金沢のまちはわたしの好きなところです。地方都市でありながら,清潔感と落ち着いた趣きが漂っているように見えます。それで,何度も何度も訪れるというわけにはいきませんが,機会を見つけては行ってみたいと密かに思っているところなのです。
史跡もお気に入りなのですが,新しいものとしては金沢21世紀美術館も大いに気に入っています。建物のデザインに込められた理念が,ふつうの美術館とはまったく異なっています。そこがスゴイのです。
もちろん,今回の旅でもリピーターとして訪れました。特別展はやっていませんでしたが,ミュージアム・ショップで思いがけない出会いがありました。
ちょうど期間限定で,鈴木康広さんのしごとを紹介するコーナーがありました。 それまでわたしは,鈴木さんについてはまったく知りませんでした。展示作品を見ていると,鈴木さんって何と頭の軟らかい方なのだろうと心底感心してしまいました。発想がふつうとは悉く違っています。その発想なり着眼なりを,思いついたときに真っ白いノートに書き込んでいかれるのだそうです。それも,1ページから順序よく埋めるのではなく,パッと開いたページに自由に記していくという手法で。
そのノートが山のように展示されていました。
作品の一つである方位磁針も意外な発想から生まれたものです。磁化したステンレス製の小さな日本列島を水に浮かべ,ほんものの列島と同じ位置関係に静止するようにできています。その上に自分が乗っていると想定すれば,日本各地の方位が一目でわかります。
じっと見ているうちに,オーストラリアの逆さ地図が浮かんできました。いつも見る世界地図の南北が入れ替わった,あの有名な地図です。鈴木さんの日本列島磁針がそれと重なってきて,何だか,「あなたの頭をもっと軟らかくしなさいよ」と語りかけてくる気がしたのです。そのうちに,後ろからわたしにこう話しかける声がしました。
「この磁石,おもしろいでしょう。お客様がとても関心を持って見ていらっしゃるので,ついつい声を掛けさせていただきました。お目にかかれて幸せです」
振り返ると,ショップ販売担当の若い女性Tさんでした。これがきっかけになって話が弾み,鈴木さんのことについてたくさんのことを教えていただくことになりました。とりわけ,大小のジッパーボートのこと,地球儀の表面を切り開いてそこにファスナーを取り付けて巨大ボートが進んでいく様をイメージした作品は圧巻でした。想像力と創造力を併せ持つ鈴木さんは,Tさんからは,あそび心に富んだずいぶん子どもっぽい方にみえるそうです。納得!
Tさんが声を掛けてくださらなかったら,このスゴイ事実との出合いはなかったでしょう。もちろん,Tさんは清楚ですてきな金沢の女性とみました。そのひとときに感謝。
家に帰って,鈴木さんのことをネット検索で調べてまたびっくり。大した方です。これからのご活躍に注目しておこうと思っています。