、ってのよりはマシ)、「アンフェア」の劇場版と同じように佐藤嗣麻子は子どもにこだわって時間を無駄にしているとか(「パッチギ!LOVE&PEACE」)のガキンチョはかわいいけど)、権力志向の強い小林少年の邪悪さをもっと掘り下げるべきじゃなかったかとか(笑)。
でも、金城武、仲村トオル、要潤といった美男たちに“お姫さま”松たか子をからませ、鹿賀丈史、木野花などの渋い演劇人をまわりに配して重量感も……正月作品らしい娯楽作。國村隼と高島礼子の夫婦が妙にいやらしくていい味出してます。テーマ曲はなんとオアシス!ぜひ。