地獄の練習曲

先日「53の練習曲」を少しばかり取り上げたが、同じようなエチュードにスースマンによる「30の大技術練習曲（全二巻）」がある。

こちらはハ長調から属調の順に並べられ、第一巻は嬰ハ長調まで、第二巻は嬰イ短調から始まり二短調に終るという異名同調を含むすべての調性が取り上げられている。

「53の練習曲」と比較して、一人の作者によるものなので和声進行や構成が一貫しているが、一曲一曲が長大（最長で3ページに及ぶものもある）で単調、とてもストイックな技術練習となっている。
種々の調性において種々のリズム、技術的なパターンを練習していく。

あくまで私のイメージだが、一曲ごとにタンギング地獄、アルペジオ地獄、付点地獄、トレモロ地獄、トリル地獄、跳躍地獄、シンコペーション地獄、旋回地獄等、様々な地獄世界に身を投じていくような気分になる。
もしくは霊山寺に始まり大窪寺に終わる四国八十八箇所を巡るお遍路さんのような気分。

地獄にしろ札所にしろ、それぞれの世界にどっぷり浸かって修行して行くようなエチュードだ。
こうしてすべての調性を一周できたときには、きっと一皮むけた奏者になるだろう。