学生生活を終えて何年か経った時にいただいたオーケストラのエキストラのお仕事、初日のリハーサルにて、アルルの女の第二組曲のメヌエットの中間部に入り、同じパターンの繰り返しで、楽譜の段を見間違えないようにしつつ、元気よく四分音符を吹きながら、次に来る対旋律に向けて調子を整えていた。
今思い返すと、オーケストラ全体でも元気よく、徐々に速くなっていた。
中間部が終わって、アウフタクトのサクソフォンに差し掛かった時、指揮者が私に左手を向けて、これまでの速度に急ブレーキをかけて遅く振り出したのに大変驚き、次の小節に入るまでの、一瞬とも言えるたった4つの八分音符を吹く間、私自身が抱いていた速度のイメージ、指揮者の意向、ここまでのオーケストラ側の流れをどう変えていけば良いか、ダイナミクスはどうすれば良いかなど、様々な考えがよぎって板挟みにされて、心臓が止まりそうな思いをしたことがあった。
例えば、突然遅くなる"meno mosso"は、成熟された音楽性を持ち合わせていないと、表現が難しいのではないだろうか。
メヌエットのこの部分には速度の指示は何も書かれていないのだが、この"meno mosso"を見るたび、今でもあの瞬間のことを思い出す。