事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ONCE~ダブリンの街角で

2008-12-04 | 洋画

Once 監督、脚本:ジョン・カーニー 出演:グレン・ハンサード マルケタ・イルグロヴァ

アイルランド、ダブリン。多くの人が行き交うグラフトン・ストリートで穴の開いたギターをかき鳴らし自作の歌を唄う男がいる。そこに一人の女がやってきた。10セントのチップを出し、あれやこれやと男に質問する。挙句、掃除機の修理の約束をさせられてしまう。翌日、壊れた掃除機を持って女が現れ、ふたりでピアノを弾かせてもらえるという楽器店に立ち寄った。彼女の腕前に感心した彼は、一緒に演奏することを提案する……。

 音楽を“やっている”人ってやっぱりかっこいいと思う。どんなに女性をくどくテクニックをみがいても、どんな口説き文句を用意したとしても、バーでいきなりピアノを弾き出す男にはかなわないのだ。
 カラオケに行くと、そのあたりはもっと露骨。考えに考えぬいた選曲で、しかも歌いこんだ曲で調子こいていても、となりで軽くサブパートを口ずさまれたりすると「おおお。さすが音楽科出身は違う」と尊敬してしまう。オレだけかな。

オープニング。ストリートで歌い上げる男の楽曲のレベルと歌唱力にたまげる。こんな才能がゴロゴロしてるアイルランドっていったい何だ、と思ったらハンサードは有名なアーティストだったのね。ホッ。なんと「ザ・コミットメンツ」にも出演していたとか。どの役だったっけ。まさかあのデブじゃ。

歌詞が、すれ違う男女ふたりの過去や気持ちをあらわすあたり、ほとんどロックミュージカル。今年のアカデミー賞のセレモニーで、他のどんなパートよりもふたりのライブが素晴らしかったのを思い出した(最優秀歌曲賞受賞)。

母親が亡くなったために、父親の孤独をなぐさめようと実家に帰って電器屋を手伝う男。チェコに夫を残してダブリンでシングルマザーとしてさすらう女。ふたりが連れだって歩く画面がすばらしい。男は大きなギターケースをかかえ、女は故障した掃除機をゴロゴロ引っぱって行く。ストリートミュージシャンである男と、ピアニストでもある女が最初にセッションするシーンには、「音楽が誕生する現場」を見せつけられる思い。「たった一度」という題名にこめられた意味が泣ける。傑作。やっぱり音楽やってるヤツは強いわ。

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天覧試合なんか知らない~長嶋茂雄

2008-12-04 | 事務職員部報

Nagashima01 「みんな、黒澤明の『やりょうけん』って映画は面白いらしいぞ。」
「……長嶋、それ野良犬(のらいぬ)だよ」

 もうずいぶん前、酒田の焼鳥屋で友人と飲んでいた。お互いに巨人ファンなので、ペナントレースの話題で大盛り上がり。巨人ファンの悪い癖は、世の中全てが巨人バンザイという発言を許すのではないかと油断しているところ。カウンターの少し離れた所で独り呑んでいた柄の悪そうな中年がからんできた。

「お前ら、巨人ファンか。」
「……はい。」しまった。
「どこがいいんだあんなチーム。」
「……。」やばい。
「何で好きになったんだ?」
「んー、やっぱり子どもの頃に長嶋が……」
「ナガシマぁ?……長嶋か。うーん。それならまあ……呑め。」
わざわざ寄ってきてビールを注いでくれた。

 奥さんが亡くなっただけでなく(マスコミは報じないが)長嶋は家庭的にはめぐまれなかった。販売の神様と呼ばれた読売の務台や、ご存じナベツネ、そして正力松太郎などに翻弄された人生は、果たして彼の望んだものだったか。誰よりも監督がスターだった巨人はやはり不幸だったし。

しかしこれだけは確実に言える。戦後の日本人がもっとも愛したのは、まちがいなく彼だったと。天覧試合には間に合わなかった世代のわたしですら、つくづくとそう思う。日本プロ野球が隆盛だった時代=長嶋のいた時代にたまたま遭遇した消えゆく世代の感傷だとしても。

07年9月28日付事務職員部報「日当④」より。

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