らんかみち

童話から老話まで

クジラのコロって、なんだろう

2012年05月27日 | 酒、食


 コンビニからおでんが消えて久しいというのに、今夜はおでん。またもや夏炉冬扇のエラーに挑むのは、「太地名産くじらコロ(おでんにどうぞ…)」をいただいたから。しかしこれ、賞味期限が過ぎているぞ!

 コロといえば大阪の関東煮(かんとだき)では定番とされるが、どこのおでん屋でもいつでもあるというわけじゃない。見つけたら必ず食べていたが、臭みが鼻についてムッとなるケースもある。が、美味しいやつは病みつきになりそうなほどで、他に似たような食感のものを思い出すのが難しい。

 20代のころ関西に住んでいたから、ある日友だちとガイドブックを片手に老舗おでん屋の暖簾をくぐった。厨房を囲むように設置されたカウンターは常連客とおぼしき御仁たちで埋まっている。「ギボシでよろしいですか」と案内されたのは、橋の欄干にある丸くて装飾の施された柱が陣取る末席だった。

 目の前におでん鍋があり、真っ先にコロを注文したところ、「それはコロやおまへん、サエズリでんがな」と、注文を受け付けてくれない。仕方ないので、「それ二つ」と、郷に入って郷に従った。
 友だちが「スジをください」といったら、「それはスジやおまへん」とつれない返事が返ってくるだけ。
 牡蠣を注文してしまってから時価であることに気が付いたが、目の前には伝票代わりの木札がどんどん積まれる。
 たかがおでんを食うためになんでこんなに緊張せにゃならん! と、ほうほうの体でお愛想した。20年以上も前のことだが、それなりの値段だったと記憶している。

 で今宵のコロだが、昨日から水に浸しているのに油が抜けず、臭みもとれない。臭いというのはアルコールに溶けるものだから酒で炊けば良いんじゃないかと試してみたが、少しマシになったという程度。
 このままでは他のおでん種を汚染するんじゃないかと懸念しつつも、見切り発車。醤油のご利益か、はたまた味醂パワーのおかげか、絶品というほどではないが許せるものに仕上がった。

 例のおでん屋さんは4代目が亡くなって閉店したと聞いていたが、先ごろ5代目が復活させて人気も回復したらしい。しかもネットショップまで手がけているとは、時代が変われば変わるもんだ。
 新装成った今でもサエズリは人気らしいが、本日のコロとは違うものであることが分かった。気位の高いというか、高飛車な店員さんに叱られるような気分で食べたサエズリの味は思い出せないが、チャンスがあればまた食べに行ってみたいと思う。