観自在菩薩冥應集、連體。巻2/6・8/24
八貧女長谷の観音に祈って如意宝珠を得る事。
光仁天皇の御宇に大和國葛城の麓に大中臣の成光と云者あり。娘三人あり。世に逢ずして事の外に貧にして命を繋ぎかねたり。寶亀年中に長谷に参篭し毎日千禮の信を竭し普門品を誦じ寶号を唱て怠らず至心に祈誓すらく、願はくは観自在菩薩我に如意宝珠を授け玉へと、泣く泣く申しけり。十日に満る日内陣より赤雀飛び出て彼の女の頂上に集まる。振落とせば左の膝に移る。又振るえば右膝に移る。立てば身に付舞ふて去らざりければ彼女不思議に思ひ二手を開きて承るに掌の上に居て驚かず恐れず。能能見れば如意宝珠なり。彼女大いに悦びて持して帰り箱の内に納めて礼拝供養せり。其れより大福人と成りて一生の間万事に乏しき事なかりき。女人死しければ宝珠も亦失せけり。輪王されば輪寶も亦滅するの謂か。蓋し朱雀は南方の神なり。宝珠は南方寶生如来の三昧耶身なり。観音も亦南海の光明山に浄土を構へ玉へり。自然の道理なるべし。