せっかくなので,イチジクの話をしましょう。せっかくというのは,我が家のミニ果樹園でイチジクが育っていて,今年初めて実が実ったからです。今も,名残りのような感じで実が付いています。
イチジクはよく知られているように,漢字で“無花果”という文字を充てます。実を見ても花が咲いているように見えない果物という意味です。実際,外からは花がまったく見えないふしぎな実(花嚢)です。そうかといって,割って観察しても花らしい花は存在していません。実を縦に割ると,花嚢の内側に細長い器官びっしり密生しています。この一つひとつが花であり,イチジクの花嚢には小花がぎっしり詰まっているのです。
しかし,イチジクの花はことばほどに単純なしくみではありません。花嚢の先にぽっかりと“目”と呼ばれている穴が開いていますが,この目の直近にはオバナが,それ以外にはメバナが密集しているわけです。つまり,雌雄異花でありながら,同一花嚢内に存在するという変わり種なのです。メバナの先にある花糸が所狭しと並んでいます。
花嚢の内部を覗いてましょう。メバナがなんと行儀よく並んでいることでしょうか。子房と花柱が林立して,踊っているようにさえ見えます。
やや時間が経った花嚢を見ると,花柱の先が褐色を呈しています。まだ役目を終えたようには見えません。
別の花嚢を見ると,こんなに赤っぽい色をしたメバナがありました。種子になる前の胚珠が褐色をしています。ぎゅうぎゅうに詰め込まれている様子が印象的です。
先端付近を見てみましょう。オバナが見えます。先は丸くなっています。中に,葯が収納されているのです。メバナの数と比べると,雲泥の差です。
これが熟した後と比べてみましょう。イチジクは虫媒花なので,目から昆虫が出入りしたことが一目瞭然です。狭い目から入る昆虫はどんなものかと想像してしまいます。おまけに,目の構造を見ると,一旦入るとなんだか出にくいように見えます。訪花昆虫には簡単には出ていってほしくないというメッセージなのでしょうか。鱗片が爪のように並んでいて,怖そう!
オバナをよくよく見ると,丸みを帯びた花被片の傍に黄色い葯がいくつか確認できます。