自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

虫の目レンズを手に野へ(13)

2013-11-25 | 昆虫

撮影した写真をそのまま没にするのが勿体ない風景がいくつかあります。季節外れを承知で,今後すこしずつご紹介していきます。「こんな時期に,こんな写真かあ」なんておっしゃらないで,「ふうん,そんな場面がその時期にあったんだあ」とでもお感じいただければうれしいです。

虫の目レンズは被写体を鮮明に写せなくても,ほどほどに写し撮れ,さらに環境を環境を適度に取り込めるおもしろさがあります。このレンズにぞっこん惚れ込んでいる方が結構あるようです。わたしもまた,その一人です。

虫の目レンズという名からすると,昆虫にも環境が人間のように見えているように思いがちですが,じつはそのようにはまるで見えていません。目の構造を見ると,光を集めるレンズはないし,像を結ぶ網膜もありません。無数の個眼で,光の動きを感知して,外界を認識しているのです。それは人間が使うことば“環境”と呼ぶほどのものではないという意味で,環世界と呼ばれています。

さらには,昆虫によってはわたしたちが認識できる色彩どおりに見えているわけではありません。チョウの見え方などは人間とは相当にかけ離れていて,どんなに科学が発達しようが,チョウの目になって外界を見てみるなんてことは不可能なのです。

さて,写真の説明に移りましょう。

晴れ渡った秋空のもと,堤防を歩いていると足元かたバッタが盛んに飛び立ちました。わたしを,環世界の動く対象と認識してのことです。危険だと察知したはず。いくら慎重に近づいても,敏感過ぎるほどの感知力を発揮しました。

偶然,オスとメスが一対になったバッタをとらえたのが下写真です。仲の良さが伝わってきます。このときに使ったレンズは筒鏡が細長いので,たまたまこんなふうにうまく撮れたのです。 

 

でも,ほんとうはもっともっと近づいて撮影しなくては映像としてはおもしろみに欠けます。できれば,被写体とレンズの距離を2,3cmぐらいにまで縮めたいのですが。

 


ジャガイモの種子,予備的発芽実験の試み(それで)

2013-11-24 | ジャガイモ

11月23日(土)。この日の様子は以下のとおりです。なお,霜が葉を直撃するとジャガイモが枯れるので,霜よけのつもりで温室に入れています。

植木鉢のその後です。密生しているために,どんどん葉が詰まってきた感じです。「ジャガイモのふるさとアンデスでは,こんな具合になっているのでは?」と想像が広がります。現地の様子を思い浮かべてみましょう。実が落ちて,芽生えたものがその後動かない環境だと,もっともっと茂っているのではないでしょうか。なにしろ,一つの実に数百個の種子が詰まっているのですから。密生した結果,仲間同士の間でも光とり競争が壮絶なかたちで行われているに違いありません。

 

ただ実際は,種子は落ちた根元で芽を出すだけでなく,たぶん,雨が降って,種子や芽生え,はたまた塊茎が流され,流されていった先で土が被さり,というふうにして分布が適当に拡がっているのでしょう。

そんなことを思いながら,密生した葉を掻き分けてみると,なんと地表に出たストロンの先にイモが! 葉が光を遮り,地中と同じ環境をつくった結果,できたものでしょう。色が赤みを帯びていることからも光のかすかな影響を感じとることができます。 

 

ポットに移植した苗はどうでしょうか。

芽生え第一号です。茎の長さはおよそ15cmになっています。

 

本葉の出ている脇に,ごく小さな塊茎が形成されつつあります。腋芽の先が地面に触れたら,腋芽自体に養分が貯えられるように,保険がかけられているとみていいでしょう。あちこちに塊茎をつくれば,より確実に子孫が残せるはずです。 

 

茎が横に倒れていることが功を奏して,あちこちに塊茎(あるいは塊茎もどき)が でき始めたと思われます。これらに土をかけて地中に埋めれば,たぶんりっぱなかたちをした塊茎に成長することでしょう。

 

第二号はどうでしょうか。地中から飛び出したかたちのストロンは,先がほとんど膨らまず,葉が生えてきています。右端の葉は,ストロン先が地中に入れなかったために葉が大きくなったものです。また,地中部分にあるストロン先では塊茎が太っていると思われます。

 

秋が深まるにつれて,結果がはっきり出てきました。  

 


ヒラタアブの幼虫

2013-11-23 | 昆虫

夜のキクを訪れた昆虫を確認している際,思いがけない幼虫と対面できました。ヒラタアブのそれです。このキクで見たのは二度目。 

 

どちらが頭か,どちらが肛門か,定かでないようなかたちをしています。 かたちがなんともふしぎな風で,「こりゃ,いったい何者じゃわい」と思わせる格好なのです。

 

体長8mm。からだのあちこちには突起が目立ちます。頭は尖り気味。肛門側には,赤茶色っぽい玉のようなものが二つ付いています。

幼虫のお目当ては餌。餌はアブラムシ。キクにはアブラムシがたくさんいますから,棲み心地はいいはずです。

 

せっかくなので,アブラムシを与えながら飼育観察をしようと思います。できれば,今冬,蛹になるまでを追って,来春羽化するのを見届けたいのですが……。

 


ブナ帯の森林更新(後)

2013-11-23 | 随想

ブナは,枯れなくても,コケ類に生き延びる場所を提供します。コケ類が勝手に居心地がよいので,侵入してきているに過ぎませんが。こういう場所は光が少しは入って,適当に湿り気があって,空気の流れも程々にあります。実際,写真を見ると光がわずかに差し込んでいます。コケにすれば,他の植物がいない環境として最適地なのかもしれません。 

 

剥き出しになった根を見ると,コケが数種類びっしりと付いている箇所がありました。コケは生き生きしているように見えます。 根元が乾燥しにくいので,ブナも少しは歓迎しているでしょう。

 

登山道沿いに積もった火山礫の間から,ブナの芽生えが何本も。ブナの木があれば,下は種だらけです。何千個の種が落ちても,そのうち1,2本が順調に育てばブナは現状維持になります。それが毎年繰り返されるので,ブナの一生のうち,たった1,2本が後継者になれば子孫は維持できることになります。 

 

 

ブナが倒れ,森に穴が開いたようにすっぽり開けた空間がありました。そこにも後継者が芽生えていることでしょう。 

 

 

この風景は,今はガラッと変わって紅葉の真っ盛りを過ぎているでしょう。ブナたちは厳しい冬に備えた準備を終えているはずです。

 


残ったキゴシハナアブ

2013-11-22 | 昆虫

夕方,キクの花を見ると,キゴシハナアブが一匹残されてじっとしていました。気温が下がって,動けなくなったのではないでしょうか。

撮影にはもってこいの場面です。それで,花を切り取って家の中で写真に撮ることにしました。ありがたいことに,アブはほとんど動こうとしませんでした。

真上から撮りました。頭部は複眼で覆われたといった感じです。オスです。複眼の間に,単眼が見えます。

 

やや角度を変えて撮りました。   

 

吸蜜に夢中になっているうちに,気温が下がって身動きがとれなくなったのかもしれません。口器が出ているようには見えません。 

 

ぐっと近づいて撮りました。単眼がはっきり確認できます。複眼が感覚器官として極めて重要な様子がうかがえます。 

 

口器辺りを確認したくて,さらに角度を変えました。それでも,吸蜜している様子ではありません。

 

頭部をトリミングしてみました。トリミングはわたしの好みではありませんが, これも生態を知る手段なので止むを得ません。個眼がじつに規則正しく並んでいます。数千個はあるのではないでしょうか。

 

撮影中,かすかに動きましたが,終始協力的でした。

 


ブナ帯の森林更新(中)

2013-11-22 | 随想

登山道の脇にはブナの大木が林立しています。 左右の森林は所狭しとばかりにブナが占有し,光を求めて伸びていっています。まことに高い梢!

 

夏の暑さの中で,水分をどっさり吸い上げて蒸散させ,冬の風雪に耐えて凛と立ち続けます。この繰り返しが年輪の一つひとつに刻まれると思うと,なんと厳かなことかと感嘆してしまいます。 

ブナの背を頼りに,蔦類が光を得たくてよじ登っています。ブナはちゃんとからだを貸します。枝が傷つけられたり,幹が締め付けられたりしない限り,気持ちよく許しているかのようです。梢近くの枝に,ヤドリギが育っています。鳥が訪れた証拠です。天然林のやさしさが伝わってきます。 

 

厳しい環境を生き抜いたブナにも,いのち果てるときが訪れます。幹の途中からからだを失ったまま立つ姿がありました。強風やら豪雪やら,豪雨やらの力に抗し切れなかったのでしょうか。樹皮がボロボロになっています。ボロボロになりながらも,昆虫や小動物に棲みかを提供します。蔦類の支柱にもなります。 

 

中には,完全にポール状になったものも。 青空に向かって立つ姿は,威風堂々としたものです。穴が無数に開いて,コケ類が生えています。キツツキ類が餌を求めて盛んにやって来た時代があったのでしょうか。

 

枯れゆく幹に,キノコが密生していました。それぞれの植物は,子孫を残す環境があるとみればわずかな空間でも入り込みます。 

 

 

登山道から,森林更新が進行している姿がいくらでも確認できます。ゆっくりゆっくり登る味わいが,こんなところにもあります。 

 


ツマグロキンバエのこと

2013-11-21 | 昆虫

庭の白菊でいちばん目立つ昆虫は,なんといってもツマグロキンバエです。わんさといます。縞模様のある複眼を一度見れば,もう忘れられないでしょう。よく見ると,個眼が観察できます。それがこの昆虫の特性でしょうか。

下写真はオスです。複眼が頭をすっぽり覆うように配置されていて,左右がくっ付いています。そして,その間に単眼が三つ見えます。眼でしっかり見て,触覚で大好物のありかを匂って,ひたすら舐めとります。 

 

時には,脚をからだをきれいにする道具に使ったり。 

 

慎重に写せば,ちっとも警戒心が現れません。口から液体を出して,口吻やら脚やらを清潔にしている姿も見えました。液体は光を反射して青く写っています。 

 

メスはオスよりからだが一回り小さな感じです。複眼が離れているので,メスとはっきりわかります。

じっと見ていると,同じ花の上をじつに丹念に動いて食餌行動に熱中していました。あるとき,口から水滴が出てきたのには,すっかり驚きました。その水滴が丸くなって,今にも落ちそうになりましたが,また口内に戻っていきました。 

 

そうそう,もう一つ驚いたことがありました。『ハナバエのからだ』 (11月18日付け記事)中のおしまいの写真に写っている,肛門からの排泄物をツマグロキンバエもそっくり同じに出したのです。それも数回。その一滴が,上写真に写っています。前脚の先近くに,透明感のある水滴がそれです。本記事の二枚目の写真にも,二滴写っているのがおわかりかと思います。

観察は簡単に済ませないことです。じっくり見つめることが肝要かと思われます。 

 


ジャガイモの真正種子と,その周辺の話(1)

2013-11-21 | 随想

わたしが試みているジャガイモ種子の発芽実験のことで,こんな話をしてくださった方があります。

「それは確かにおもしろい試みですが,ジャガイモのでき方についてまったく知らない人が多いのではないでしょうか。都会育ちで,野菜作りに縁遠い人なら,とくにそういう傾向が強いと思います。そうした人がこの記事を読んでもピンと来ないかも,ですよ。」

そういえば,直接見聞きしたことがなければ,わからないのは当然だなと思い浮かぶ節があります。子どもにニワトリやアリの絵を描かせ何本の足を描くか見てみる,おとなでも子どもでもよいのでパイナップルの生っている風景を想像して絵に描いてもらう(下写真は知人Eさんが石垣島で撮影),ニワトリの卵が生産される風景を想像して話してもらう,スイカやトマトが生っている様子を想像してもらう,……,そういう試みをすると結果はじつにおもしろいものになります。

 

あるとき,小学5年生を対象にしてパイナップルの生っている想像図を描いてもらったことがあります。ほんとうにびっくりするほどユニークなものが続々登場しました。木の枝からたわわに実った実がぶら下がっている,蔓が伸びてあちこちに実が付いているなんていう想像図も出てきました。とても印象深かったので,その結果をある雑誌に寄稿したことがあるほどです。

またあるとき,一人の女性校長がこんな話をしてくださいました。「担任をしているときでした。野菜を栽培したことがなかったので,カボチャが蔓にできるなんて想像もしていなかった。てっきり,木の実のようにぶら下がってできると思っていた。教える者として,いろんな経験を重ねていないと恥ずかしいですねえ」と,つくづく。

子どもも,おとなも,学ぶ機会,思い込みを修正する機会がなければ,あいまいなままの知識を持ち続けるほかありません。ですから,そもそもジャガイモのでき方について知らない,あるいは関心がない人に,わたしがいくらジャガイモの花やら種子やらについて,また花と実のつながりについて伝えようとしても理解が進まなくったって,それはそれで止むを得ないのかもしれません。人はそれぞれに自分の関心にもとづいて生きているわけですから。

そう割り切ったとしても,ジャガイモは人類の食糧としてとても重要なもののひとつです。それで,種のことも含め,今よりすこしは関心を向けていただければ,わたしとしてはうれしいですね。それに「知るはたのしみなり」というぐらいですから。「アッ,ソウカ!」「ソウダッタノカ!」という程度であれ,知を得るのはいいことでもあります。

というわけで,数回にわたってジャガイモの種子のことや,それにまつわる周辺話について書いてみようと思います。

 


キンケハラナガツチバチのからだ

2013-11-20 | 昆虫と花

白菊を観察していると,キンケハラナガツチバチがやって来ました。花にとまると,ゆっくり吸蜜をしていました。一つの花を,時間をかけて,という感じです。それが終わると,歩いて隣りの花に移って行きました。

そこに来ていた小型のハチが,慌てて逃げてしまいました。それもそのはず,からだを覆った毛やら棘やらを見せられたら,わたしだってもうたまりません。逃げてしまったハチもきっと,そう思ったことでしょう。触覚が短めなので,メスです。 

 

ここまで毛で武装しなくてもいいのに,と思うのはわたしだけでしょうか。

 

もっと大写しをしようと思って,近づきました。腹眼に並んだ個眼も見えます。触覚の根元にも毛,脚にも鋭い毛・棘が見えます。

 

「よし,脚だけを大写ししてみよう」と思って写すと,こんなスゴイ,迫力ある光景が見えてきました。

 

今度は,前脚と触覚を写そうと思いました。触覚が短いのはメスの印です。

 

腹を見ました。あるリズムをもって動いているので,もしかすると糞をするのかもしれないと思って見ていましたが,そうではありませんでした。動きはずっと続きました。糞の代わりに,肛門付近から二本の突起が出てきました。産卵器官と関係あるのかもしれませんが,専門的なことはわかりません。それがなにで,なにゆえに出てきたのか,気になりました。

 

 

調べてみると,土の中に巣を作り,幼虫はコガネムシ類の幼虫やネキリムシを食べるとか。ということは益虫ということになります。攻撃性は極めて低いとも。また,越冬態は幼虫で,メスだけは成虫で越冬するらしいのです。きっと種族を維持する上で有利な理由があるのでしょう。

今回のように時間をかけて撮影できれば,観察できたという実感が伴ないます。キンケハラナガツチバチについての情報とつないで生態を想像すると,一層興味が湧いてきます。被写体キンケハラナガツチバチに感謝。

 


篠田プラズマ,続き話

2013-11-20 | 随想

今日(11月20日),朝刊経済面のトップ記事は篠田プラズマについてのものでした。先月の本グログ記事で取り上げた続き話にあたる内容で,事業停止に追い込まれたというもの。まことに悲しい推移です。

見出しは「篠田プラズマ 事業停止」「負債10億円 研究開発費重く」。

停止によって,「約30人の全従業員を解雇」したといいます。会長兼社長の篠田傅さんの談は次のものです。「量産に向けた資金が確保できなかった。技術は評価されており,これからという時に残念。従業員に申し訳ない」。

 

背景には,激しい国際競争の展開があるでしょう。いくら大志を抱いて技術開発を続けても,小さな企業は巨大企業の比ではないという現実。ハイレベルの技術を持っていても,時の流れに押し流されてしまうという現実。巨大企業が10億円の負債を抱えたから事業停止なんてことはありえない話です。

すぐれた技術を持っていても,相当量の,その分野における核心的な技術であって,その基本部分が自社の特許技術として登録されていないことには,早晩他の追随を許すことになります。

今回のニュースをとおして,競争社会でベンチャー企業が生き残ることは至難な現実がひしひし伝わってきます。社是は社是として価値がなんら干乾びるものではありませんが,開発に携わってこられた従業員のこころを思うと,とても複雑な気持ちになります。篠田さんのことば「技術は評価されており,これからという時に残念。従業員に申し訳ない」がすべてです。

(注)写真は本文とは関係ありません。我が家のスダチの実り風景です。