hiroshi hara: saxophoniste

日々の思考の断片

リサイタル後記10

2008-07-26 05:10:56 | sax_2008リサイタル
リサイタルからひと月以上経って振り返ると、あれはひとつの大きな区切りだったように感じている。

世の中が西暦二千年を迎えるにあたり「ノストラダムス大予言」、「y2k問題」、「ミレニアム」という言葉が流行り賑わっていたが、私にとってこのリサイタルはまさにそれと同じような区切りだった。

先日、アクタスで行われたジェローム・ラランCD発売記念演奏会にて私も少し演奏させていただいたが、終演後幾人から「リサイタルのときよりも音が良かった。」、「習熟した演奏だった。」とありがたいお言葉をいただき、感謝するのと同時に私自身がもうすでに歩み始めているのだと実感した瞬間でもあった。

リサイタル後記9

2008-07-25 05:03:26 | sax_2008リサイタル
もはや先月の出来事になってしまった。

リサイタルのプログラムを見渡すと、思いのほか女流作曲家の多さに目を引いた。
まったく偶然だったのだが、アンコールも含めると7名の作曲家の作品を演奏したわけだが、そのうち3名(金子さん、モーリス、デクリュック)が女性だった。
女流作曲家は今となっては珍しいことではないが、リサイタルのプログラムで半分が女流作曲家というのは珍しいことだったかもしれない。

ジェローム・ララン氏とコンビを組んで以来、現代の作曲家との親交も深まり、作曲家という職業やそこに生きる人たちを身近に感じるようになってきた。

リサイタル後記8

2008-07-08 22:45:48 | sax_2008リサイタル
写真は「プロヴァンスの風景」よりカブリダンの一部分.

曲目解説では全くふれなかったが、カブリダンはプロヴァンス地方固有種の虻(あぶ)なのだそうだ.

二匹の虻が飛び回り、遠くへ去って行くような印象を抱きながら演奏していた.
ロンドの様に同じ主題が何度も出てくるが、出てくる度に新しい気持ちで、また奏法においても各々に変化を加えた.

それは、冒頭の主題は敢えて音色の焦点をぼかし、遠くに見える虻の情景を、2度目の主題はセックに鋭く鮮やかに、目の前を飛び回るような場面を、カデンツ後の3度目の主題ではダブルダンギングに切り替え、しなやかに柔らかく、虻が飛び去っていくような情景を表現していた.

写真の「レ♭」はナチュラルに直して演奏するのが慣例となっているが、今回は敢えて楽譜どおり演奏した.

リサイタル後記7

2008-07-03 23:07:49 | sax_2008リサイタル
ピアノの野原みどりさんと初めて共演したのは2003年12月に開催されたサクソフォーンフェスティバルだった.

その時はフランクのヴァイオリン・ソナタを演奏し、これまで野原さん演奏会には度々伺い、CDも全て拝聴していたが、実際に間近に聴いて、演奏の雰囲気や音の伝わり方がこれまで経験してきたものとはまったく異なり、大変驚き当惑したことをよく覚えている。

その時から、自分自身をより高めて、いつか再び共演したいという思いが芽生え、あの時から5年経って今回のリサイタルで再び共演することができた.

野原さんのピアノ演奏は技術、音楽性とも筆舌に尽くしがたく、更にそれらに裏打ちされる強固な精神力とプロ根性があるが、苦労を見せず、常に演奏や練習を楽しんでいる.
気さくで物腰柔らかなところも含めて、私の目指す演奏家像そのものだ.

今回共演させていただいた中で、最も印象的だった曲はケクランだった.
特に第八番のフーガでは、私のパートも含め全ての声部が息づいて生き生きと歌っていた.

リサイタル後記6

2008-07-02 23:21:46 | sax_2008リサイタル
曲目解説は評論家等にお願いすることなく、敢えて自分で書かせていただいた.

特に作曲者がご存命の作品であれば、作者に書いていただくことが多いだろう.
ただ今回の演奏会では作曲者にご面倒をかけたくなかったし、何よりすべての作品を演奏と共に自分の言葉で語りたいと考えていた.
執筆にあたり、前半の現代作品については思いの外すぐに書き上げることができた.

委嘱作品「スフルスティック」の解説はたった2行程ではあったが、楽譜をいただいて3日程で書き上げた.

作曲者との些細なやり取りの中に多くの情報があり、それが作品解釈の大きな助けとなった.

意外にも後半の3曲がはかどらずずいぶんと苦労した.

3曲ともサックスの名曲として知られてはいるが、作曲者のことや、作曲された経緯など謎が多く、調べるにも技術的時間的限界があり難航した.

その曲目解説も近々拙項に掲載したいと思う.

リサイタル後記5

2008-06-28 23:11:59 | sax_2008リサイタル
全体的な演奏内容で特に気をつけていたことは、雰囲気や「間(ま)」だった.

演奏に際し、「間」を支配する動作はいくつかあり、それは呼吸であったり譜めくりであったりする.

雰囲気を乱さず適切な「間」をつくりだすためには、その支配している動作を操作する必要があった.

ブレスは場所によって速さ、深さを変え、譜めくりしづらい場面では暗譜しつつ譜めくりする場所をずらすこともあった.

「秋のアノフェレス」を1997年に初演した時は譜面台2つで譜めくりしながら演奏したが、今回はその「間」を意識した結果、譜めくりをやめて譜面台を7つ使用することになった.

リサイタル後記4

2008-06-27 06:52:38 | sax_2008リサイタル
昨日の続き。

後半プログラムではヴィブラートが徐々に音の一部分となってくる。
ケクランでは曲によりヴィブラートの度合いを変えたが全体的には控えめ、モーリス、デクリュックも同様に楽章や場面によって度合いを変化させつつ、モーリスの「いとしい人のための歌」や「アリスカン」の切迫した場面や低音域、デクリュックの第二楽章や第三楽章の音の移ろい、遠近感を表す部分をきっかけとして、徐々に深いヴィブラートとなり、音とヴィブラートが自然に結びつくように変化させた。
更にアンコールのピエルネではクライスラーやミュールのような強いヴィブラート奏法に行き着いた。

ということは、近代では音とヴィブラートは密接に結びつき、ヴィブラートも音色の一要素であったものが、現代では細分化されてそれぞれの要素を独立して取り扱うという背景が見えてくる。
近代までは楽譜に書き表せなかった要素を、現代では徐々に定義付けされ、形の見えなかった要素が見えてくるということなのだろうか。

リサイタル後記3

2008-06-26 23:08:30 | sax_2008リサイタル
今回は時代をさかのぼるプログラムとなったが、それは演奏したいと思う曲をあげて、バランス良く配置した結果であり、実は最初から意図したものではなかった.

委嘱作品を一曲目に配置することは、もしかしたら失礼なことだったのかも知れないが、当初から純明さんの作品を幕開けに置きたいと考えていたし、全体のバランスを考えれば、やはり一曲目が妥当だという結論に至った.

「時代をさかのぼる」ということは曲順を考えるだけではなく、その時代やスタイルに沿った演奏をしなければならない.

例を一つあげればヴィブラートの変遷がある.

前半の現代作品では音楽や音、音響の構造をミクロの世界で表現するような場面が多く、音楽的なヴィブラートは構造を表す上で邪魔になる場合がある.
従って、ほとんどヴィブラート無しで、また楽譜に指示されたヴィブラートは
機械的に音程を上下させ、意識的に滑稽なヴィブラートとなるよう演奏していた.

リサイタル後記2

2008-06-25 22:10:31 | sax_2008リサイタル
今日になってようやく時間が取れて、野中貿易本社へ伺い残務処理を行なった.

当日お越しいただいたお客様は514名.
浜離宮の客席数が552なので、サックスの演奏会としては稀に見る大入りだった.

お越しいただいたお客様に対しては並々ならぬ感謝を申し上げたい.
もはや個人で運営できる規模を超えてしまい、何から何まで面倒を見てくださった野中貿易にも感謝申し上げたい.

動員数は当日まではっきりしなかったのだが、満席ではなく「ほぼ満席」という絶妙な動員数により、席に座れず不快な思いをするということもなかったのではと思う.

リサイタル後記1

2008-06-24 21:40:17 | sax_2008リサイタル
これまでリサイタルの準備が生活の一部となっていた状態から、リサイタルを迎え、そしてリサイタルが終わり数日経って、少しだけ身が軽くなったような感覚がある.

今月初旬にPCの電源が入らなくなり、仕事にも幾分差し支えたが、視点を変えればPCに余計な時間を費やすことが無くなり、練習時間が増え好影響だった.

リサイタルを終えて

2008-06-20 23:45:29 | sax_2008リサイタル
当日は慌しく、感慨に浸る余裕もなく退館時間に追い立てられて会場を後にした.

演奏中は自分自身、演奏するための動機付けや存在意義など色々なことを考えていた.

終演後、たくさんのお花、お菓子などの差し入れをいただいたが、嬉しいのと同時に恐縮でもあった.
たくさんのお客様にお越しいただき感謝申しあげる次第である.

調性

2008-06-18 22:23:57 | sax_2008リサイタル
鈴木純明さんの「スラップスティック」の一片.

スペクトル楽派は音響の構造を追い求める音楽と言える.

倍音を元として旋律を構築することもあり、しばしば調性音楽を思わせる場面もある.

弦楽器

2008-06-16 21:17:30 | sax_2008リサイタル
デクリュックのソナタ嬰ハ調.

チラシには「デュクリュック」と掲載したが、プログラムでは「デクリュック」に表記を変えた.

美しい作品だが、きわめて弦楽器的な作品と言える.
冒頭に表記されている速度はかなり遅く、これも弦楽器特有の速度設定なのかもしれない.

試演

2008-06-14 04:58:20 | sax_2008リサイタル
昨日ファンファーレバンドの演奏会が終わり、私もリサイタルモードに入ることとなる.

昨日午前中の洗足高校授業の中で、無伴奏作品の試演を行なった.

特に委嘱作品「スフルスティック」は初めて通してみたが集中力の高い作品だった.