らんかみち

童話から老話まで

石窯パン体験

2012年05月01日 | 酒、食


 ピザ5枚の予約が入っているだってぇ、だからって蕎麦屋であるぼくにどうしろと? ぼくが石窯船頭に名乗りを上げたのは、船頭だらけで窯が空を飛びそうで気の毒になったからというのはもちろんだが、溶接をやってみたかったから。
 ピザやパンも焼いてはみたいけど、これは自分自身の探求心を満足させたいだけのこと。突き詰めれば蕎麦もその辺りが出発点なのだ。

 だだをこねてもしょうがない。困るのはお客さんなので、おばちゃんの助手を従えて生地をこしらえ、トッピングを用意し、御窯ちゃんを焚きつける。どんどん薪をくべればすぐに御窯ちゃんの温度は上昇するが、火を落とすとすぐに冷めてしまうのがこの御窯ちゃんの性質であるらしい。熱しやすく冷めやすい。

 御窯ちゃんのご機嫌を取っていると、ピザ生地を延ばしてソースを塗って、といった一連のプロセスが疎かになるので、お客さん自身でやってほしい旨を申し上げたのだが、断られた。
 でもお好み焼きだってお客に焼かせる店ってあるんだから、ピザを焼くに至るまでの行程をお客さんの好みでやってもらう店があって良いはず。

「ゆっくりコーヒーを飲みながらピザが焼けるのを待つ」と最初は拒否されたけど、いつの間にやら二人のお客さんが自発的にやり始めた。
「フォークで生地にガス抜きの穴を開けて、ソースはたっぷり、玉ねぎが良いわね、サラミでしょ、オリーブに……」
 キャッキャとはしゃぎながらやってくれるのは良いけど、欲張って何もかも載せて焼くと美味しくないんだよね。ほどほどにしておくようアドバイスしたけど、結局てんこ盛りのピザが焼き上がった。

 ピザを焼き終えた予熱でパンを焼いてみた。二次発酵の時間を短縮したせいか重い食感になったが、それ以前に焼けないじゃないか! 下側はごらんのように焦げているのに、ドームからの輻射熱が届きにくいので、パンの上面が焼けない。バランスが悪いのだ。

 御窯ちゃんを改良しないといけない。ドームを崩して低くし、再度組み上げる気力は誰にも無いだろう。そんなことするくらいなら最初から作り直す。今までやって来たことが全否定されるなんて、どの船頭にも耐えがたいに違いないのだ。
 ということで、明日は内部を二重構造にしてみようと思う。あぁいかん、また蕎麦屋が石窯船頭になってしまう!