市川崑追悼のためにアップ。
長寿だったせいで誤解されそうだけれど、彼は決して【巨匠】ではなく、最後まで【才人】だった。
「悪魔の手毬唄」の切れ味、「細雪」の皮肉さはこの人でなければ……
名コンビだった脚本家の故和田夏十と、今ごろ久しぶりの夫婦の会話を楽しんでいるかも。
彼の最高作に金田一シリーズをあげる人は多いだろうけれど(大原麗子つながりでサントリーのCMをあげる人もいるかもしれない……確かに、ホンペンの巨匠がCMであれほどの切れを見せるなんて。さすが市川)、テレビの「木枯らし紋次郎」や「刑事追う!」は将来絶対に再評価されると思う。わたし、なぜか「刑事追う!」の生シナリオを神田の古書店で手に入れているんだけど、あれはなんだったんでしょう(笑)
妻にとっての最高作は文句なく「おとうと」と「私は二歳」だそうです。さすが年季はいってます。さて、「獄門島」は……
「獄門島」(’77 東宝)
監督市川崑
主演石坂浩二 佐分利信 司葉子
わたしの世代は横溝正史どっぷりである。正確にいうと角川書店が仕掛けた横溝ブームにまんまとはまったのだ。ほぼ同世代の喜国雅彦(「傷だらけの天使たち」のマンガ家。必読)など、黒背に緑文字の横溝正史の角川文庫全89種を集めることに命を賭けたほどだ。
だから新作の「犬神家の一族」に客がまるで入らなかったのはショック。一種の天使として存在する探偵を、三十年前と同じ石坂浩二に演じさせたのが災いしたか。でも、佐清(すけきよ)がゴムマスクを微妙にグニュグニュ動かす小細工など、90歳をこえた市川監督が、カメラの後ろでほくそ笑むような遊び心がうかがえてうれしかった。
その三十年前の石坂金田一シリーズで、わたしがいちばん好きなのは「獄門島」。原作の【放送禁止用語を使った謎解き】もすばらしいが、東野英治郎、稲葉義男、松村達雄などの爺さんたちがとにかくいい味を出している。特に佐分利信!(「華麗なる一族」の万俵大介はやっぱりこの人でなくっちゃ)了然和尚の悲嘆をみごとに演じ、犯人の動機の不自然さをうまく隠している。もしも再映画化するというなら、この爺さんたちをこそぜひもう一度……って全員死んでるけど。