日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

世々の歌人との交感

2011年08月10日 | 日記
今日も森の中は、蝉の声、鳥の声、風の音、暑さと湿り気に満ちていました。つぎの歌は、「うつせみの」というありふれた言葉につづいて出てきたものですが、自分の歌というより、多くの人が作ってきたような通俗歌謡になっています。しかし、これが実感として詠み出されるということは、その歌を詠んだ人々の思いに、ぴたりと寄り添ったということになります。

うつせみの よとこそおもえ うつしみの いものこいしき やまずてしきる
空せみの 世とこそ思へ 現しみの 妹の恋しき 止まずてしきる(麟伍)
(蝉の抜け殻のような空しい世であるとは思っても、この世におられる貴女を恋しく思う気持ちは、鳴き止まぬ蝉のように、しきりに浮かんできます)

小高い森の中、鳥虫の音、草葉の揺らぎが、風に乗って降り乱れる中を歩いていると、歩みに合わせて、古語や歌の断片が、読んだことのある記憶の中から、あるいは見聞きしたこともない秘密の記憶cryptomnesiaの中から、心に浮かび上がってきて、自分でも驚くことがあります。まるで古代の歌人の言霊が、葉となって風となって、何かの音となって、降り注いでくるかのようです。

いにしえの ことたまなれや たまうたの ゆらくはかぜと ふりかかりくる
いにしへの ことたまなれや 玉歌の 揺らく羽風と ふりかゝりくる(麟伍)
(この世に現れることのなかった古代の言霊が、歌の形を取ることを求めて、葉音や鳥や虫の声となって風に乗り、歩く私の全身に降り注いでくるかのようです)



***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
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