日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

「背枕」の歌、推敲

2011年08月03日 | 日記
「揺くらか」という古語は、揺れ動く様、心が落ち着かない様、あるいはゆったりした様とも解釈されて、まさに揺れ動いているようで、現代語の語感でも、あまり収まりがよくありません。背枕、流水紋の様子がもう少し際立つよう、3句目だけ推敲してみましょう。

流れが強いときの水紋は、縄が捩れるような、蛇類が絡み合うような、皺の寄った薄膜の下でものが蠢くような、もっと切迫した印象があります。「よる」という言葉は、皺が寄る、縄を縒る・撚る、ものが揺(よ)る(=ゆる)、という三つの言葉を掛けられます。これを「文(あや、模様)」と組み合わせます。なお、4句めで已然形を使っているのは、上代によくある接続の用法で、ここでは「心が急かれて落ち着かないけれども」という逆接の意味です。


みなぎろう かわのせまくら あやよりて こころせかるれ ただまもりいる 
みなぎらふ 川の背枕 文よりて 心急かるれ ただ目守りゐる(麟伍)
(水流の多い川が、大岩の上で盛り上がって、透明な水紋が、激しくしかし静かに揺れ動いて、見ていると押し迫った気持ちになるけれども、心が落ち着かないまま、じっと見守っています)


***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
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