hiroshi hara: saxophoniste

日々の思考の断片

本選の感想1

2008-11-24 12:37:49 | sax_管打楽器コンクール
管打コン本選での五名の演奏の批評、もしくは個人的感想を記しておきたいと思う。

以下演奏順。

田中拓也さん
若々しくいきいきとして、また表情豊かに歌う姿勢が前面に出た演奏だった。
色々な表現が湧き水のように「溢れ出る」といった感じでもあった。
シビアな耳で聴けば、もう少し細部までの心配りが欲しいと思ったが、それも若さゆえの勢いから来ているのかもしれない。
彼が大賞演奏会後のレセプションで話していたが、一次予選での演奏直前、控え室で楽器を落とすというアクシデントに見舞われたそうだが、細かなことにとらわれず、そうしたアクシデントに対しても負けない精神力の強さは天性のものと言えるだろう。


安井寛絵さん
彼女とは当ブログでもリンクさせていただいているが、彼女が藝大の学生の頃からおさらい会などで度々お会いする機会があり、幾度か演奏を拝聴したこともあった。
今回のコンクールでは、彼女のその頃から頼もしく成長した姿を垣間見ることができて個人的に大変うれしかった。
丁寧で繊細な音と演奏でありながら独創性にも満ちており、奏法に関しても非常に器用でバランスの取れた演奏に感じた。
本選では他の演奏者と比べていささか主張の弱さが感じられ、演奏が丁寧である分、皮肉にも印象に残りづらくなったように思う。


細川紘希さん
前回の管打コン本選も拝聴しているし、その後も幾度となく演奏を聴かせていただいたことがある。
既に様々な場で仕事をし、今回も貫禄すら漂う圧巻の演奏だった。
それは柔らかな美声、安定感のある演奏など、楽器のコントロールも含めて巧さを感じ、その中には彼の美意識とこだわりの強さをうかがい知ることができたように思う。
表現の中には一生懸命さが皮肉にもややストイック過ぎる印象に感じることもあった。
当然それは彼の演奏姿勢から来ている訳だが、音楽情景をどのように表現するのかを考えさせられるような演奏だったようにも思う。


加藤里志さん
彼のことは洗足に入学した頃から知っており、門下は違ったが私の門下のおさらい会に出てもらったり、一緒に食事や飲み会をしたこともあり、今でも親しくさせてもらっている。
今回の本選出場者の中では最も音に伸びがあり、バリオホール全体が豊かに響いていたのが印象的だった。
表現も熟考され好感の持てるものだったが、音の響きに重みを置き過ぎると、演奏に対し小回りが効かないといったリスクがあり、今回の演奏ではややフレーズの軽快さを欠いていた印象を受けた。
ミスが多かったのも残念で、また演奏とは関係ないかもしれないが、ステージ上のハツラツとした笑顔に反し、ミスした際にもそれが顔に出てしまい、人前で表現することの難しさを感じた演奏だったように思う。


伊藤あさぎさん
今回の本選の中で、曲の完成度は最も高かったと言える。
解釈、技術だけではなくメンタルもコントロールしバランス良く練り上げられ、彼女自身にとっても会心の演奏だったではないだろうか。
様々な要素を底辺から慎重に積み重ね創り込まれた美しさを感じた演奏で、正直なところ演奏中に彼女のこれまでの苦労を察し涙が出そうになった。

以上。

結果は、
第一位 田中拓也
第二位 伊藤あさぎ
第三位 安井寛絵
第四位 細川紘希
第五位 加藤里志
ということになった。

終演後、各審査員の評点が順位とともに会場で公開され、評点を見れば幾分評価の割れる結果となったが、平野さんと私は偶然にも順位どおりに優劣をつけていた。
他の審査員、またお聴きになった聴衆の方々や参加者自身はこの結果をどう思ったかは定かではないが、私は審査中、第一位と第二位の優劣を相当考えた。

わずかな差ではあるが、曲の完成度を考えれば伊藤さんを、しかし奏者の資質、能力を考えれば田中さんだった。
また、二人とも音楽に対する演奏姿勢、アプローチが全く異なることもあり難しい選択だった。
考えた結果、私は田中さんの能力とこれからの可能性に賭けた訳だが、とは言え私の評点に関わらずどちらが第一位になってもおかしくないとは思っていた。

最終的な結果は当然審査員全員の意見が反映されたものとなり、私自身は納得できるものだった。

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