草はなんでも紙になります。からだを構成する植物繊維がある限り,それを上手に取り出しさえすれば紙にできるのです。取り出した繊維をからめて乾かしさえすればよいのですから。
そうはいうものの,繊維といっても草によって特性が様々です。直立形,匍匐形,蔓形,……とからだのかたちが多様ですから,植物の生活形に沿って繊維の特性を考慮しなくてはなりません。一概に「なんでも紙になる」といっても,繊維の強度や長さに違いがあるため,実際には扱う植物によって留意する点が異なってきます。
さて,スイカ紙の話題を取り上げましょう。
勤務している施設で,野草紙を作る試みをすこしだけしています。その一環で,親子二組が夏休みの自由研究でスイカ紙を作りたいという話になりました。スイカを材料にして紙を作るのですが,スイカの茎,すなわち蔓なら簡単です。しかし,この場合のスイカ紙は実の外皮付近が材料なのです。中身を食べ,食べたあと捨てる部分です。
そんなところに繊維があるのかと問われると,自信をもって答えることはできません。繊維らしい繊維は見当たりません。それでも,繊維もどきの成分なら素人のわたしにだって抽出できます。その“もどき”のくわしい正体はわからないのですが,要するにそれから紙が作れるのです。ここでは,その“もどき”を植物繊維と呼んでおきます。
できる紙は,パラフィン紙のような透明感のあるものです。とてもふしぎな感じが漂う紙です。
これまで何人かの方にスイカ紙作りの手ほどきをしてきましたが,皆さんには好評でした。「すてきな紙ができました!」と,感想をいただきました。
今回のスイカ紙作りは,親子が家庭でチャレンジするという前提で,あらかじめわたしが漉き枠(メッシュ付き。ベニア板でも可)でスイカ紙を乾かしておき,それを見本紙としてお見せするという筋書に沿ったものです。
以下手順を再現しておきますので,よろしければ興味を持たれた方はチャレンジしてみてください。紙の大きさは葉書サイズと考えてください。ではどうぞ。
① 材料を洗ってから,表皮をむいて捨てる。
量はスイカ普通サイズ1個分使用。むく部分の厚みは自由。緑のすじが残っていれば,紙にそれが漉き込まれます。「これがあのすじだ!」とわかります。
② 適当に小さく切って,煮る。
炭酸水素ナトリウム(重曹)を大さじ3杯ぐらい入れる。はじめに小さな片にしておくほうが早く処理できる。煮熟時間は30分程度。重曹の入れ過ぎ,煮過ぎは,繊維を弱くしたり痛めたりする原因になる。
③ 手揉みしてドロドロ状態にする。
ふるいのなかで手揉みする。ミキサーを使用する必要はない。
④ 材料を水洗いする
とにかくきれいにする。重曹をすべて洗い流す気持ちで。
⑤ 水で溶いて漉く
取り出した植物繊維(紙料)を水に溶いて,漉き枠(あるいはベニア板)に流し込む。漉き終わったときの湿紙の厚みは5mm程度。
⑥ 水切りをする
木枠を外して水切りをする。湿紙を斜めに立てかけておいて,水が流れ落ちるようにする。相当量が流れたら,乾燥板を180度回転させ,反対から流れ落ちるようにする。これは湿紙全体の湿り気が均一になるようにするためである。
⑦ 乾燥する
はじめは直射日光に当てて一気に乾かし,乾きが進むと風通しのよい日陰に置く。乾燥とは水分が減少することであり,減少とともに紙本体が収縮することを意味する。激しい乾燥は本体を一気に著しく収縮させるので,ひび割れたり剥がれたりする原因になる。今の時期なら2日もあれば乾燥できる。
⑧ はがす
カッターナイフを使って,周辺から慎重にはがしていく。ここで破れたら,これまでの苦労が水の泡。もとの赤や緑があちこちに残る独特の風合いが広がった紙ができあがる。手揉みの工程でミキサーを使っていたら,完全な混色になる。
このように,2日で紙が完成します。見本紙を見て,親子できっと驚かれるでしょう。「ほんとうに,これがスイカ紙?」と,仰天されるのではないでしょうか。