観自在菩薩冥應集、連體巻6/6・50/52
五十泉州岩室の観音の事
泉州大鳥郡岩室山観音院(岩室山観音院は大阪府堺市南区岩室213にある高野山真言宗の仏教寺院。 和泉西国三十三ヶ所霊場第八番札所。 札所本尊は十一面観世音菩薩)の本尊十一面観音は高祖大師の御作なりと云傳ふ。霊験掲焉なりと雖も古来筆記する事なければ知り難し。元禄九年(1696年)冬遠近に盗賊起こりて寺院蘭奢は必ず押し入り、佛物僧物をも云はず劫盗しけり。観音院の住持皆道も是を恐れて毎日読経誦呪怠らず盗賊を防ぎ玉へと祈念す。或る日堂中より誰ともなく大音にて住持を喚起して曰く「盗賊は悉く佛物を盗取んとす。何として深く寝入て油断するや」と。皆道驚き起れば本堂の戸を押し摧く聲頻りなり。走り往て見れば戸は破りてけれども住持の早く起きて来るに驚きて盗人は逃げ去りぬ。住持堂内に入りて見れば何となく明なること恰も晝の如し。又内陣を開き入りて見れば燈明はなけれども明にして盗賊も見へざりければ、怪しく思ひながら本尊を禮して戸を閉じ堅めて帰り臥しにけり。夜明ければ隣家の喜八郎、寺に来たりて曰く「昨夕は寺内に別事なく候や」と。住持の曰く「恙なし」と。喜八郎が曰く「不思議なり。昨晩はせがれ小万腹痛せし故母子共に少しも眠らざるに夜半過ぎに観音堂の戸を打ち破る音しければ定めて盗賊の入るならんと思へども、女の身なれば恐ろしさに外へ・・・居りたり」。時に住持思はく「さては盗賊・・れども本尊の・・霊にて光明を現じ剰へ我を呼起こし玉ふ故に盗賊逃げさりたるなめり」と大に悦び涙を流して信心倍増しいよいよ修供怠らざりけり。誠に不思議の感応なり。