hiroshi hara: saxophoniste

日々の思考の断片

「サイバーバード協奏曲」解説(フルバージョン)

2013-12-13 23:50:57 | 曲目解説
来週の木曜日に行われる尚美オケの第九公演。
私もサイバーバード協奏曲で共演させていただくことになっているが、そのチケットは完売になったそうだ。

今回、サイバーバードの曲目解説は私が書いた。
演奏するうえで、この作品の背景やイメージを自分なりにとらえるためには、演奏だけではなく言葉や文章でも迫った方が良いと思い、自ら執筆を志願した次第。

その解説を以下に掲載。
誌面のスペースが限られているので、当日のプログラムには以下のカット版が掲載される。

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 吉松隆は独学で作曲を学び、ロック、エスニック等を取り入れた独自の作曲技法は、様々な価値観を持ち合わせた現代人に直接的に染み入ってきます。全作品のおよそ三分の一が「鳥」にちなんだ作品で、「歌」、「自由」、「魂」の象徴として、多彩なイメージの源泉となっているとのこと。昨年放送された大河ドラマ「平清盛」の音楽担当もされたことは記憶に新しく、この「サイバーバード協奏曲」もサウンドトラックに使用されました。
 サイバーバードは電脳世界にいる、目には見えなくとも心に抱く「移り気」や「愁い」、「苦悩」、そして「希望」や「歓喜」という、人の喜怒哀楽に宿る鳥で、 「彩の鳥」は急速な、しかしいきいきとした導入の後、すぐさまソリスト達によるコンボ(!)に突入、オーケストラはそれを追いかけ、現実と電脳の二つの世界を行き来し、先の見えない不安な気持ちも抱きながら迷走。曲想が変わり、なんとも不穏なスイングの後には、案の定、雷雲に入り込んだかの様な即興(!)。右も左も、上も下もわからない予測不能な突風や雷の中を抜け、その先にひろがる雲の上の桃源郷へと飛び立っていく。「悲の鳥」は境界の先から私たちをいざない、今生を全うし、そのいざないに応じた人は境界を越え、つまり「死」の世界へと旅立っていく。苦しみながら混濁する意識の移ろい、ピアノのミニマルな旋律はまるで病室に置かれた様々な機器の無機質な心電音を思わせ、そんな中、どこからともなく聴こえてくる鳥たちの歌に応えるサクソフォンは、「今度生まれてくる時は鳥がいい」という、病死した作曲者の妹の願いが、やがて肉体から魂が抜け出し、雲の階段を登っていく。「風の鳥」はオーケストラがつくり上げる大空に、サクソフォンが力一杯飛翔し、最後の即興ではこれまでの記憶が走馬灯のように巡っていく。
 吉松作品の鳥シリーズの集大成であるだけではなく、吉松作品全体の、また現代の協奏曲の中で最高傑作の一つに数えられるでしょう。
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