福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

密宗安心教示章その一(明治十七年三月二十一日仁和寺三十二世別所栄厳大和上示衆)

2022-03-01 | 密宗安心教示章

・ 密宗安心教示章(明治十七年三月二十一日仁和寺三十二世別所栄厳大和上示衆)

・ 第一 本来胸中章
夫れ真言密宗安心の至要を示さば、大日経王には、実の如く
自心を知なりと説給ひ、高祖大師は、真如外に非ず身を棄てゝ
何か求めんと述給へり、されば朝夕に妄念妄執にほだされ、貪
瞋邪見にまつはるゝ有漏雑染の我等が胸中に五智四身の徳、一
も闕ることなく、本来円満して備れりと達悟する是を凡聖不二
の宗要とす、但下根劣慧の者は、偏に此旨を信じて疑はず、深
く大日如来の普門の誓願にすがり奉りて、一真言に往生の信を
決し、木樵水くむ其間も、唯光明真言を唱ふれば、如来の本誓
空しからざるが故に無始已来造り累ねし、煩悩罪障の黒暗も、五
智丹満の大光明に照されて、知らず識らず消滅し、娑婆の因縁
未だ尽ざる内に、往生浄刹決定せりと露ばかりも疑はざる、是
を平生往生の真言行者と申すべきなり

・ 第二 密教大意章
つらつら真言密教の大意を案ずるに、生仏自他の差別なく本
初不生の心地に居し共に三平等の観に住して、深く凡聖不二の
旨を信ずるを以て、総じて安心の宗要とす、是故に高祖大師は
医眼の視る所、百毒変て薬となり、仏慧の照らす所、衆生即ち
仏なりと仰せられたり、是れ則ち諸法平等にして、本より生仏
一味解脱の床に住すれども、我等衆生は悟らざるが故に隔歴妄
執の我見に蔽はれて、長夜に苦を受く、此衆生をして、悉く覚
悟せしめんが為に、仏みづから真言密教を説き、群機に普応し
給ふなり、是故に此教に依る機は勝慧劣慧斉しく其益を蒙らず
と云ふことなし、是を以て興教大師は浅観但信は真に浄土に遊
び、深修円智は現に仏道を証すと述べ給へり、是れ勝慧は直に
不二の深理に契ひ、劣慧は順次に往生を成ずるの意なり、され
ば下根劣慧の衆生と雖、浄土に往生せば、再び六道の苦界に輪
廻することなく、常に諸仏菩薩に教化を受け、終に生仏同体の
悟を開き、真言秘教の理に応ぜんこと、露も疑あるべからず、
依て此度といふ此度を六道輪廻の終とし、密教値遇の縁に依り、
浄土に往生することの貴さを歓び、怠りなく真言念誦の相続を
励ますべきなり。

・ 第三 値遇密教章
それ惟んみれば無量多生の間に、受難きは人界の生、曠劫流転の中に、値ひ難は如来の教えなり。此の故に経には、人身は得難く、佛の世に値難しと説きたまへり。今われ等受け難き人身を受け尚値い難き真言密教にあひ奉ることを得たるは、是則ち宿福の成ずるところ、襄因の招くところなり。しかるを今生若し勤めずして空くこの身をすごさば、出離何れの時をか期すべけん。電光朝露の仮の身なれば早く萬事をなげうちて、後世の用心をいたすべし。其の用心は他にあらず。偏に此の真言不思議の功徳力を信受して、露疑はず、只ありがたく信ずる心の一筋に決定し、たとひいかなるときにても精神更に変ることなく、値遇密教の因縁を濠亳も忘れざる、これを決定往生の信者といふべきなり。

・  第四 顕密對弁章
それ佛教区々なれども、何れもわれ等をして転迷開悟せしむるの外はこれなし。其転迷開悟せしむるの道亦多しと雖も、これを要するに顕密の二教をいでざるなり。就中顕教に依って修業する者は、三阿僧祇劫を経て而も猶滞寂す。密教に依て開悟する者は、必ず一生に成佛す。是故に金剛頂五秘密経には、「もし顕教において修業する者は久しく三大無数劫を経て後に無上菩提を証成す。その中間において十進九退す。」と説き給ひ、又金剛頂経には「此の三昧を修する者は、現に佛菩提を証す。」とときたまひ、又龍猛菩薩の菩提心論には「唯真言法の中にのみ即身成仏するがゆえに、是の三摩地の法を説く。諸教の中に於いては闕して書さず。」と述べたまへり。されば上根正機の者は、如説に修業して、一生に成佛することを得れども、下根劣慧のものは一生に成佛すること難しとて、歎くべからず。教益甚深の勝能を備へたる密教なるが故に、仮令下根劣慧の輩なりとも、此教に値遇し奉ることを歎び、われらがごとき罪業深重なる衆生も、唯真言陀羅尼のみ有て、よく救け給ふぞと、一真言に信決定する時は、往生浄土疑ひなきなり。さていずれの浄土に往生するも、更に変りなく、皆佛智不思議の説法を聴聞し、久しからずして當に阿耨菩提を成ずべし。依りて彼の三大僧祇を経て、猶滞寂する顕教に望むれば、密教の最勝無比なることは知るべきなり。之に加えて、余の教法において定業は転じ難しと説けども、独り秘密最上の教法は、教益深甚にして、能く其定業をも転ずるがゆえに、諦信決定して真言を唱ふる者は、現当二世の利益むなしからざるものなり。(続)

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