散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

象徴天皇機関説~「天皇-国民間」の、「仝」による、「仝」のための

2016年08月12日 | 政治
天皇陛下の国民へのビデオメッセージ、以下の様に、平易に聴き取った。
象徴天皇という新たな仕事に就き、国事行為はあるものの、新たな意味づけを求めて、仕事を開発してきた。その仕事は国民にとっても十分に意味のあること、天皇の一身の状況から減らすことではなく、継続的に発展させるものだ。

それは仕事に関すること、陛下のお気持ち云々の問題ではないと感じる。即ち、新憲法のもとで始められた「象徴天皇制度」における機関としての天皇の業務を定め、その継続と発展の必要性を主張したものだ。

その意味で、以下の二つの文がポイントとして読み取れ、かつ、筆者の問題意識のもとで、印象に残ったものだ。
『日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました。』
『天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます。』

以上の議論は、勿論、戦前における陸軍・文部省による「現人神」と伊藤博文が構築し、美濃部達吉が法的に議論を展開した「天皇機関説」との相克の歴史を念頭においたものだ。戦後、“国民統合の象徴”という機能を憲法の規定として与えられ、国事行為も設定された。国民的理解としては、余った時間は動植物等の自由な研究に活用し、余生を過ごすようなイメージだったのではないか。

しかし、皇太子時代の美智子妃との結婚が、ミッチーブームを沸き起こし、テレビの普及と共に一つの社会現象とし国民一般にも大きな影響を与えたことが、現天皇の皇室に対する考え方に大きく影響を与えた様に思われる。
「もはや戦後ではない」と経済白書が宣言した1956年から2年後のこと、本格的な高度経済成長時代へ突入したときだ。

筆者もまた、テレビでそのパレードを見ていた。
皇族あるいは華族から選ばれる皇室の慣例を破り、初の平民出身の皇太子妃として注目の的となった妃殿下との交流模様も雑誌の特集として競って書店の店頭に並んでいた。当時の昭和天皇は「皇室に新しい血を」という意向だったとされており、筆者も父が好んで買っていた週刊朝日を読み、また、父からもそのような話を聞いたことを覚えている。

それは、国民と皇室との距離を一気に縮めたと言ってよい。…そして、今、テレビを通してメッセージは、終戦を告げる玉音放送とは、「天皇-国民」の距離を著しく縮めると共に、天皇をイメージする国民の気持ちが親近感に満ちたものに変わったことを示しているようだ。

玉音放送は、“「天皇=国」の、による、ための”企図であったが、今回のメッセージは表題に示したように“「天皇-国民」の、による、ための”新たな提案を含んでいて、機関としての「象徴天皇」を具体的な姿として理解させるものだ。

国民へ直接、呼びかける形での気持ちの表現は、『お言葉』の中にも書かれているように、日本各地への訪問での経験がその基盤になっているのであろうが、更に、その底には結婚に対する国民的反応をパレードの中で実感し、その後、象徴の行為として発展させたことによるのだろう。

『皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行って来たほぼ全国に及ぶ旅…その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ…』との言葉は、天皇・皇后の一体感と象徴としてのその実践と実感を示している。

しかし、マスメディアへのリークを通じて国民へ生前退位の意向を天皇が表明するという、異例の行動に関する報道を見聞きしていると、依然として政治・メディアの世界では戦後民主主義が根付いていないように感じる。

先ず、天皇の企図が伝えられた後、安倍首相は「コメンを差し控える」と発言、政府関係者もかなり冷淡であった。宮内庁関係者は「そのような事実はない」とまで言い切った。

戦後憲法では、天皇は政治と切り離され、象徴となった。しかし、天皇は形式として国会招集という国家元首並の役割が規定される。その人間が、その進退を意思表明できないとは、民主主義を危うくするものだ。

世俗宗教しかない日本において、「象徴=世俗現人神」を求める右翼的欲求が依然として安倍首相の取り巻きに一つの勢力として存在するのであろう。それを突破することは、憲法改定問題と共に、戦後日本の課題なのだ。

      
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