虎尾の会

幕末の草莽の志士清河八郎の会の名を盗用しています。主人は猫の尾も踏めません。

「山の民」

2008-07-25 | 読書
「蟹工船」が若い人に売れているということだが、「百姓一揆」もブームになってくれないだろうか(笑)。徒党厳禁の時代に徒党を組んだ先人の知恵を学ぶべきではないか。憲法で言論、集会の自由が保障されているとはいえ、今もなお、徒党厳禁の時代だ。諸君、徒党を組むことを恐れるな(笑)。

閑話休題。
百姓一揆を書いたプロレタリア文学作家に江馬修がいる。かれは、飛騨の出身で、「本郷村善九郎」も書いている。この夏には飛騨にいくので、かれの代表作「山の民」に挑戦してみた。ずっと前、1度挑戦したのだけど、中途でやめた。今回も、やはり半分読んだところで、あきらめてしまった。むずかしいわけではないのだけど、文章が、わたしには遅すぎるのだ。司馬遼太郎のような簡潔な文体の歴史小説に慣れているので、まだるっこしく感じるにちがいない。この名作は、わたしの体質に合わないのかもしれない。

しかし、この梅村騒動は興味深い。3人の他国者の勤皇の志士が飛騨にやってくる。まずはじめに阿波の志士竹沢寛三郎。飛騨の先鋒鎮撫使として入国し、郡代を追放し、相楽総三のように年貢半減なども口約束する。飛騨では、神様のように歓迎されたようだが、讒言され、牢屋に。

次に送り込まれたのが、梅村速水、水戸脱藩浪人で、天誅組や赤報隊とも関わりがあった(と思う)若い志士。若いだけに、新時代への情熱を燃やし急激な改革をすすめるが、飛騨の民の総スカンにあい、一揆がおき、これまた、牢屋に(牢死)。

竹沢寛三郎を、そして梅村速水を京都に讒言したのが、岩倉の家来で目付け役の脇田頼三。脇田頼三は、多田院御家人の末孫だ(能勢の出身かどうかはわからない)。この脇田頼三ものち、処刑されるのだが、小説では、竹沢、梅村、脇田についての史実紹介が少ないのが残念。この3人についてもっと詳しく知りたかった。

司馬遼太郎であれば、この題材をこうした志士たちを中心にして描いたかもしれない。「山の民」は、維新に翻弄され、裏切られ、反抗した人々を描いたものだが、この3人の男たちも、維新に失敗した男たちだった。

作者江馬修の父は、梅村速水の有力な部下だったようで、小説の中にも登場する。江馬の家も一揆勢によって打ち壊される。作者の筆は、梅村速水をただの圧制者としてではなく、同情を持って描いている。

途中で、本を最後まで読まなくなるのは、よくブックオフなどに寄って、ちがう本を買ってくるからだと思う。とにかく、そのために興味がコロコロ変わる。今日は、古本市場で、眉村卓の「消滅の光輪」(SF)を手に入れた。買ってきたら、ちょっと読みたくなるではないか。すると、今まで読んだ本への興味はうすまる。気の移りやすいわたしは、長い作品を読み通すのができない(そのくせ、大長編に読書欲がわく)。わたしの大きな欠点だ。

でも、「山の民」、一揆のハイライト、騒乱の部分を読まないのは、もったいないかもしれない。終わりの部分から読んでみようかな。