「本棚探偵の冒険」はこちら。
多分あなたもこの著者の文庫を一冊は持っているだろう。探さなくても、どんなに遠くからでも、どんな極彩色の本に囲まれていようと、黒い背表紙に緑字のタイトルははっきりとその存在を主張している。(「本棚探偵の冒険」喜国雅彦著より)
喜国と同世代であるわたしは、「うん、確かに」とうなずく。
そう。角川の「横溝正史文庫」(ね、持っているでしょ?)
……ギャグ漫画家である喜国雅彦は、同時にミステリマニアであり、なおかつ古書コレクターでもある。彼をその暗黒に誘ったのは横溝正史。推理小説としての面白さはもちろんだが、彼を耽溺させたのはもうひとつの要因。
【この横溝正史文庫のイラストカバーものを、一冊残らず集めてやる!】
こんな目的のためだ。ほんと、しょーもないことに男は血道をあげてしまう。
ところがこれが困難をきわめる。角川商法の常として映画化が決定するといきなり表紙は映画のカットになってしまうし、消費税導入と同時に昔のカバーがアッという間に市場から消えたりする。
そして、最も品薄でめったに見つからないとされていた「シナリオ悪霊島」「人形佐七捕物帖」「横溝正史読本」(おっとこれはわたしが持っていたのに!)を大冒険の果てに見つけ、百二十三種をずらりと並べた頃には、もういっぱしの古書マニア=本棚探偵が完成してしまったというわけだ。
おかげで今では、神田や神保町に出かけるときには、喜国は必ず十万円を用意して歩くくらいになっているようだし、この世界からはもう抜け出せないのだろう。少なくとも彼を経済的苦境から救出するために、くだらねー!と言わずに彼の著書を買ってあげましょうね。ほーんとにくだらないんだけどさぁ、大好き喜国。