hiroshi hara: saxophoniste

日々の思考の断片

ナウシカ、パガニーニ・ロスト曲目解説

2017-11-09 05:48:36 | 曲目解説
気づけば二週間経ってしまったジェローム、五島さんとの演奏会。


遡ること11年、私にとってジェロームとの共演は、当初、異文化を知って驚きの連続だった。




その頃、私はジェロームの能力に嫉妬し、自分の才能の無さに落ち込んだ事もあったが、しかしそう思った事がきっかけで、次第に「私に出来る事」という思考を持つようになった。




そしてもう一つ、私自身があらゆることを維持するモチベーションは、「人の為に」が先に、その後に「自分の為に」ときており、しかしそれは広く大衆にと言うよりは、共演者なり、主催者なり、感謝している人になど、特定の誰かをイメージしているような気がしている。




それは文章を書くこと、例えばこのブログや、曲目解説執筆でも同様で、1から10までを全て説明すると長大且つ大変な労力になることと、文章に情緒が無くなってしまい、全てを書かなくても、その人ならば「わかってくれるだろう」、「察してくれるだろう」、「後で調べてくれるだろう」と、実はその都度、特定の誰かに向けて書いているということがある。





閑話休題。
先日の演奏会の曲目解説はジェロームと私で分担して書き、私はナウシカとパガニーニ・ロストを担当し、その2作品の解説を以下に残しておく。


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「風の谷のナウシカ」より 組曲5つのメロディー (久石 譲)
Joe Hisaishi: Suite "Nausicaä of the Valley of the Wind"
I. 風の伝説 The legend of the wind
II. はるかな地へ Toward the Faraway Land...
III. レクイエム Requiem
IV. 遠い日々 The Days Long Gone
V. 谷への道 The Road to the Valley


 「だとしたら、ぼくらは滅びるしかなさそうだ」
 腐海(ふかい)の生まれた訳を話すナウシカに対し、アスベルの核心を衝く台詞は、映画封切りから33年経った今でも、色褪せず胸に突き刺さる。
 栄華を極めた文明の片鱗と、蟲(むし)と菌類が支配する世界の、とかく「環境問題」を想起させる物語だが、しかしそれはもっと身近な事柄へ、例えば「双方の相入れない言い分の何処に落とし所を見出すか」、あるいは「社会の中、組織の中での自分の居場所は何処なのか」などと拡大解釈する事も出来るかも知れない。
 映画のサウンドトラックを手がけた久石譲33歳の頃の作品、チェロとピアノの為にリダクションされた版。


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パガニーニ・ロスト (長生 淳)
Jun Nagao : Paganini Lost


 美、色彩、幻想、快楽、陰鬱など、長生氏の作品には様々な性格や感性が思われ、たとえ先人の名作を編曲したものであっても、奥行き、温かさが増し、新たな「長生作品」として生まれ変わってしまう。ただし演奏する側として、それらに一貫して言えることは、「一筋縄ではいかない技術的な難しさ」である。
 2008年、2本のアルト・サクソフォンとピアノのために書かれた、この「パガニーニ・ロスト」も例に漏れず、およそ9分という演奏時間の中にパガニーニの旋律が、時に浮き出ては消え、そうかと思えば突き刺さるように鋭く、はたまた切なく、そして希望を持って歌われ、色々な感情や表情を味わえるだろう。
 初演から話題を呼び、程なくして吹奏楽版、サクソフォン・アンサンブル版が生まれ、数ある長生作品の中でも傑出した人気作である。

「サイバーバード協奏曲」解説(フルバージョン)

2013-12-13 23:50:57 | 曲目解説
来週の木曜日に行われる尚美オケの第九公演。
私もサイバーバード協奏曲で共演させていただくことになっているが、そのチケットは完売になったそうだ。

今回、サイバーバードの曲目解説は私が書いた。
演奏するうえで、この作品の背景やイメージを自分なりにとらえるためには、演奏だけではなく言葉や文章でも迫った方が良いと思い、自ら執筆を志願した次第。

その解説を以下に掲載。
誌面のスペースが限られているので、当日のプログラムには以下のカット版が掲載される。

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 吉松隆は独学で作曲を学び、ロック、エスニック等を取り入れた独自の作曲技法は、様々な価値観を持ち合わせた現代人に直接的に染み入ってきます。全作品のおよそ三分の一が「鳥」にちなんだ作品で、「歌」、「自由」、「魂」の象徴として、多彩なイメージの源泉となっているとのこと。昨年放送された大河ドラマ「平清盛」の音楽担当もされたことは記憶に新しく、この「サイバーバード協奏曲」もサウンドトラックに使用されました。
 サイバーバードは電脳世界にいる、目には見えなくとも心に抱く「移り気」や「愁い」、「苦悩」、そして「希望」や「歓喜」という、人の喜怒哀楽に宿る鳥で、 「彩の鳥」は急速な、しかしいきいきとした導入の後、すぐさまソリスト達によるコンボ(!)に突入、オーケストラはそれを追いかけ、現実と電脳の二つの世界を行き来し、先の見えない不安な気持ちも抱きながら迷走。曲想が変わり、なんとも不穏なスイングの後には、案の定、雷雲に入り込んだかの様な即興(!)。右も左も、上も下もわからない予測不能な突風や雷の中を抜け、その先にひろがる雲の上の桃源郷へと飛び立っていく。「悲の鳥」は境界の先から私たちをいざない、今生を全うし、そのいざないに応じた人は境界を越え、つまり「死」の世界へと旅立っていく。苦しみながら混濁する意識の移ろい、ピアノのミニマルな旋律はまるで病室に置かれた様々な機器の無機質な心電音を思わせ、そんな中、どこからともなく聴こえてくる鳥たちの歌に応えるサクソフォンは、「今度生まれてくる時は鳥がいい」という、病死した作曲者の妹の願いが、やがて肉体から魂が抜け出し、雲の階段を登っていく。「風の鳥」はオーケストラがつくり上げる大空に、サクソフォンが力一杯飛翔し、最後の即興ではこれまでの記憶が走馬灯のように巡っていく。
 吉松作品の鳥シリーズの集大成であるだけではなく、吉松作品全体の、また現代の協奏曲の中で最高傑作の一つに数えられるでしょう。
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D.ギリングハム:スーパーセル

2008-03-02 23:15:26 | 曲目解説
D.ギリングハム:スーパーセル
David R. Gillingham : Supercell

打楽器アンサンブルとピアノ、アルトサックスが入った作品。
ギリングハムは吹奏楽の世界ではお馴染みの作曲家だ。

この「スーバーセル」とはハリケーンの一種で、平和で夢見心地な情景から時速300マイルの嵐が吹き荒ぶ場面へと移っていく。

サックスパートは技術的にはさほど難しくはないが、長いフレーズの持っていき方や、部分的に指を酷使する場面がある。
譜例はサックスパートのものだが、二拍目から三拍目にかけて右手薬指と小指がもつれやすく難しい。
手首の角度や指をしっかり上げることが大事だ。

ヨハン・セバスティアン・バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第二番 BWV1028

2007-07-14 02:21:02 | 曲目解説
ヨハン・セバスティアン・バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第二番 BWV1028
Johann Sebastian Bach:Sonata für Viola da gamba und Cembalo D-dur BWV-1028 (ed: 編曲者による手稿)

 バッハ(独 1685-1750)は、1717年~1723年の期間、ケーテン宮廷楽長を務め、楽団のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者F.C.アーデルのために三曲のソナタを書いた。
今回はその第二番を、鍵盤楽器を使用せず三つのサクソフォーンにトランスクリプションしている。

曲は緩-急-緩-急の四つの楽章からなる。

アンドレ・カプレ:伝説

2007-07-14 01:41:57 | 曲目解説
アンドレ・カプレ:伝説
André Caplet: Légende (ed: 編曲者による手稿)

 カプレ(仏 1878-1925)は、18才でパリ音楽院へ進み和声法,ピアノ伴奏,作曲を学ぶと共に,指揮をアルトゥール・ニキッシュに師事。
1901年にラヴェルを退けローマ大賞を獲得した。ドビュッシーと親交が深く、作曲家、指揮者として活躍するが、わずか47歳で世を去った。
 この作品はアマチュアのサックス奏者エリス・ホールの委嘱により、1903年にアルト・サクソフォーンと室内管弦楽のために作曲された。
ピアノリダクション譜が存在しないためか、様々な編曲楽譜が市販されているが、今回はイアン・オリヴォーの編曲によるもの。

パウル・ヒンデミット:コンツェルトシュトゥック

2007-07-14 00:02:20 | 曲目解説
パウル・ヒンデミット:コンツェルトシュトゥック
Paul Hindemith: Konzertstücke (ed: Shott)

 ヒンデミット (独 1895-1963)は、ドイツ・ハナウ生まれの作曲家、指揮者、ヴィオラ、ヴァイオリン奏者。その他にもクラリネット、ピアノなど様々な楽器を弾きこなす多才な演奏家であった。
 作曲家としては速筆で有名で、演奏家としての傍らに生涯600曲以上を作曲した。
この作品は1933年にジーグルト・ラッシャーの委嘱により書かれた。

アルフレッド・デザンクロ:前奏、カデンツと終曲

2007-07-13 23:23:36 | 曲目解説
アルフレッド・デザンクロ:前奏、カデンツと終曲
Alfred Désenclos: Prélude, Cadence et Finale (ed: Leduc)

 デザンクロ(仏 1912-1971) は21歳でパリ音楽院へ入学し,ジョルジュ・コサード,アンリ・ビュセールに師事し、1942年にローマ大賞を獲得。
 この作品は1956年にパリ音楽院卒業試験課題曲として作曲され、F.ヘムケが演奏し卒業している。
1964年フランス政府から委嘱された「サクソフォーン四重奏曲」とともにM.ミュールに献呈されている。

ピエト・スェルツ:ウズメの踊り

2007-07-13 01:17:04 | 曲目解説
ピエト・スェルツ:ウズメの踊り
Piet Swerts:Dance of Uzume (ed: De Haske)

スェルツ(ベルギー 1960~)は作曲家、指揮者、ピアニストと多彩な活動をしている。この作品は2005年に須川展也氏の委嘱によりアルト・サクソフォーンと吹奏楽の為に作曲された。

 作品名のウズメとは、日本神話「天岩屋戸(あまのいわやと)」に登場する女神「アマノウズメ」のことで、芸能の女神であり、日本最古の踊り子と言われている。
 太陽の神アマテラスが岩屋に隠れ、世界が暗闇になってしまう。困った神々は岩戸の前で様々な儀式を行った。そしてアマノウズメが半裸になりながらこっけいな踊りを踊り、神々は大笑いする。その声を聞いたアマテラスは何事かと思い、表に出てきて、再び世界に光が戻った。


ジャン=マリー・ルクレール:ヴァイオリン・ソナタ ハ長調

2007-07-12 23:04:44 | 曲目解説
ジャン=マリー・ルクレール:ヴァイオリン・ソナタ ハ長調
Jean-Marie Leclair:Sonate en Ut majeur (ed: Leduc)

 ルクレール(仏1697-1764)は、18世紀フランスにおける作曲家であり、ヴァイオリン奏者でもあった。この作品は「二つのヴァイオリンのためのソナタ集op.3」全6曲中の第三番目にあたる。
 急-緩-急の三つの楽章で構成されている。