大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第227回

2015年08月14日 14時48分57秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第210回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第227回



「違います。 ごめんなさいね」 細い指で涙をスッと拭き、一歩前に出て屈んだ。 

目の前に居る犬の身体をさすりながら言葉を続けた。

「この仔ね、山の中で拾われたんです。 犬が山の中に居るって数人の目撃情報があったらしいんです。 
ドライブウェイもあったらしくて 道路に出てしまったらどうなっていたか・・・何日かかかってやっと保護されたらしいんです。 
それで保護したものの管理センターに連れて行くのも・・・という事で色んな人の手を渡って私どものところに来たんですけど 
保護した時には引っ付き虫だらけだったそうなんです。 肉球の間にも入り込んでいてビッコをひいてたらしいんです」

「そうだったんですか」 琴音の返事も聞いていないかのように、加藤玲は何度も何度も犬の身体をさすりながら犬に話しかけた。

「そうなのね・・・山の中を覚えていたのね。 とても寂しかったのね・・・きっと今でも寂しいのよね。 
分かっていたつもりだったのに・・・気がついてあげられなくてごめんね。 
いいのよ、山の中のことは忘れていいのよ。 
これからは温かい場所が待っているんだからね。 寂しくなんてないのよ。 
引っ付き虫も、もうどこにも付いてないのよ。 痛くないのよ。 安心していいのよ」 そして犬をギュッと抱きしめた。 

涙が後から後から伝い落ちる。 その様子を何も言わずじっと見ている琴音。

(もっと何かを分かることが出来たら・・・) 歯がゆい思いが心の中に広がる。  

「ごめんなさい。 とんでもないところをお見せしちゃって」 立ち上がり、リードと共に持っていたタオルで涙を拭いた。

「あの それワンちゃん用のタオルじゃ・・・」

「あ! そうだったわ。 お化粧がついちゃった。 ゴメンねお化粧臭くなっちゃったかも」 またすぐに屈んで犬を撫でる。

「え? そっちですか?」

「たまにしかしないお化粧だから 匂いを嫌がってるみたいなんですよね」

「やっぱりそっちなんですね」 クスッと笑い

「何かしら・・・加藤さんって・・・」

「え? 何ですか?」

「とってもいいですね」

「え?」 立ち上がり琴音を見た。

「何故か分かりませんけど話しているととても楽です。 私、結構人見知りなんですけど 加藤さんとは楽に話せます」 波長が合うようだ。

「まぁ、嬉しい。 そう言ってもらえると頭に乗っちゃいそうです」 二人でクスッと笑い琴音が話を戻した。

「解決できるお話ならまだしも、要らない事を言ったんじゃないかしら」 自信無さ気に琴音が聞くと

「そんな事はないですよ! 今のこの仔の中にある記憶を教えてもらえて良かったんですから。 
記憶を塗り替えられるように頑張る励みになりました」 その返事を聞いて少し安心した琴音がポツンと言った。

「でもどうして山の中なんかに・・・」

「迷子の可能性もありますから色々捜してみたそうなんですけど、相当する迷子情報もなかったそうです。 
それに迷子の可能性が低い感じもしましたから。 多分、山の中に捨てられたんだと思います」

「捨て犬さんって事ですか?」

「多分・・・。 田舎の山の中ですから、迷子犬だとしたら村の人達が知っている犬のはずですが、どこの村の方に聞いてもご存じなかったそうです。 
それに山の中を探して歩いて下さっていた方が袋に入ったドッグフードや犬用の玩具を見つけたと仰っていましたから」

「それは? どういう意味ですか?」

「多分ですけど 捨てた時に玩具と余っていたドッグフードを袋ごと一緒に置いていったんでしょう。 それが沢に落ちていたみたいなんです」

「少しでもワンちゃんが寂しくないように、お腹を空かせないようにと考えたんでしょうか・・・」

「殆どありえませんよ。 あっても1割も考えていないと思いますよ。 余ったフードや玩具の処理が面倒臭かっただけだと思います」

「今まで飼っていたワンちゃんなのに?!」

「どんな捨て方をしようが 捨てた事には間違いないんですよ。 
仮にお腹を空かせないようにフードを置いていたとしても それは自分に対する言い訳みたいなものですよ。 
以前、箱に入って捨てられていた犬が異様なお腹をしてたんです。 何か想像できます?」

「異様なお腹って・・・お腹に赤ちゃんですか?」

「ブッブー。 私も初めての時はそう思ってすぐにレントゲンで見てもらったんですけど違いました。 
まるで今にも産まれそうなほどのお腹だったんですけどね。 
捨てる前に可哀想と思うんでしょうか。 誰かに見つけてもらえるまでお腹を空かせないようにって、異様なほど食べさせてから捨てたんです」

「ええ!?」

「信じられないでしょ?」

「なんて考えればいいのかしら。 その・・・お腹を空かせないようにと考えるのは分からなくもないです。 でもそんなに異様なほど食べさせるなんて」 

「でしょ?」

「それに可哀想と思うのなら どうして次の飼い主さんを探そうとしないのかしら!」

「でしょ、でしょ。 だから捨てる前に何をしても それは自分への言い訳に過ぎないんですよ」

「あー、どうしてそんな人がいるのかしら! 同じ人間として情けないわ! このお腹からくるイラっとした物は何なのかしら!!」 

琴音、注意しなくちゃ。 加藤玲の怒りの波動に同調してしまったんだよ。 怒りはいけないと正道にも教えられただろう?

波長が合うだけに色んな波動を貰いやすくなる。

後ろから声が掛かった。

「琴音さん?」 正道だ。

「あ、正道さん。 いつの間に?」

「たった今来たんですけど 珍しく琴音さんの大きな声が聞こえましたね。 こちらの方は?」

「あ、レスキューの方で・・・え? 正道さんとレスキューの方は お会いされてたんじゃないんですか?」 それを聞いて加藤玲が

「初めまして。 加藤玲です。 正道さんがお会いされたのは代表である私の兄の忍です」 それを聞いていた琴音が

「ああ、そうだったんですか。 え? お兄さん? でも正道さんがお会いされたのはたしか女性じゃありませんでしたか?」 正道の方を見て言うと

「そうです。 加藤忍さんと仰る女性の方で・・・お兄様ではありませんでしたよ」

「うふふ、忍の戸籍は男なんです」

「えっ?」 正道も琴音も驚いた顔が隠せない。

「ついでに言うと私もです」 片方の口元をイタズラっぽく上げた。。

鳩が豆鉄砲をくらう・・・正道と琴音の目は正にそうなっていた。

「そんなに驚かないで下さい。 ね、琴音さん 私一度も女性って言わなかったでしょ? それに兄も言ってないはずですよ」 琴音を見ていた加藤玲が正道のほうを見て言うと

「そう言われればそうですな。 ・・・琴音さん、思い込みほどいい加減なものはありませんな」

「はい。 そうですね」 琴音はまだ豆鉄砲状態だ。 だが正道がやってきたお陰で 怒りの波動が大きくなることなく消えた。

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