三鷹事件、松川事件と並んで終戦直後の謎の大事件に挙げられる下山事件。1949年7月、常磐線の線路で轢(れき)死体で発見された下山定則・初代国鉄総裁の死をめぐっては、「謀略説」「自殺説」があり、真相は今なお闇の中である。複雑怪奇なこの事件は取材する者を引き込み、「下山病」に感染させるとまでいわれる。
テレビディレクターの著者もその一人。事件から約半世紀たった94年、「身内が下山事件に関ったという人物」を知り、事件にのめりこむ。本書は、取材の過程をつぶさに書くという手法で、事件の通説を洗いなおし、真相に迫ろうとしたノンフィクション。
「放送禁止歌」「A」に続いて、またしても森達也。別に荷担しているつもりはないのだけれど、彼の仕事はどうしても無視できない。森が、オウムの後に戦後史におけるダークな部分を探っていることには「また金にならないことを」と呆れていたが、なんとこの本は現在ノンフィクション部門でベストセラー第1位である。人生最初の大当たりか。ちょっとホッとする。
事件のことは名前ぐらいはきいたことがあるでしょう。現代史は学校ではなかなかふれることもなく(わたしは日本史自体を高校で履修していないし)、熱心な教師が熱弁をふるったとしても、この事件の闇の深さは高校生の手に負えるものではなさそうだ。驚きなのは現在もなお自殺か他殺かの結論が“本気で”出ていないということ。当時でいえば読売と朝日が他殺説をとり、毎日が自殺を主張したのだが、これが現在もまだ続いているのである。いやそれどころか、ネット上で下山事件を検索してみると、んもう気が遠くなるぐらいの件数がヒットし、しかもそれぞれがこの事件について様々な主張を行っている。森の言う“下山病”に罹った人たちであろう。
森がこの事件を50年もたってから探ろうという話になったのは、「ちょっと面白い男を紹介したいんやけど、時間を作ってもらえないか?」と、事件に関わりのある人物の孫に紹介されたからである。紹介したのはまだ毒舌で知られる前の映画監督井筒和幸だった。
以下次号。
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