北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

「ウェブ進化論」をめぐって(1) 玉石混淆問題

2006年06月30日 00時07分29秒 | つれづれ読書録
 「ウェブ進化論」(梅田望夫著、ちくま新書)はおもしろく、刺戟的な1冊だった。「あちら側」と「こちら側」といったことばを使い、インターネットの爆発的拡大がもたらす可能性について、手際よくまとめてくれている。ただし、どうしても個人的に気になるところというか、もろ手を挙げて賛同しかねるところがあるので、書き留めておきたい。

 ひとつは、玉石混淆(玉石混交)問題である。

 blogの急激な普及にともない、仮想空間上のファイルは飛躍的に増えている。わかりやすくいえば、いろんな事柄について書かれたファイルが、ものすごく多くなっているということである。しかし、そこから有用な知見を得るのはなかなかたいへんだということを、最近つくづくと思い知らされた。

 じぶんが体験したのは、東京・六本木に国立新美術館が完成したというニュースをめぐっての話だ。
 新聞では当初(15日前後の第1報)、通りいっぺんの記事しか出ていない。だから、具体的にどういう団体に使われるのかといったことを知りたくて、テクノラティなどを使ってかたっぱしからblogを検索してひらいてみた。
 4、50件は見たと思うが、新聞以上のことを書いてあるblogは皆無だった。大半が、新聞社サイトからの引き写しと、「すごい」といった程度の感想のみ。
 嫌味な言い方を承知ですれば、その程度のことを書くのに、これほど多くの人がblogを開設してエントリを書いているということ自体、正直言ってオドロキである。

 サイトやblogが増えれば増えるほど、検索でヒットする数は増え、有用な情報にたどりつく確率は低くなる。

 ところで、googleがとった方法はよく知られている。
 たくさんリンクされているファイルが有用なファイルだという仮説をたて、その順番に検索結果が出るようになっているらしいのだ。
 
 テクノラティでも、そのblogへのリンク数が表示される。
 しかし、blogについていえば、文章の質とリンク数に、あまり相関関係はないような気がする。
 
ネット上の玉石混交問題さえ解決されれば、在野のトップクラスが情報を公開し、レベルの高い参加者がネット上で語り合った結果まとまってくる上方のほうが、権威サイドが用意する専門家(大学教授、新聞記者、評論家など)によって届けられる情報よりも質が高い。そんな予感を多くの人たちが持ち始めた。(「ウェブ進化論」16ページ)

 それは、そうかもしれない、と思う。しかし、体感的には、玉石混交問題は、まったく解決していない。

 ちなみに、国立新美術館について、きちんとした情報が得られたのは、6月22日の読売新聞の解説記事によってだった。
 すくなくてもこの問題については、ネット上では皆目わからず、一見オールドメディアに見える新聞のほうが、圧勝だったということだ。

 筆者は似たような経験を、例の盗作騒動のときもしている。宗左近死去のときも、美術とのつながりについてふれたblogはけっきょく見つからなかった。
 そんなわけで、blogを検索してかたっぱしから読むことは、今後しばらくは、しなくなると思う。

 ふたつめの「メシが食えるか」問題は、日を改めて。

http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/


最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ブログ形式の限界 (toledo)
2006-06-30 06:52:56
ありますよねえ。

やっぱり、所詮日記だから、足をつかって

調べ上げた情報とは、ちがってきます。

TVだって、検索エンジンのサイトだって、

ニュースソースは新聞ですもん。



新国立美術館の最初の展示に「水彩連盟」が

エントリーされてます。(宣伝)
返信する
Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-06-30 09:48:58
toledoさん、ありがとうございます。



ただ、blogって、べつに日記じゃなくても使える道具(ツール)だと思うんですけどね。

圧倒的に日記が多いような気がする。



本文の記述、一部追加しました。(新聞の第1報がうんぬんのくだり)
返信する
Unknown (aka)
2006-06-30 10:42:59
ども、ご無沙汰してます。

私、最近ネットの情報はあてにしてません。

だって、ネットで調べてからその場に行っても



釣れないんだもん。



って事で、なんか最近毎週『海』に行ってます。

(ギャラリー回りもしないくせに)
返信する
Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-07-01 20:38:25
akaさん生きてたんですか。

「日記のようなもの」復活してくださいよ。
返信する
blogへの偏見 (川上)
2006-07-02 16:05:15
ホームページに価値があり、blogは素人のモノというような偏見がまだありますね。

しかし、検索エンジンでは掲示板もblogもHPも同じ土俵で検索してくれます。

現状では一般人の開設するblogやHPが圧倒的に多く、そのほとんどは見られていないということが「google」に書かれていました。私もそう思います。



blogに価値のある記事が載るとすれば、まず情報の発信源がマスコミと市民記者を同等に扱うという事から始める必要があると思います。現状の記者クラブを基本としたニュース配信状況では先端の情報を仕入れようにも出来ないという入り口の問題もあります。

ニュースを消化して栄養にするには入り口に入るときに取捨選択できる、ソースのはっきりしている素材が必要だと思います。



玉石混交というより、砂漠に宝石という方が適切で、すくった砂に宝石が入っていない時の方が多いモノでしょう。これはネットであろうが図書館であろうが同じですね。

ただ、行政の持っている情報は一般に出してくれないとマスコミのフィルターを通った情報しか咀嚼できないわけで、これでは独自の切り口の良質な情報が上の方に溜まるという理屈にはならないわけです。ですから「予感」止まりでしょう。



具体的には、各美術館の所蔵作品を無料で調べようもないし、そのために美術館に来いと言うのも何だか情報の独占みたいです。主権者が所蔵作品くらい自宅で検索できなくて、公の美術館と言えるかね。

その点札幌市立図書館の蔵書検索は唯一開放的です。情報件数で言えば近美の作品の方が遙かに少ないのに、検索システムがないというのは早期に改善してもらいたいという気がします。(データベース化の計画はあると報道されていましたが)







でも、水彩連盟がナショナルギャラリーに会場を移行するというのは、多分日本で初めての情報ですね。

返信する
川上さんへ (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-07-02 22:54:05
1. 記者クラブ

 これについては一口で語れないのですが、どんな場でも誰にでも取材を認めるためには、セキュリティという大きな問題があります。

 また、中央と地方でも、取材環境に大きな差があると思います。



2. 玉石混交

 これは、ネットと図書館では、原理的に違うと思います。なぜなら、活字というのは、基本的に、編集者の眼をパスしたものだからです(最近は、自費出版のハードルが大きく下がっていますが)。出版という手間の時点で、ゴミは淘汰されているのです。

 お目当ての情報に行き着くには、活字のほうがはるかに速いと思いますよ。



3.所蔵品情報のデータベース化

 予算の問題がすべてだと思います。

 道はただでさえ予算がないのですから。

 ボランティアがいれば、着手するかもしれません。

 なお、著作権の切れた作品に関しては、すぐに検索できますよ。

 

 また、所蔵物をすぐに一般人が借りられる図書館とは、事情を一緒にはできないでしょう。



4.水彩連盟の展示

 6月22日の読売に出ています。

 創元会、示現会、水彩連盟が皮切りだそうです。



 
返信する
短い反論 (川上)
2006-07-03 02:15:11
1.記者クラブ

 一定の認証は必要でしょう。気象予報士のような認定機関の「規制緩和」で民間の記者が出てくる必要があると思います。特にNGOの広報などがまず上がるでしょう。取りあえず事件事故以外の行政の記者発表くらいはプレスリリースを即日発行してもらいたいと思いますね。



2.砂漠の宝石(玉石混交)

 世論という意味では一定の評価根拠が出来ると思います。ある事実に否定的か肯定的かという点では評価できると考えます。

新美術館で実施の公募展というような公式HPにも載っていないようなホットな話題ではこの時点でマスコミ以外の有用情報は1.の観点からも比較の次元ではないと思いますよ。



3.所蔵品データベース

 テキストレベルでは今でも打ち出しがあるところからすぐに可能ではないでしょうか。はがき程度の画像がほしい人はメールで請求するなど工夫をすればよいと思います。予算がないから出来ないとするのではなく、出来るようにするにはどのようなハードルをクリアするのかという視点での政策形成が基本です。

中小出版で所蔵品から掲載作品を選択したいときに、何処にどの絵があるのかが分からないとポジフィルム借用請求可能かどうかも分からないわけで、検索者が当たりをつけていないと担当学芸員も時間の無駄です。

第一に納税者が公的な財産の在処を知るのは権利です。特に札医大に貸し出したような作品の保管状況を調べるときなどです。



4.水彩連盟等の移行

 よみうりWEB版に載っていない情報だとしたらやはりWEBに載せた時点で初めてと言うことです。

この時点で検索が容易です。



5.その他

 政治的になるのでこの場の趣旨ではないのですが、サハリンⅡプロジェクトの環境影響評価について昨年末時点で新聞に載っていなかったことでも、WEBでは2月段階で情報が出ていました。原因は無関係のようですが海鳥大量死の報道がタイミング良く出ましたが、凍結する海での油流出事故の影響は未知数でサハリンⅡの環境問題で北海道が当事者扱いされていなかった状況を発表したのは4月10日あたりでしょう。

この情報は環境NGOのHPです。
返信する
Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-07-03 22:34:07
>よみうりWEB版に載っていない情報だとしたらやはりWEBに載せた時点で初めてと言うことです



それは極論でしょう。

ネットにはなくても、1000万部印刷されているものを存在しないようにいうのは。

その理屈でいえば、まだ「古事記」も「我輩は猫である」も書かれていないことになりますよ。



ネットというのは「書かれたもの」の一部でしかないことをお忘れなく。



>はがき程度の画像がほしい人はメールで請求するなど工夫をすればよいと思います。



著作権の問題があり、不可能でしょう。
返信する
Unknown (SH)
2006-07-03 22:58:38
ヤナイさん、こんにちは。



何かこのテーマに関して書こうと思っていたのですが、「ウェブ進化論」も読んでいないので、どうもなあと思っておりました。



今日ふっと思いついたのですが、私の感覚ではブログ(自作HPでも良いのですが)に書くことは、マスメディアに登場する情報とは重複しない分野・内容であるだろうなということです。自分が書かなければ誰も気づかない、そしてそのまま消滅してしまいそうなものこそ、力を込めて書きたいのだろうなと思います(その反面、自分以外に気づかれず消滅して欲しい気持ちもありますが)。



そういう意味で、「大半が、新聞社サイトからの引き写しと…略」というのは私も理解できません。
返信する
検索および著作権 (川上)
2006-07-04 00:20:46
検索に引っかかることを前提としてWEB上に載せなければネットでの検索が出来ません。したがって、紙媒体に載っただけものはここでは取りあえず除外して考えないと「上方の」、価値ある固まりに入らないと言うことを言っているのです。存在するとかしないとかの意味ではありません。



それと、著作者人格権は美術作品では自動的に当然保護されるものであり、著作者財産権がどのように扱われるかによって具体的な論議がされなければWEBの情報価値を高めるという事にはならないのではないでしょうか。

WEB上に美術館の透かしを入れた72dpiの小さな画像を公開したとして、印刷して絵はがきにしたり、出版物として売るという人が出てくるでしょうか。手間とリスクを考えればメリットは無いと思います。

それよりも、どの美術館にどのような作品が収蔵されているかをサムネール程度の画像付きでデータ公開する方が作家のメリットになるものと思います。

著作権侵害が惹起する可能性は常にありますが、少ない可能性を恐れて貴重な情報を封印する方が作家にも利用者にもデメリットになると思います。

美術系のコースを持つ大学が増えている昨今、どのような研究者にも情報を出してほしいと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。