事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

コールド・マウンテン('03)R-15

2008-02-11 | 洋画

Coldmountain 南北戦争末期の1864年。南軍兵士としてバージニア州の戦場に送られたインマンは、ゲリラ戦に出撃を命じられた結果、瀕死の重傷を負って病院に収容される。回復を待つあいだ、彼の脳裏に浮かぶのは、3年前に離れた故郷コールドマウンテンの懐かしい情景。そして、出征前にたった一度だけ口づけをかわした恋人エイダの面影だった。

 戦場から女のために脱走する男(ジュード・ロウ)、想い出を胸に待つ女(ニコール・キッドマン)、哀しい生い立ちをはねかえす、土に生きる友人(演りすぎレニー・ゼルウィガー)……もうどこをとっても堂々たるメロドラマ。21世紀の「風と共に去りぬ」の名に恥じない風格。背景も南北戦争だしね。「イングリッシュ・ペイシェント」でクリスティン・スコット=トーマスのヘアーを露出させた監督ミンゲラは、今回もR-15指定に見合った濡れ場を用意していて、おまけに戦闘シーンも息苦しいぐらいリアル。さすが大監督。問題は、こんな過激な描写でラッピングしながらも、中心となるストーリーは「たった一度のキスの想い出を糧に生きてゆく男と女」こんな大嘘を観客に納得させられるか。しかしこれがなんと成功してました。アクロバットがきれいに決まったのは、とにかく主演の二人が“ひたすら美男美女”だからだろう。

 特にジュード・ロウ。髭を生やそうが泣き言をたれようがメチャメチャにいい男である。完璧な美男。このロウもキッドマンにしても、私生活では近頃ごたついているけれど、スクリーンの上ではちゃんとウブな二人に見えるところがおそろしい。え?ルックスがよければ何でも許されるのかって?当たり前じゃないですか。映画って、まさしくそんな媒体なんだから。

……さて、もう観たという人にここで問題です。脱走の途中、ロウは未亡人のナタリー・ポートマンの家に泊まるわけですが、二人で過ごした一夜でどれだけのことが行われたでしょう。やっちゃったに違いないというわたしに友人は「このゲス野郎!寝たわけないだろ!」と強硬に主張。しかし、この場合彼女と何事かがあった方が、味のある映画だと思うんだけどなあ……。

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マイベスト2007~読書篇

2008-02-11 | 本と雑誌

映画篇はこちら。Azumi01

 07年に読んだ本は127冊。これまたいっきに減少した。だいたい芋焼酎を飲んでから本を読もうって根性がまず間違ってますが。
 ではジャンル別にベストを。

【ミステリ】
「隠蔽捜査」今野敏著
……「警官の血」(佐々木譲)「ゴールデンスランバー」(伊坂幸太郎)の、どれがベストでも文句はない。ほぼ1/3が警察小説だったわたしの2007年を象徴しているような結果かな。なにしろ去年一年だけで今野の「残照」「陽炎」「硝子の殺人者」「警視庁神南署」「果断」「レッド」「半夏生」「虚構の殺人者」「白夜街道」「二重標的」「曙光の街」「ICON」「リオ」これだけ読んでいるのだし。とりあえず、自分への宿題にしていた警察小説を読破しよう、ってのはかなり達成。ちょっとお腹いっぱい。先月、身体中が痛かったのに伊坂幸太郎だけは読み返せるという彼のリーダビリティもすごいんで、「ゴールデンスランバー」とはかなり迷った。

【非ミステリ】
「星新一 1001話をつくった人」最相葉月著
……かなり暗い話ではある。クールで、洒脱なショートショートを作りつづけた星新一の、実は屈託の多い人生。後継者が結局うまれなかったワン・アンド・オンリーであることは、偉業として評価されても、星にとって最大の痛恨事だったのではないだろうか。再評価の引き金になったことも含めて、最相の仕事はすばらしかったと思う。「絶対音感」も読ませるのでぜひ。
Shelovesyou  次点は「しゃべれどもしゃべれども」(佐藤多佳子……「一瞬の風になれ」を読んでないのでおそるおそる)「作家の値段」(出久根達郎)「シーラブズユー 東京バンドワゴン2」(小路幸也)あたりかな。「中原の虹」(浅田次郎)を完読していたら、いっきにベストにもっていったかもしれない。それにしても東京バンドワゴンシリーズの装幀は素敵だなあ。

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マイベスト2007~映画篇

2008-02-11 | 映画

Soredemo01  2007年は映画館で33本、DVDで113本しか観ることができなかった。特に平日にほとんど映画を観ることがなくなったのは、とりあえずウチ飲みしちゃえ、という不健康な生活が復活したからだと思う。芋焼酎をなめながら、「この1冊」のバックナンバーをブログにたたきこむのってわりと楽しいしね。
 さて、そんななかで選んだベストワンはこれだ。

【邦画】
「河童のクゥと夏休み」監督:原恵一
……やっぱりこれ。見終わってから、クゥの行く末を案じつつ、しかし幸せな気分が継続する。興行的には苦戦したが、多くのベストテンで健闘しているのでDVDで黒字にもっていってほしい。そうでもないと原の次作がまた五年後ってことになってしまう。
次点は「しゃべれどもしゃべれども」(平山秀幸)「天然コケッコー」(山下敦弘)「それでもボクはやってない」(周防正行)かな。邦画は豊作な年だったと思う。

【洋画】
「ボーン・アルティメイタム」監督:ポール・グリーングラス
……こんなタイプの映画がもっとつくられてほしいという願望をこめて。「カジノ・ロワイヤル」のジェイムズ・ボンドとジェイソン・ボーンという二人のJBによって、スパイ映画は違うステージにまで引き上げられた。

 次点は「グッド・シェパード」(ロバート・デ・ニーロ)「ダイ・ハード4.0」(レン・ワイズマン)かな。要するに07年はマット・デイモンの年だったのだ。

【DVD】
「松ヶ根乱射事件」監督:山下敦弘
……昨年の「リンダリンダリンダ」につづいて山下敦弘のV2。「リアリズムの宿」もよかったし、「天然コケッコー」はもちろんだ。ひょっとして天才じゃないのかマジで。

Nasu01  次点は「茄子/アンダルシアの夏」。「グッドナイト グッドラック」と「シリアナ」の合わせ技でジョージ・クルーニーが敢闘賞ってことで。

次回は読書篇

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「下山事件」その4

2008-02-11 | 本と雑誌

前号繰越。Shimoyamajikenn

 最後にふれておきたいのは、下山事件というより、この「下山事件(シモヤマ・ケース)」という本の成り立ちについて。

森は本職がTVディレクターである以上、シモヤマ・ケースはまず映像作品として企画されている。途中でTBSが「報道特集」の枠を提供することになり、森が身銭を切って取材する状況からは脱却できた。しかし、50年も前の事件の調査という性格上いつまでも番組として完成しないことにTBSは業を煮やし、契約は破棄される。ふたたび森は自分のチームだけで動かなければならなくなった。そこへ「ウチの記事にしませんか」と申し出てきたのが週刊朝日。優秀な記者がサポートについて、取材は再開。

 だが、編集部内の暗闘が森の思いをねじ曲げる。見切り発車の形でネタにされ、そしてなんと“優秀な記者”が自分の名前でこの事件のルポを上梓してしまうのだ。

 何より驚かされるのは、この事態を「よくあること」と森が恬淡と総括していることか。今回は新潮社が森に「もう一つの下山事件ルポ」を発表する機会を与えたからまだいい。しかしこの僥倖がなかったとしたら?

 おそらくは、多くの無名ライターの嘆きの上にこの国の出版界は成り立っている。そのことをまず、わたしたちは認識しておこう。

 森の弁護が続いたようだけれど、もうひとつ指摘しておきたい。一連の取材で森がとった手法は反則すれすれ、というか歴然とルール違反だ。下山事件のしの字も出さずに情報源に取り入ることはもちろん、「主観的事実」という便利なことばで裏をとりきれていない部分まで露わにしてしまっている。(これは後に特集する「職業欄はエスパー」にも通じる)

 こんなことも、「よくあること」なんだろうか。オウム取材では圧倒的に有効だったこの手法が、反撃の機会をもたない無名の個人に向かうとき、ジャーナリストは、はっきりと『民衆の敵』になるだろうに。

※週刊朝日の記者だけでなく、“孫”もなぜか自発的に下山事件について語った作品を発表している。事件の闇は、現代人をまきこみながら、なお深い。

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「下山事件」その3

2008-02-11 | 本と雑誌

前号繰越Shimoyamacase02

森が到達した結論はこうだ。CIAの日本人協力者たちが中心となって、下山総裁の替え玉を用意までして拉致監禁を行い、血を抜いたり蹴り上げたりして死に至らしめ、死体を線路上に置いたと。では何のために

 松本清張をはじめとした数々の下山病罹患者の考察にあるように、これを共産主義者の策謀と印象づけることで、当時強くなりつつあった左翼勢力の力を削いだのではないかというのだ。

 謀略史観、という言葉がある。世の中は権力者の陰謀に充ち満ちていて、歴史はその陰謀によって動いているという歴史観だ。森のこの書もそんな傾向があるし、眉に唾をつけながら読み進めなければならない、と自戒しながら読んでいた。そのことでわたしは一つどうしても無視できない疑問がわき上がってきたのだ。それは
「なぜ、殺されるのがやっとこさ国鉄総裁に就任したばかりの下山でなければならなかったのか
である。効果的なのはわかる。当時国鉄を舞台に労働運動が勃興し、数々の事件が起こっていたわけだから標的としては申し分ない。でも、この総裁が左翼的傾向があるのならともかく、技術屋出身で、首切りに懊悩する、いわば普通の人物をなぜ?

194907050001_sadanori  わたしはだからこう思う。たとえ自殺であったとしても、その処理の過程でなんらかの操作を行い(警視庁、報道機関への圧力とか)、これ幸いと左翼勢力へのカウンターにしたのではないかと。三鷹事件、松川事件についてはそのかぎりではないけれど、下山事件は謀殺とするにはちょっと面白すぎないだろうか。

 いずれにしろ、この事件を境に、日本の左翼は勢いを失い「怖い存在」というイメージが国民に植え付けられた。以降日本はアメリカ追従の姿勢を露わにし、朝鮮戦争特需、安保条約によって高度成長に突き進んでゆくことになる。まさしく戦後の分岐点だったのだ。この事件の陰に、うっすらと佐藤栄作の意向が見えてくるあたり、ゾクゾクするほど面白くはあるのだが、これは謀略史観として片づけられはしない部分だろうか。

あ、もう1回この本については語りたい部分がある。以下次号

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「下山事件」その2

2008-02-11 | 本と雑誌

Simoyama02 前号繰越

昭和24年(1949)7月5日朝、国鉄の下山定則氏が日本橋の三越本店から突然姿を消して大騒ぎになりました。その夜0時20分ころ、常磐線下り最終列車が足立区の東武電鉄との交叉点付近に差し掛かった時、近くに轢死体が転がっているのを運転手が発見します。遺体は下山氏と判明しますが、これが他殺なのか自殺なのか結局分からずじまいになりました。これを下山事件といいます。
当時国鉄は吉田内閣の指導の下、大量の人員整理を断行していた最中で色々な憶測が飛び交う中、捜査はまったく進展せず、迷宮入りになります。この事件の真相はいまだもって不明です。
この年国鉄がらみでは更に8月17日、松川事件が発生。松川駅で列車が転覆して3人の死者が出ています。この事件は当時共産党の陰謀だとされましたが、裁判の結果被告全員の無罪が確定しています。とにかくこの時代不可解な事件が続きました。

 森が会ったのは、事件に関与した(要するに殺害した)と予想される三越のすぐ近くにあった会社関係者の孫。アウトドア関係のライターをやっている「」。そっち方面が好きな人なら、名前をきいたこともあるかもしれない。「彼」経由で、当時その会社で働いていた大叔母の話を聞くうちに……

 この事件の背景にあるものは
A)GHQ内部の、ニューディーラーと呼ばれる日本国憲法を現在の形にしたリベラル派と、共産勢力の急伸に懸念を抱いた保守派の確執
B)アメリカの意を受けた(つまりCIAの手先になった)当時数千名もいたといわれる“日本人協力者”の存在
C)自殺か他殺かはともかく、この事件を共産主義者の仕業とすることで得をする層の意向
……などであり、森の追跡によって次第にこの事件の詳細が見えてくる。
しかし。
以下次号

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「下山事件」Shimoyama Case 森達也著 新潮文庫

2008-02-11 | 本と雑誌

Shimoyamacase01 三鷹事件松川事件と並んで終戦直後の謎の大事件に挙げられる下山事件。1949年7月、常磐線の線路で轢(れき)死体で発見された下山定則・初代国鉄総裁の死をめぐっては、「謀略説」「自殺説」があり、真相は今なお闇の中である。複雑怪奇なこの事件は取材する者を引き込み、「下山病」に感染させるとまでいわれる。
 テレビディレクターの著者もその一人。事件から約半世紀たった94年、「身内が下山事件に関ったという人物」を知り、事件にのめりこむ。本書は、取材の過程をつぶさに書くという手法で、事件の通説を洗いなおし、真相に迫ろうとしたノンフィクション。

 「放送禁止歌」「A」に続いて、またしても森達也。別に荷担しているつもりはないのだけれど、彼の仕事はどうしても無視できない。森が、オウムの後に戦後史におけるダークな部分を探っていることには「また金にならないことを」と呆れていたが、なんとこの本は現在ノンフィクション部門でベストセラー第1位である。人生最初の大当たりか。ちょっとホッとする。

 事件のことは名前ぐらいはきいたことがあるでしょう。現代史は学校ではなかなかふれることもなく(わたしは日本史自体を高校で履修していないし)、熱心な教師が熱弁をふるったとしても、この事件の闇の深さは高校生の手に負えるものではなさそうだ。驚きなのは現在もなお自殺か他殺かの結論が“本気で”出ていないということ。当時でいえば読売と朝日が他殺説をとり、毎日が自殺を主張したのだが、これが現在もまだ続いているのである。いやそれどころか、ネット上で下山事件を検索してみると、んもう気が遠くなるぐらいの件数がヒットし、しかもそれぞれがこの事件について様々な主張を行っている。森の言う“下山病”に罹った人たちであろう。

Moritatsuya01  森がこの事件を50年もたってから探ろうという話になったのは、「ちょっと面白い男を紹介したいんやけど、時間を作ってもらえないか?」と、事件に関わりのある人物の孫に紹介されたからである。紹介したのはまだ毒舌で知られる前の映画監督井筒和幸だった。

以下次号

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