▼北国の冬の田舎暮らしは単調だ。単調な生活は説明にも値しないが、反対語の「多様」を否定すれば、いかに単調かが実感できるはずだ。
▼最近、猛吹雪の「ホワイト・アウト」という言葉と、地震で北海道全域が停電した「ブラック・アウト」が、北海道のマイナス・イメージになりそうな感じがしてきた。
▼「アウト」ではなく「イン」であれば良かったのではないかと思う。「ホワイト・イン」なら「白い恋人」や「ダイヤモンド・ダスト」を連想するし「ブラック・イン」なら「北の国の夜空に輝く宝石群」だ。
▼要は、どうとらえるかによって、気分が「明か暗」かに別れるのだ。だが、今年のように寒波が厳しい、私の地域(人口900人)では、外に出ても誰一人歩いていない。
▼そうなると、一日中家から出ることは無いので、おのずと考えがマイナス思考になる。だから、アベ総理批判が炸裂してしまうのだ。寒さで腰痛が出てきたのも、アベ総理の責任にしてしまうのだ。アベ総理、ゴメンナサイ!
▼そこで昨夜、浅草の屋台で一杯やりながら「落語」を聴くという、洒落た気分を味合うことにした。野暮な田舎暮らしで、銭湯帰りに屋台で一杯などという雰囲気も味合えないので、数年前自分で縦60cm横85cmの、一人用の屋台を作ったのだ。
▼自慢するわけではないが、大工としての技術はさて置いても、建具職人から褒められたので、皆さんも立派なものだと想像してほしい。
▼客の反対側から、粋な年増のお姉さんがお酌してくれるように細工してあるのだが、私の妻がその役を引き受けてくれない。私が考えた理想の屋台に、いまいち届いていないというのが現状だ。
▼小さな引き出しには、〆にラーメンを食べられるように、それらしい手作りの具材も入っている。ウイスキーのミニチュア瓶もある。屋台の飾り物は朱の杯だ。「日露戦争凱旋記念・陸軍歩兵中尉0000」とある。なぜ我が家にあるのか不明だ。
▼この杯を眺めながら「北方領土奪回アベ総理突撃」と、心の中で応援している。さらに、東京の屋台の雰囲気を醸し出すのは「東京スカイツリー」のミニチュアだ。友人からお土産でいただいたのだが、三色に輝き東京の夜を演出してくれる。
▼部屋の電気を消し、赤ちょうちんに灯をともす。ついでに野暮なテレビジョンなども、消去だ。熱燗のお銚子は、「菊正宗」と印字してある。「西田佐知子(菊正のCM )の♪アカシヤの雨に打たれて♪このまま長生きしたい?」の歌声も、どこからか流れてくる雰囲気なのだ。
▼カセットテープから出囃子が聴こえてくる。今日出演は、柳家金語楼・桂小金治・桂三木助だ。外に出ての運動量はめっきり衰えているが、大声で笑い拍手までし名人寄席を楽しんだ。
▼取りは三代目三木助の「芝浜」だ。三代目は一時引退し、踊りの師匠になったこともあるという。ばくちは本職はだしで「隼の七」と異名をとったという。粋でいなせできめの細かい語り口だと、解説にある。
▼「芝浜」は落ちがわかっていても、落語家の話術に吸い込まれて最後を迎える。ほろっと来て思わず拍手をしてしまい、銚子をもう一本つけようとしたら、傍らで我が女房の「ホワイト・アウト」のような目が。
▼「芝浜、本当に理解しているの」という、目でもの言う妻の名人芸が光っていた。
▼「一人屋台寄席」の一席でした。