事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「下山事件」その3

2008-02-11 | 本と雑誌

前号繰越Shimoyamacase02

森が到達した結論はこうだ。CIAの日本人協力者たちが中心となって、下山総裁の替え玉を用意までして拉致監禁を行い、血を抜いたり蹴り上げたりして死に至らしめ、死体を線路上に置いたと。では何のために

 松本清張をはじめとした数々の下山病罹患者の考察にあるように、これを共産主義者の策謀と印象づけることで、当時強くなりつつあった左翼勢力の力を削いだのではないかというのだ。

 謀略史観、という言葉がある。世の中は権力者の陰謀に充ち満ちていて、歴史はその陰謀によって動いているという歴史観だ。森のこの書もそんな傾向があるし、眉に唾をつけながら読み進めなければならない、と自戒しながら読んでいた。そのことでわたしは一つどうしても無視できない疑問がわき上がってきたのだ。それは
「なぜ、殺されるのがやっとこさ国鉄総裁に就任したばかりの下山でなければならなかったのか
である。効果的なのはわかる。当時国鉄を舞台に労働運動が勃興し、数々の事件が起こっていたわけだから標的としては申し分ない。でも、この総裁が左翼的傾向があるのならともかく、技術屋出身で、首切りに懊悩する、いわば普通の人物をなぜ?

194907050001_sadanori  わたしはだからこう思う。たとえ自殺であったとしても、その処理の過程でなんらかの操作を行い(警視庁、報道機関への圧力とか)、これ幸いと左翼勢力へのカウンターにしたのではないかと。三鷹事件、松川事件についてはそのかぎりではないけれど、下山事件は謀殺とするにはちょっと面白すぎないだろうか。

 いずれにしろ、この事件を境に、日本の左翼は勢いを失い「怖い存在」というイメージが国民に植え付けられた。以降日本はアメリカ追従の姿勢を露わにし、朝鮮戦争特需、安保条約によって高度成長に突き進んでゆくことになる。まさしく戦後の分岐点だったのだ。この事件の陰に、うっすらと佐藤栄作の意向が見えてくるあたり、ゾクゾクするほど面白くはあるのだが、これは謀略史観として片づけられはしない部分だろうか。

あ、もう1回この本については語りたい部分がある。以下次号

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